第7話 くうくうお腹がなりました、爆音で。

 お腹がへりました……。


 身体機能は、魔力で維持されてるとはいえ一応正常に動いはいるわけで、それに伴う身体からのサインも当然現れるのです。

 つまり、空腹と眠気……。


 眠気の方は良いのです。影の中をいい感じの気温と湿度と重力にしてその中で一夜を明かせば安全に、好きなだけ寝ることが出来るので。

 問題はこの空腹です。なにせ現金がありません。

 窃盗は容易でしょうけど、この目立つ姿がカメラに映っていればそれだけでほぼアウトです。魔法を犯罪に利用したとして、生き返ることが出来たとしてもその後の人生日陰ぐらしまっしぐらのコースになってしまうので選択肢として絶対にノゥです。


 コンビニやらスーパーやらの廃棄品をゴミ箱から失敬するのもやはり、この姿が問題になります。

 ゴミを漁っている姿が誰かに撮影されて、ネットに広まってしまったら……。

 今後、魔生対の魔法少女達にどんな目で見られるか……。

 だって、今の時代、魔法少女の情報を専門に扱う新聞すらあるんですよ!?


 変身状態と、非変身状態が同じ人物だとバレないように、変身時に偽装の魔法が自動発動する事は図書館の資料で調べました。

 でも、私の場合この簡易変身、変身を解いてる扱いにならないみたいなのです……。


 クラゲの魔物を倒した日から3日連続で図書館で過去の新聞やいろんな資料を閲覧させて頂いてるのですが、2日目から明らかに周囲の注目を集めまくってます!


 というかですね、危険を冒してでも魔法少女の戦闘映像を撮影するのを禁止しているため、代わりに公式で画質バッチリの動画を公開してますとかなんですか!?

 しかも、公的資料としてバックナンバー全部図書館で閲覧できるとか!


 んで最新映像見ましたよ。

 私めっちゃかっこよかったじゃないですか!

 じゃなくて、私が目立ちすぎなんですよ!

 ……10年でカメラの性能もだいぶ上がったんですねぇって遠い目をするぐらい綺麗に撮影されてました。


 お陰で、今も遠巻きに観察というか鑑賞というか、「え?本物?」みたいな視線がめっちゃ突き刺さってます。

 ええそうです、この、新聞記事を読み漁りながらお腹くうくう鳴らしてる眼帯銀髪美少女が魔女セヴンスさんですよーっと。

 この姿で生活せざるを得ない以上、こういう視線は今後もずっと増えていくでしょうし諦めるしか無いのが悲しいところです。


 で、魔生対ですよ。

 これ、日本国民全員知ってるはずのヤツじゃないですか。

 中学生に、警察って知ってる?って聞いて知らないって答えられたみたいな反応されたの当たり前ですよ。

 だって警察と同程度には重要な公的サービスなんですもの。


 これ、確実に何か今まで問題のある環境で育ってきて、最近そこから逃げ出したみたいな印象になってますよ。

 ……いや、それはソレでいいのかもしれません。

 私が連日図書館通いなのもどうせネットで拡散されているでしょうし、チラっと見れば過去の魔法少女関連の記事を漁っているのもわかります。

 下手すると、ずっと図書館に居て食事を摂ってる様子が無いのもバレているかもしれませんね。


 となれば、戦闘を手伝った見返りに食料支援をお願いしたら通じるかもしれません。

 だって、何かの事情で変身を解除することすら出来ない何処かから逃げ出してきたらしき可哀想な少女?がご飯をくださいって言うんです。

 これは人として1食奢ってあげようってなりますよ。私だったら現物支給で数日分プレゼントコースです。

 学生にご飯をタカるとか、元アラサーの大人だった人間としてちょっと精神的にクるものはありますが、この空腹感は如何ともし難いのでしょうがないのです。

 ……魔生対・初動対策課の上司の方がまともな大人なら経費で落ちるでしょう。きっと。


 しかし、魔生対。これめちゃくちゃしっかりした組織ですね。いや、公共機関として当たり前なんですけど。


 魔法少女の皆さん、昼間から戦闘に駆り出されて、学校とかどうしてるのかなって思ってたんですよ。

 調べてみたら、本部で年齢に合わせた授業が受けられて、これが学校で授業を受けたのと同等の処理をされるそうなんですよ。

 しかも、人数的にほぼマンツーマンの授業で教師のレベルも高く、魔生対本部所属の学生はほぼ全員成績が上がっているらしいです。

 お給料も出て、授業も受けられて、大学進学時の推薦も貰えるとか。

 まあ、命を賭けて戦っているのですから見返りは十二分に必要ではありますが。

 数日置きになんだかんだ命がけの戦闘をしているわけで、危険度は自衛隊とかの比じゃありませんからね……。


 魔物との戦闘もかなりシステム化されていて、人口密集地には地域ごとに担当魔法少女が配属されていて、魔物発生時は地域担当もしくは、地域担当の戦闘から最適と判断された本部所属の担当が転移の魔法少女の魔法でワープして来て戦う、と。

 地域担当が居ない場所に魔物が発生した場合は、解析班と呼ばれるスタッフが遠距離から撮影した映像や魔力量から相性の良い魔法少女を選出して送り込んでもらう、という感じらしいです。


 水流崎さん、というか魔法少女ウィステリア・ヴェールが苦戦してたのは解析班の分析ミスとかそういうのでしょうかね。まあ、お陰で魔力いっぱい吸えましたし、私的にはお得でした。


 で、システム化の甲斐があってか日本の魔法少女損耗率……、魔法少女が戦闘で犠牲になる比率は諸外国に比べてとても低く抑えられているみたいです。

 何故か日本の魔法少女がやたら強いという、原因のよくわからない要因もかなりある様子ですが。

 で、その強い魔法少女の中から選ばれた10人が初動対策課と呼ばれる精鋭部隊に配属されている、ということらしいです。

 現在10人というだけで、有望な魔法少女が見つかれば人数は増えるみたいですけどね。


 魔物も色んなタイプがあるらしいですね。

 恐怖、畏怖、憎悪、嫌悪と、特定の生物やモチーフに負の感情が集まるとその要素を持った魔物が生まれやすくなるようで、生物から天災まで色んな要素を持った魔物が発生していた記録がありました。

 面白いのは、ホラー映画の怪物やゲームの敵モンスターなんかの要素を持った魔物も発生している所です。

 しかも、負の感情が集まったから強いとかそういう物は一切関係ないらしく、災害のイメージから発生した魔物よりホラー映画モチーフの魔物の方が魔力量が多かったり関連性が未だに不明らしいです。

 イツァナグイにもう一度会ったらどういう算出方法なのか質問しておきたいですね。


 全体的に知能は低いらしく、未だにコミュニケーションが取れる魔物は発生していないみたいです。

 人の形をした魔物自体は何度か発生したらしいのですが、ほぼゲームの敵キャラクターの様な決まった単語を繰り返すだけだったようで……。

 まあ、人間並みの知能を備えた魔物が発生したら速攻で現場から姿を晦まして、人が消えてもおかしくない地域で異界へ拉致を繰り返すとかやると思うので知能が低いのは人間にとっては良いことですね。

 と言っても、低すぎると前回の水流崎さんの様に相手の反応を利用した戦術が通用しなくて逆に苦労するパターンとかもある様子ですが。


 他の特徴としては、魔物の周囲に発生する謎の電波妨害でしょうか?

 魔物が垂れ流している魔力がなんか、電波の拡散を阻害する性質があって、魔物の発生数秒後から、魔物が消滅して十分ぐらいの間、周囲の電子通信機器は機能しなくなるのだそうです。


 といっても、有線なら当然問題はありませんし、逆にこれだけ通信網が発生した日本の場合は魔物発生地域の目印にもなるということで、魔力のみでは場所を完全には特定できない現在の科学力では逆に無いと困る能力になっています。

 まあ?私は?常時魔力が体内を巡りまくってるのが原因なのか、間に魔力的な障害物でも無ければ超広範囲で魔力を感知できる能力を持っていますが?(どやぁ


 でも、日本は良いのですよ。

 張り巡らされた対魔物の監視網と転移の魔法少女のお陰で、国内に発生したほぼすべての魔物を処理できていますから。


 大変なのは国土が広くてカバーできない系国家です。

 アメリカさんは、軍備にモノを言わせて魔法少女を戦闘機で現場までデリバリーするシステムと、魔法少女自体にいろんな追加装備をゴテゴテつけて戦わせることで戦力アップを測っている事でそれなりに対応できているらしいです。


 「大いなる力には大いなる責任が伴う」論が強く、覚醒した魔法少女がほぼ全員戦力志願してる状態や、引退した魔法少女を主役にした魔法少女ヒーローものの大作映画を作って「魔法少女=かっこいい」を広めていることも合わさって、かなりの戦果を収めています。

 まあ、日本はイメージアップ戦略以前から魔法少女=子ども達の憧れの的なので色々アレですが。魔砲少女とか3話で先輩が死ぬやつとか大人にも人気がありますし。


 大問題なのは、国土広いけど人権が軽い系国家のアレコレとか、国土広いけど環境が厳しくてインフラがアレで最近戦争始めちゃった系のアレコレですよ。


 人間を異界へ拉致した魔物は数ヶ月以内にまた現れるそうです。

 で、その時の魔力量は拉致以前の、最大で5倍近くまで跳ね上がるのだとか。

 普通の女性が拉致された場合は、まあ強くはなっても一回りって感じらしいですが……。

 魔法少女が拉致されると強化具合がヤバいようです。多分、異界とか言う魔物の世界で魔力を散々に搾り取られて吸収されてるんじゃないでしょうか?完全にウ=ス異本案件です。

 思えばクラゲくんも見た目とてもエロゲーでした。なんですかあの肉っぽい触手!○ィーナスブラッドじゃないんですよ!?クラゲの触腕って普通本体と同じ色じゃないんですか!?


 で、まあ、それらの国は初動がうまく行かないせいで、普通の魔物が発生しただけなのに数回の拉致の後に凶悪な魔力量を持った魔物と魔法少女が戦闘するケースが多くて損耗率がヤバいらしいです。

 ……まあ、そんなんだから他の国から人を攫ってきて実験に使うんですよ。いい迷惑です。

 いや、それ以上に魔物が迷惑なのはわかってるんですけど。

 

 ぴんぽんぱんぽーん

 魔物発生情報です。15時20分頃、市内で魔物が発生しました。

 警戒レベル3以上の避難推奨地域への移動はお控えください。

 繰り返します……。


 おっと、近場に魔物が発生したようですね。

 私にとっては幸運です。さっさと魔力の補給に向かいましょう。

 ……しかし、警報と同時に一気に視線が集まりましたね。

 ここはサービスしておきますか。減るもんじゃないですし!

 

 「恩寵顕現グラーシア・マニフェスタティオ!!」

 私の変身中は、防御といやらしい視線カット用の黒い稲妻を纏った黒い布が球を作ります。

 隙間から見えてる?大丈夫、雷がいい感じに局部を隠す仕様になってるから!サービスだよ!完全に全部隠すとそれはそれでかっこよくないですからね!

 「魔女・セヴンス、限定降臨エクスクルーシブ・アドヴェント!」

 さて、現場の魔法少女の人がご飯奢ってくれるといいなぁ……。

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