戦後処理

 翌日、アルマとペルルは懸命に話し合っていた。

 と言っても、前日にアルマが知った衝撃の事実についてではない。数時間それについて考えこんだ後、アルマは実直にペルルへ今までの自分の思い違いを話しに行ったのだ。

 そこで、幾らかの複雑な経緯を経てではあるが、結局、ペルルは笑ってそれを流していた。

 今、彼らが説得しているのは、もう一人の少女である。

「だって、両親のことを知りたいって言ってただろ? 何だったら、うちに雇って貰えるように親父に言ってもいいんだぞ。他の貴族の屋敷にだって、多少は顔が利くし」

「そうですよ、プリムラ。もしも何かの事情で、この街にいたくないと言うのでしたら、貴女も私と一緒にフリーギドゥムへ来てもいいのですから」

 二人の前で、その気遣いを一身に浴びた少女は、嬉しげに笑みを浮かべて口を開く。

「ありがとうございます、ペルル様。それに、アルマ。ただ、あたし、何も考えていなくてここを出る、って言っている訳じゃないの」

 プリムラは、クセロと共に、グランの元で働く義務を終わらされた。

 そしてその後、彼女は王都から離れる、と決めたのだ。

「確かに、父さんと母さんのことは今でも知りたいと思ってる。あたしはまだ子供だし、他のやりたいことはもう少し大きくなってからでもいいかな、って、この間までは思ってた。だけど、駄目なの。大人になったらとか、力がついたらとか、そんなことを待ってたら、その間に取り返しがつかないことになるかもしれない」

 戦場で、人々が次々に死んでいった様を、グランが誰にも告げずに死を覚悟していたことを、彼女は目の当たりにしたのだ。

 当たり前に来ると思っていた明日は、確かに来る訳ではないと。

「だから、本当にやりたいことを、今から掴んでおくことにしたの。別に、何も考えないで言っている訳じゃないわ」

 きっぱりと、大人びた表情で、少女は告げる。

「だけど、またロマの生活に戻るなんて……」

「一人は無理だろう。せめて、誰かに頼めればいいんだが」

 ペルルはまだ不安を消せない。アルマはやや前向きに考えを変えている。

「大丈夫。あてなら、あるの」

 プリムラは自信たっぷりに告げる。

 彼女の背後の窓からは、庭を所在なげに散歩している、一人のフルトゥナの民の姿を見ることができた。



◇ ◆ ◇ ◆



 彼らは、あまりのんびりもしていられなかった。

 イグニシア王国の休戦協定案を携えた特使と共に、カタラクタへ戻らなくてはならなかったのだ。

 現在、自ら蜂起した反乱軍を放置している状況だ。やむをえない状況だったとは言え、ユーディキウム砦の戦いから、既に二十日ほどが経過している。

 イグニシアの現状を思うと、気が重くなる。

 だが、カタラクタ王国軍の撤退を盛りこんだ提案は、状況を改善するに足るものだろう。

 グランとクセロは、イグニシアに残ることになった。

 グランは静養のために、王都から動くことができない、という名目だ。地竜王宮は配下の兵士もおらず、その巫子はこの件で特に利益を得たいとも思っていなかったため、もう関わらずともいいだろう、と主張した。

 アルマは火竜王宮の責任をも負い、ペルルとオーリと共にカタラクタで部下たちをきちんと統率し、その後撤退させなくてはならない。

 オーリは、その悩みを「まあいい気分転換になる」と渋い顔で評していた。

 プリムラは勿論、彼らについていく。狙いをつけた保護者候補を口説き落とす時間は、まだある。

「何かあったら、すぐに連絡しろよ。俺一人だったら、王都に戻るのはすぐなんだから」

 心配そうに告げたのは、アルマだ。普段なら逆の立場であろうグランは、やや疎ましげに片手を振る。

「大丈夫だ、心配は要らん。こちらには、まだ、お前の父親が健在なのだからな。それに、そう簡単に地獄の[門]を開くものじゃない」

 あまりにもあっさりと、彼らは挨拶を交わし、そして道を違えていった。

 今後の世界を作り直していく過程で、皆がまたすぐに顔を合わすのだろうという予感と共に。



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