第15話 同衾は回避されました

 「なるほど、服のデザインは変更できないのですね?では、その衣装のままお眠りになると……?」

 お風呂で肌を見せあって以降、急激に過保護な世話焼きお嬢さんと化した理珠さんに座卓の反対側からジト目で睨まれました。


 え?これ私が悪いんですか?

「だって、服は持ってないですし、全裸で寝るわけにも行かないですよね?」

 あれ?なんか理珠さんすごい表情してませんか?

「ちょっと待って頂けますか?服を持っていないというのはどういうことでしょうか?まさか、ご自分の服を一着たりとも所有してないと、そんなわけはないですよね……?」


 あ、この表情わかりました。見覚えがあります。競馬で大金を注ぎ込んで買った馬券が出走直後に紙切れになった元同期と同じ表情です。

 嘘であってくれと願ってる感じの表情ですね?

「いや、私、服を買うためのお金を持ってませんし、それに、貰っても置いておける場所が無いので……。ほら、貰ったもの全部持ち歩いてたら大変でしょう?戦闘に参加する時とか、そのへんに放ったらかしにすることになりますし。

だったら、変身解除出来ないのを逆手に取って魔力で服を作り出せば洗濯の手間もかかりませ……あの?理珠さん?」


 「セヴンス様?わたくし、ホワイトラビットさんから寝る場所はあると伺っておりまして、でしたら、何かしらの帰る家があるものだと思っていたのですが……。

「置いておける場所が無い」というのは、一体どういう事なのでしょうか?」

「ね、寝られる場所はあるんですよ?ほら、私の魔法で作った影の中!その中なら不審者とかも入って来る心配がありませんし、寝たり休憩したりは問題なく行えるんですよ?」


 私の話を聞いているうちに、理珠さんは今にも泣き出しそうな、でも怒っているような、そんな表情になっていきました。

 えええ?アラサー女のちょっとした不幸話の何処にそんな泣きそうな要素が……って!

 そりゃそうですよ!今の私は傍から見れば可憐な(笑)中学生ぐらいの女の子。そんな子が、お金もナイお家もナイ、ナイナイばっかで服もナイなんて言ってたらカワイソウ・パワーは53万どころの騒ぎじゃないですよ。


 お風呂での様子から、私の肌が何らかの、普通に生活していたら起こり得ないことでの外的損傷と認識されてると思われますし。

 そして、理珠さんは私に命を救われたと思ってる、お金持ちの家の娘さんです。 

 これは、小市民的な尺所で考えると受け取るのが怖いレベルのお返しをされるやつですよ!

 しかも、わたくしの命の値段を値切らないでくださいとかそういう説得されて断れないタイプの!


 「セヴンス様?わたくし、少し母と話をしてきますので、ここで待っていてくださいますか?もう一度言いますね。ここで、待っていて、くださいますか?」

 大事なことらしく、2回言われました。いや、こう、私がこっそり逃げようと考えたりしてるのが見透かされてる感がありますね。


 というか、多分私が置かれている環境に対してなんでしょうけど、めちゃめちゃ怒ってますねコレ。

 ……ここは腹をくくって、金銭以外のお礼だったらある程度受け取る覚悟で行きましょう。

 いや、それでも限度はありますけどね?





 お茶請け美味しいです。

 私が現実逃避にやや飽きたぐらいの時間で、理珠さんは部屋に戻ってきました。

 ……ご母堂様を連れ立って。

 この、見ただけで察せられるあらあらうふふ感はなかなかないですよ。理珠さんの顔に優しさをどどっと増量したようなお母様ですね。胸部装甲は……遺伝なんですね……。ツヨクイキテ。


 理珠さんのお母様は、座卓の反対側、理珠さんの隣に座りました。

「セヴンスさん、初めまして。理珠の母、水流崎信乃つるさきしのと申します。事情は……事情?これは状況のほうが正しいのかしら?理珠さん?」

 あ、ほけほけした性格でいらっしゃるご様子。


「状況、ですね。どういったご事情で現在のような環境に置かれているかは、知られたくないご様子ですので聞かないであげて頂けますか?お母様」

「はいはい、わかってますからね~。まず、セヴンスさん?うちの理珠の命を救っていただいて、ありがとうございました。この子、すぐに自分が我慢すれば、苦労すればって背負い込むから~。昔もね~……」

 ああ、やっぱり理珠さんそういう性格っぽいですよね。でも、お母様このままほっとくと話進まないやつじゃないです?


「セヴンス様の生活についての提案なのですが、我が家は家柄の関係上部屋数も多く、使っていない部屋もかなりの数がございます。ですので、セヴンス様の抱える問題が片付いて、ご自分の邸宅が確保できるまでの間で良いので、我が家を自分の家と思って暮らして頂けないかと母と相談いたしました」

 なるほど、お母様が暴走したら無視するスタイルなんですね?というか、自分の過去話を延々と垂れ流されてるのに強いな理珠さん。


 しかし、部屋を貸してもらえるというのはありがたいですね。流石に影の中で寝るのも、頭の中の魔力を使っている部分が稼働していないと影の世界から弾き出される仕様の都合で完全に熟睡するというわけにもいきませんでしたし。

 家を一軒差し上げますとかいうぶっ飛んだお礼じゃなかったので罪悪感無く受け取れる範疇なのがありがたいです。仮拠点としては申し分なしですね。

 

「そうそう、セヴンスさんならうちに住んでもらっても構いませんからね?お洋服も禄に持ってないんですって?ダメですよそんなのは。季節と状況に合わせて着られる服を最低10着は用意しましょうね?馴染みの仕立て屋を呼んで……。

 ああ、理珠さんとおそろいの服なんかもいいかも!お食事も出しますからね?セヴンスさんはどう見ても痩せすぎですよ?ゼリー飲料?みたいなのばっかり食べてたらダメよー。良いものの味も悪いものの味もわからなくなっちゃうからー。

 他にも必要なものがあったら何でも言ってね?家具は流石に置いてあるものを使ってもらうけど、その他の小物は今度理珠さんとも一緒に買いに行きましょうね?お小遣い含めて50万ぐらいあれば足りるかしら?」

 はいストーップ!


 お小遣い含めて小物代で50万って何です!?私、社会人時代のボーナスでもそんなに貰ってなかったですよ!?

 って、なんで理珠さんもうんうんって納得顔で頷いてるんですか!?金銭感覚狂ってると社会に出て苦労しますよ!……いや、苦労しない家系に居るのか……。

 というか、服も買いに行くんじゃなくて仕立て屋さんを呼んでオーダーとかする勢いなんですね?なんですかそれ?

 「いえあの、世間的に小物とお小遣いで50万は高すぎてですね……?」


 その後、とりあえず生活に必要だと思うものを買い集めた後はお小遣い3万を残して返却するという話で納得して頂けました。案の定、理珠さんからわたくしの命の値段はそんなに安くありません的なテンプレが聞こえましたが。

 まあ、欲しい物があったら言ってくれれば買うからーって笑顔で言われましたので実質青天井な気も……。


 というか、服も生活用品も全部揃えてもらうって、仮拠点とかいう話じゃなくなってますねコレ。

 なお、その日はお部屋の用意が済んでないとかで、理珠さんと一緒の部屋に泊まらせて貰いました。

 ……この家の規模で客間が用意できないとか多分ありえないので、これ理珠さんのわがままとかじゃないです?

 あ、同衾はしてませんからね?

 ちなみに、ひさびさのお布団が気持ち良すぎてマッハで夢の中でした。




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