女の世界:2

 スライドドアが開くと、そこにはいくつのも機体が並んでいた。


 要撃仕様「モスキート型」、突撃仕様「フライ型」、これらの上位機種である「ホーネット型」。

 格納庫いっぱいに並んだ兵器、わたしたちはこれでオトコからタワーを守っている。


 兵器が並べられている様子は壮観だ。

 武力、技術力、わたしたち人類の正しい姿。武器を持ち、文明のために戦う。

 数を増やしたり、力を手に入れるために戦っているオトコとは違う。


 わたしたち、女こそが正義だ。



 格納庫区画にパイロットとメカニックが雪崩れ込んでくる。

 それぞれが自分の乗機へ向かい、乗り込んでいく。


 わたしの乗機は〈ホーネット・ナイト〉

 上位機種であるホーネット型をより高性能化させた機体。他の機種とは違いの形状で構成されている。

 このような機体を『クイーン』から与えられ、とても光栄に思っていた。


 足場を駆け上がり、コクピットの中に飛び込む。

 コンソールを操作し、頭上に掛けていたヘルメットを着用。

 間もなくして、コクピットハッチが音を立てて閉じた。



 コクピット内に明かりが点くのと同時に、ヘルメットから音声が流れる。



『――各自、聞け! またオトコが我らの城を落としにきた』


 声の主はクイーン。わたしたちの原型アーキタイプにして、司令官。


『数は少なく、質も劣る。他のタワーがオトコに攻略されたという噂を耳にした者もいるだろうが、それはありえない――』


 他のタワーが陥落したことはわたしとクイーンしか知らない。

 基本的に我々が使う兵器はタワーを防衛することを前提に作られているため、稼働時間が短い。

 だが、わたしの機体は特別に長時間稼働できるように調整されていた。


 別のタワーに救援に向かったことが幾度かあったが、その中には駆けつけた時には陥落していた事例もある。

 しかし、事実をそのまま伝えれば士気を保つのは難しい。



『――オトコたちは自分達がであると思い込んでいるが、ヒトの本来の姿は我々のような女性だった! オトコはかつて、我々人類が築き上げてきたものに寄生し、あたかも自分達が作り出したように吹聴している……!』


 クイーンの言葉に熱が帯びる。

 わたしたちはオトコと違って、歴史を学んできた。

 だからこそ、その怒りを共有できる。


 人類の原型は女性であるという学説があった。

 ホモ・サピエンスと呼ばれているのが人類だと思われているが、それはオトコによって歪められた結果だ。

 本当はその前段階に『ホモ・フェミナ』と呼ばれる種族がいた。ホモ・サピエンスとそう変わらず、ヒトの女性そのものだった存在。そこにオトコが紛れ込んだ。


 この『ホモ・フェミナ』に亜種の男性が紛れ込み、寄生し、遺伝子にを紛れ込ませたことによって、元来女性しか存在しない『ホモ・フェミナ』は男性と女性が混ざって生まれてしまう『ホモ・サピエンス』になってしまった。

 だから、オトコは我々女をDNAレベルで蹂躙し、主導権を奪ったことになる。


 だからこそ、オトコは本来存在してはいけないのだ。

 





『――行けっ! オトコをタワーに近付けるな! 皆殺しにしろ!』


 メインモニターに光が走り、外界が映し出される。

 目の前にいた様々な機種がゆっくりと浮き上がり、青白い噴射炎を出しながら解放されたゲートの向こうへと飛んでいく。


 システムを稼働させ、歩行を開始。

 機体が踏み出す度に、突き上げる振動がコクピットを揺らす。


 他の機体がほとんど残っていない格納庫を進み、解放されたゲートへ向かう。

 外は砂嵐でほとんど何も見えないが、タワーからの情報支援が適用されてすぐに視界がクリアになった。

 空は分厚い雲に覆われ、大地はほとんどが砂漠のようになっている。


 ――これも全部、オトコのせい……


 オトコが禁じられた行為であるというのを繰り返したせいで、この大地と空が穢された。

 そして、わたしたち女も滅ぼそうとしている。


 ――オトコなんか、いなくなればいいのに。


 世界がこうなる前は、オトコと女は一緒に暮らしていたらしい。

 とても信じられない話だ。


 だが、それを許してしまっていたから、文明や自然がここまで破壊されてしまった。

 我々は壊されたものを少しずつだが、修復している。

 オトコたちにそんなことができるはずがない。




『――聞こえるか、フラワー11073』


「はい、聞こえております」


 甲高い通知音と共に、クイーンからの通信が入った。

 どうやら、わたしに直通の回線を開いたらしい。




『お前はいつも通り、を頼む』


「かしこまりました」


 わたしに与えられた任務は2つ。

 タワーを守り抜き、悪しきオトコの手からクイーンと技術を守り抜くこと。


 そして、戦いの中でより強いオトコを探し出し、捕獲すること。

 これはクイーンがより強いオトコを屈服させ、コレクションにするためらしい。


 コレクションになったオトコたちを見たことがある。

 うつろな目をして、涎を垂らし、食器に頭を突っ込んで食事をする。

 こんな醜い姿をしたものが、我々と同じヒトだとはとても思えなかった。

 だからこそ、オトコを滅ぼすべきだと信じられる。




「ホーネット・ナイト、出撃する」


 わたしは機体を前進させ、ゲートの先へと進む。

 地表よりずっと高いタワーから飛び降り、スラスターを点火。

 吸い込まれるような重力の感触を全身で味わいながら、加速、上昇。


 薄汚れた空へと火線が放たれ、砂塵と砲煙が舞い上がる大地に向かって降下する。


 そして、わたしは戦場に降り立った。

 


 

 


 




 

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