第3話 わしと契約して魔法少女になったよ!

 寒い。

 いや、寒いというか冷たい。

 え?何これ氷でも抱いてるんですか?え?

「って凍えちゃうじゃないですか!」

 叫びながら私は目を覚ました。


 薄暗い視界と、目の前には霜の付いた壁、ってマジで氷抱いてるみたいな感じで寝てたんですか!?

 慌てて身を起こそうとしますが、何か筒の様な物の中に入れられているのか身動きが取れません。


 光が差し込む方を見上げれば、頭上の、端の方に少し隙間があるようなので、そこからこう、蓋をずらすみたいにして動かせないかと手を差し込んでみます。

 というか、急がないとほんと凍死しちゃいますからこれ!まず、なんで全裸なんですか私!


 歯を食いしばりながら力を入れると、徐々に蓋がずれてなんとか通り抜けられそうな隙間が出来たので、急いで外に出ます。

 そこは棺桶の様な機械が並んだ実験施設か何かのようでした。

 書いてある文字からして、えーと英語じゃないですねこれ。キリル文字……でしたっけ?


「あー、だんだん思い出してきた。拉致されたんでしたっけ私……」

 寝ぼけ頭を叩いて思い出してみれば、ブラックな会社に嫌気が差し、退職届を社長の顔面に叩きつけて帰宅する途中で、私は外国人の集団に連れ去られてしまったのです。

 それで、あれよあれよといううちにこんな感じの実験施設に連れて行かれて、なんか薬を注射されて……。

 最後は、麻酔っぽい何かで眠る瞬間で記憶が途切れています。


「……で、多分これはコールドスリープかなんかの機械です?」

 実験で死んでしまったか何かで、死体も保存して他の実験に使う予定だったとかなのだでしょうか。

 どうやら、だいぶヤバい組織に拉致されてしまったようです。


 にしては、周囲の機械に電源が入っている様子はないし、私の寝ていた棺桶もどきを含めて全ての電子機器が止まっている様子でした。


 しかも、なんか感覚がおかしいと思ったら、私身長縮んでません……?

 日本の施設ではないし、縮尺の基準となるものが無いので正確なところはわかりませんが、160cmちょっとあった私の身長が、たぶんこれ140cm無いぐらいまで縮んでしまっているのではないでしょうか?


「しかし、どこに居るかわからない状態で全裸で無一文。いや、これからどうしろっていうのでしょー……」


 ふと、動くものの気配に眼をやれば私の座る棺桶の隅から真っ黒い蛇が登ってくる所でした。1mから1.5mぐらいの、小動物が主食のタイプだね君?爬虫類平気だから驚きませんよ私は。


「ふむ、どうやら覚醒には成功したようじゃな」

 って喋るんですね!?めっちゃ驚きました。


「状況説明は必要かn

「超絶必要です。一から十まで説明した上で質問の時間をください!」

 めっちゃお姉さんな綺麗な声の蛇に思わず食い気味に飛びつきます。

 ちょっと眼を見開いて驚いた表情に見えます。ほあー、蛇でも表情あるんですねぇ……。


「で、では説明してしんぜよう。まず、お主は死んだ。正確にはずっと仮死状態にあったのじゃが、機械の停止により状態を維持できなくなって死亡した。という方が正しいかの」

 と、どうでもいいことに感心していた私に伝えられる衝撃の事実です。


「いや、死んだって言われても動いてるんですが私……?」

「まあ、話は最後まで聴け。魔力の受容体があったのでな。蘇生……とは違うな。壊死していた部分を切り離して、残りの遺体を材料に身体を作り直してやったのじゃ。ちなみに、内臓機能は魔力で維持しておるから魔力が尽きれば今度こそ死ぬぞえ?」


 身長が縮んだのは肉が減った分の調整のためですかぁ……。というか魔力……?

「魔力ってあの、魔法少女とか名乗る人達が使ってたビームとか撃つやつです?魔物とかいうのも魔力で出来てるんでしたっけ?」


 そうだ、なんか1年ぐらい前から急によくわからない怪物が都市部に現われ始めて、銃とかあんまり効果無くて、同じく、急に出てきた魔法少女とか言う女の子達がそれを倒して回っていたはずです。


「然様、おぬしもその魔法少女になる才能があったということじゃな。まあ、その才能を狙われて拉致されてこんなとこで死んでたわけじゃが……」

 色々モラルに欠けた手段を選ぶケースが多々ある国だと思ってましたが、日本くんだりまで出てきて拉致までやってたんですかぁ……。


 ということは、私以外にも何人か居た女の人も魔力があるのでは?

「ああ、他の棺桶は開けぬほうが良いじゃろ。おぬし以外は只人じゃ。まだ氷が溶け切っておらぬから腐ってはおらんじゃろうが、まあ死体じゃよ」

 グロ耐性は無い方なのでそっとしておきましょう、ナンマンダブナンマンダブ……


「っと、ということは私は魔法少女とか言うのに変身できるようになったんですか?」

「というか、変身してないと死ぬ状態じゃな。すでに変身状態じゃ。わしと契約して魔法少女になったよ!という奴じゃな」


 ほあっ!?鏡、鏡とかありません!?

 首を振って周囲を見回せば、視界に入り込んでくる綺麗な「銀髪」

 確認するまでもなく、私は純日本人なので黒髪黒目です。それがなんかめっちゃ長い銀髪に変わっています。

「おーすげー、めっちゃつるっつるでつやっつやですよこの髪!」

 あ、でも変身してないと死ぬとかヤバいこと言ってませんこの蛇?


「変身を維持するためには魔力が必要で、魔力は周囲から吸収して自然回復する分と、あとは、倒した魔力を持つ生物から吸収することで補給できるはずじゃ。自然回復じゃと変身を維持する魔力に少し足らんから、まあ、2週間ぐらいで活動停止するかのぅ……。しっかり食事を摂って肉体の維持を本来の機能にまかせられれば一月ぐらいは保つか?」


「はー?2週間で、この状況から生活基盤整えて戦闘技術身につけて、魔物とか言うの探して倒さなければならないとか、割と無理ゲーでは?」

 私はまごうことなきインドア系一般オタクです。戦闘とか無理よりの無理でございますですわ。


「というか、まずここは何処で、なんで施設が停止したんですか?」

 とりあえず、状況把握がまだ全然なのでそこから聞きたいです。銀髪ちびっこが、素っ裸で外に出なきゃいけない事実を思い出すのを最後にさせてください。


「戦争じゃよ。送電施設が破壊されたようでな。もともとほとんど廃棄されたような施設じゃったせいでだーれもここの状況を把握しておらんようじゃな」

「え!?日本が戦争に巻き込まれたんです!?」

 思わす驚きに目を見張りますが……。


「いんや、ここは日本とかいう国ではなく、もっとだーいぶ北の方じゃな。そうか、連れ去られた時意識が無かったから知らなんだか」

 2週間以内に言葉の通じない外国で無一文から帰国して以下略って、もう完全に無理じゃないですかやだー!!!!


「まあそんなに慌てなさんな。魔法少女じゃぞ?それぞれの魔力根源に応じたいろんな魔法が使えるようになっちょる。魔法を使えばなんとかなるようになっとるはずじゃ。多分」

 多分って何!?いや、落ち着け素数を数えましょう。素数はこどくなすうじでなんたらかんたら、いち、に、さん、し、にーにっ、さん、し。よし落ち着きました。


「おーけーわかりました。魔法、魔法があればなんとかなるんですね?なら教えてください。私はどんな魔法が使えるんですか!?」

 せめて、何かこう便利で使いやすい感じの魔法が使えれば……。


「魔法というのは、魔力根源に関わる現象をおぬしが選んで作り出すものじゃ。じゃから、想像力次第できっと望む魔法も作れるはずじゃて」

 ふむふむ、知識次第でいろんなことが出来ると……。だとしたら、こう、なるだけ応用範囲が広そうなヤツがいいなぁ……。


「では、教えてください。私の魔力根源とやらを!」

 蛇は鷹揚に頷いて言い放ちました。

「おぬしの魔力根源はな・・・


 『中二病』


じゃ。」

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