第8話 バニーガールと機関銃
はい、現場の魔女セヴンスです。現在三階建のビルの上から実況しております。
警報より早く現着したのか、魔生対の魔法少女の方が戦闘を開始していました。
地域的に、エリア担当のローカル魔法少女じゃなくて初動対策課の方ですね。
で、ですよ?
もう、何の説明もいらないレベルでバニーさんです!
薄い金色の長い髪にうさみみ、モデル体型の細い身体を彩る白いバニースーツと網タイツ!
そして絶え間なくぶっ放される二挺のアサルトライフル!
……アサルトライフル!?なんで!?
新聞で読んだ感じ、多分あの方は白兎の魔法少女、ホワイトラビットさんだと思うのですが……。
兎が魔力根源で、何故にアサルトライフル二挺拳銃!?
魔力根源さんが何を考えてるのかわからない……。
いや、まあ彼女の中で何かが納得させる要素になっているのでしょう。個々人の魔力根源との関係性は多分、考えたら負けなやつです。
相手の魔物は……。
っ!?
魔物の姿を確認した瞬間、
ほぼ同時に3体並んだ、4枚の花弁を広げ2つの蕾を掲げた花の魔物から大量の花粉が撒き散らされます。
アレ絶対エ○リアの悪夢じゃないですか!アレ相手に何回hageた事か!
え?なんで◯トリアの悪夢が魔物になって実体化してるんです!?2007年発売のゲームのネタですよ!?
……あ、もしかして最近リメイク版とか発売されました?トラウマ製造機だからヘイトが集まって魔物の原型になったんですかね?
花粉は風に乗ってこちらへ流れては来るものの、気流の関係でビルの上は安全地帯になっています。
「び、びっくりするからいきなり引っ張るのはやめてくれない!?」
美人のバニーさんにキレ気味で怒鳴られました。顔が良い分、怒った顔の迫力がすごいです。しかし、魔法少女の変身って美形化補正でもあるんでしょうか?出会う人出会う人美人なんですけど。
「申し訳ありません、驚かせるつもりはなかったのですが……。あの花粉は致命傷になりうる攻撃だったので、身を案じるあまり思わず……」
「花粉……?」
バニーさんがビルの下を覗き込みます。悪辣な事に、目に見える花粉では無いのでパッと見ではわかりませんが、魔法少女的には魔力で感覚的に何かがばらまかれたのが察知出来るはずです。
魔力のみで構成された花粉なのか、ある程度以上拡散すると花粉という性質を保てなくなるのか消失するようですね。
「なるほど?見えないけど魔力が風に乗って流れていくのを感じるから、それが花粉とやらなんでしょう?。アレに何かヤバい性質があったのね」
私の説明に納得すると、ホワイトラビットさんはこちらに向き直って
「助けてくれたことは感謝してあげる。でも勘違いしないで?私だって初動対策課の魔法少女よ。あの程度の攻撃、いくらでも対処のしようはあったんだからね。」
薄い胸を張って(人のことは言えませんが)……。
「貴方が『魔女』セヴンスさんね?どうしてか、あの花の魔物の性質を知っているようだから私を手伝わせてあげる!」
尊大な態度でこちらに微笑みかけました。
これで不快感を与えないんだから美人は得だなぁと思わざるを得ません。
危険な花の魔物に目を向けると、ホワイトラビットさんの姿を見失ってしまったのかコミカルに見える動作で3体ともがキョロキョロしています。
……目が無いのに周囲を見回す理由はなんなのでしょうか?視覚に対応する器官でもあるんでしょうかね?あ、よく見ると蕾の中に目がありますね?
「ゲームのモンスターが魔物化したヤツなので知っているだけですよ。特徴は花粉の強力な睡眠効果です。アレを吸い込むと高確率で寝ます。もうそれはぐっすりと、殴られても起きないレベルで!」
「……魔法少女としては単独行動中に眠らされたら終わりだし、やっかいね。特に花粉が目に見えないところが。魔力での感知になるとどうしても反応が遅れるのよね。弱点はないの?」
顎に指を当てて、首を傾げてちょっと記憶を引っ張り出します。ええっと、どうでしたっけ……。
「弱点はゲームだと、斬撃と炎……だったような。耐性とかは無かったはずなので、倒すだけなら火力でゴリ押すのが手っ取り早いのではないでしょうか?即席のコンビネーションでは出来ることも少ないでしょうし。何か手はありますか?」
「魔力で構成されてるとはいえ、花粉は風の影響を受けるのでしょう?だったら、こういうのはどうかしら?貴方の手札と私の手札、合わせれば楽に勝てるはずよ?」
ホワイトラビットさんが提案してきた戦法は、まさに私達の性能を押し付けるゴリ押しでした。
「では、手筈通りに行きます!」
「ぬかりなくね!」
敵がいなくなったと見なした花の魔物達が移動を開始しようとしたところで、私達は再び戦端を開きました。
「ショウダウン!
ホワイトラビットさんが速度強化・脚力強化の魔法を使ってビルの壁面を駆け下ります。当然、駆け下りながらも両手のアサルトライフルをぶっ放すのは忘れてません。
「
私は影に潜って、ホワイトラビットさんが注意を引いた花の背後へ回ります。
3体の花から無数の蔓が彼女へ伸ばされますが、高速で駆け回る彼女にまるで対応できていません。
いや、というかめちゃめちゃ速いですね彼女。普通に人外の速度です。残像とか出てません?
壁を走って駆け上がったり、街灯を足場に飛び回ったりアメリカのヒーロー映画みたいです。
魔法で足は速くなっても思考速度は普通の人と変わらないはずなので、あの速度を制御して三次元軌道で駆け回ってる彼女の戦闘センスは一流と言っても過言ではないでしょう。
っと、花粉攻撃来ますね!
ボフッと、やや気の抜ける音と共に不可視の花粉が大量に撒き散らされます。
それとほぼ同時に
「
周囲に大量の棒付き手榴弾が降り注ぎます。って、それはマッシュポテトじゃなくてポテトマッシャー手榴弾です!
閃光、爆発、爆風が荒れ狂い、花の周囲だけではありますが、花粉が爆風によって吹き飛ばされて「安全地帯」が発生します。
ただ、このままでは蔓の触手を振り回されて容易には近づけません。
ですので……。
「
ホワイトラビットさんへ伸ばそうとした蔓を、片っ端からワイヤーで束ねて処理します。ついでに魔力吸収もさせてもらいましょうねー。
「良い腕ね、期待通りだって褒めてあげる!」
手数の減った安全地帯に、高速疾走バニーガールが獰猛な笑みを浮かべて突っ込んできます。
そういえば、この人最初に驚いて怒った時以外ずっと笑ってますね。常に自信満々なのはちょっとかっこいいかなぁと思います。
「ショウダウン!
両手に持ったアサルトライフルが、魔法によって大口径のショットガンへと姿を変え……。
「スラムファイアー!!」
左右それぞれのショットガンを別の花に向け、ほぼゼロ距離でリロードも無く撃ち続けます。
新聞情報曰く、いわゆる彼女の必殺技……の一つで、魔力の続く限りリロード無しで弾丸を撃ち続けるモードらしいです。
やー、響き渡る銃声も相まって派手ですねこれは……。
「では、私は地味な仕事をやりましょうか」
残り1体の花は私の鎌の餌食です。
ダンスでもするようにくるくると鎌を振り回し、担当した花の魔物を膾に刻みます。
3体同時に出現していたのでめんどうでしたが、1体だけなら正直雑魚ですね、この危険なお花。
ホントは、影の中から
一応、無理矢理実行しようと思えばやれますが、魔力消費が乗算で跳ね上がるので、魔力ゾンビと化してる現状の私だと事実上使用不能なんですよね。
なんか絵面が派手なら許される気配がありますが、残念ながら見た目が派手な魔法は私の感性に合わない様で扱えません……。
なんかこう、地味なのに対処に困る能力とかのほうが好きなタイプみたいでして。
さて、倒された魔物は一切の物理的残骸を残さずに魔力の粒子となって拡散して消えます。
まあ、今回は消える前に私がごっそりと吸収するのですが。
「片付いたみたいね」
魔物の消滅を確認して、兎娘さんのショットガンが金色の粒子となって溶けて消えました。
「一人で相手をするよりは随分楽をさせてもらったと思うし、うん、感謝してあげる。私に直接お礼を言われるなんて滅多に無いんだからね?光栄に思いなさい?」
そして、尊大な口調でこちらに笑いかけてきます。だから、これが嫌味にならない美人さんはずるいと思います。
と同時に、大量の魔力を回収したお陰で活性化した内臓機能がとある欲求を爆音で主張します。
恥ずかしい!恥ずかしいですが、ここは恥を忍んで食べ物を要求しなければ!
あまりの音にびっくりしたように目を見開く兎娘さんに向けて、私は口を開きました。
「感謝はいらないので、な、なにか食べるものを頂けないでしょうか……」
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