會野ミサキ編 第4幕〈終〉
画面の中、少女は舞台で舞うように。
星月夜に詠う少女が荒い画質越しに確かに存在していた。
「センパイ、まだこんなもの観てたんですか?」
「うん」
「やめてくださいよ。そんなに面白いモノでもないでしょう?」
「そうだけど、このミサキは可愛いよ」
「もう」
そういって画面の前で腕をふらふらさせて視界を遮てくるミサキ。
それを燈は特に咎めることはしない。
「はーい、お終い。お終いでーす。子供のアタシをまじまじ観ないでくださーい。ロリコーン」
「失礼だなー」
そういうと、燈はミサキの腕を掴んで自分の隣に座らせた。
「一緒に見ようよ」
「……え~、やですよ。もう」
そう言いながら彼女は彼の肩に頭を乗せる。
四角い箱の荒い画面で歌う少女をふたりでぼんやりと眺めていた。
その少女はとても楽しそうに、ただ、ほんとうに楽しそうに。
夢を詠うのだ。
そんな荒い画面の奥の少女をミサキはぼんやりと遠い眼差して見ていた。
季節が、廻る。
※
夏。
まもなく秋がくるという夏休み明け。
二人が出会った時から季節が一周しようとしていた。
昨年に作ったかの映像は案の定というか、埋もれ風化し忘れ去られてしまった。
とはいえ、それのおかげで昨年の活動実績関連は見事達成されたのだが、果たして今年がどうするかという話になってきた。
残暑が厳しいので窓を開け放ったままにしている部室。
二人きりで話し合って、結局てきとうな手記のようなもの(去年の記録ともいえる)にした。
ふと、昨年を思い返す。楽しかったともいえるし、何とも言えなかったともいえる。
ミサキもまた当時を回想している様子だった。
その瞳が何を見ているのか。燈には推察することしかできない。
※
秋。
文化祭の季節。
去年は撮影で参加できなかったが、今年はそうでもない。
とはいえ、二人とも文化祭に対し然程の興味もないようだった。
一応、部室は開けているが、誰かが来る気配はない。
肌寒い季節だ。
二人はただじっと寄り添うように座っている。
互いの体温を、感じていた。
※
冬が過ぎる。
冷たく寒い季節。
ミサキは唯一人、燈と会えない自室の中で窓辺に降る雪を見つめていた。
ミサキは冬が嫌いだった。
なにがどうして嫌いなのか、特に理由を見出すことはなかったけれども、今、ようやくわかった気がした。
ほう、と息を吐く。
室内は暖かいが窓辺はまだ冷える。
吐息は白く染まる。
嗚呼――そうか。
寂しかったのか私は――。
ずっと寂しくて――ぽっかりと胸に穴が開いていたんだ。
唯――それだけのことだったんだ。
※
廻る
※
廻る
※
日々が廻る。
※
春、ハル。
卒業の季節、桜はまだ咲かない。
そしてそれは別れの季節。
「卒業おめでとうございます、センパイ」
「うん。ありがとう」
一応、儀式のようなもので、そんなやり取りをふたりはした。
「センパイ、大学はどこなんですか?」
「いや、働くんだ。色々事情があってね」
「そうですか」
「でも、県外に出ることはないよ」
「そうですね……」
二人、向き合う。
「センパイ、アタシ。東京に戻ろうと思っているんです」
「そうか」
「……驚かないんですね」
「うん。なんとなくそんな気がしていたんだ」
燈の表情は穏やかだった。
どこか遠いまなざしをしていた。
応援してるよ。と少年は言った。
彼女の事情を彼は断片的にしか知らない。それでもわかるものはあった。
「もう、しばらくは会えませんね」
「そうだね、でも」
でも、と少年は続ける。
多分、一番の寂しがり屋の少年が言葉にする。
「傍にいることだけが、愛じゃないよ」
「……はい」
はにかむミサキ。
春の風に乗って、少女の髪が揺れる。
いつのまにか伸びていたその髪は綺麗に整えられていた。
「でもいつかアタシ、センパイのこと、迎えに来ます。立派になってちゃんとしてセンパイの所に帰ってきます。だから……待っていてくださいね」
「うん。楽しみにしている」
少年ははにかんだ。
少女は穏やかに微笑んだ。
春の息吹に巡る季節の終わりが垣間見える、
だから、この話はこれでおしまい。
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