人間観察

人間観察

私は人間観察をするのが趣味である

人間観察の定義はよく分かっていないが

様々な人が一堂に会する場、主に公共交通機関などで

ただボーッと人間を眺めることを人間観察としている

やってみると意外と面白いもので

人間の愚かさであったり浅ましさと言ったものが見えてくる気がしている

最近は人間観察をするためだけの定期を購入したほどである

そんな定期で今日も今日とて人様をひたすら電車内で眺めている

大多数はスマホを触っていたり寝ていたりするが

1人だけ様子のおかしい乗客がいた

まるで子供のように座席の上に膝を立てて車窓を

舐め回すように見つめる中年の男性がいた

靴は丁寧に並べてある、「こういうやつ」にしては律儀である

「こういうやつ」は今までに結構遭遇して慣れていたので

その時は特段気にすることもなかった

「うわぁあああぁあぁああぁぁ！！」

突然叫び出した「こういうやつ」は靴下のまま立ち上がり

暴れ回りながら、上の服を脱ぎ始めた

「つぎのえきれおりろぉ！」

酒が回っているのか、はたまたシンプルに滑舌が悪いだけなのか

聞き取りにくいが必死にそう叫び続けた

普段なら「こういうやつ」を前にするとすぐ別の車両に移る人が

出てくるのだが今回は違った

皆私のように、いや私以上に気にすることなくスマホを触り続けていた

中にはスマホで「こういうやつ」の動画を撮影し始める者までいた

これは面白い光景に出くわしてしまったようだ

「こういうやつ」に対して避けるどころか対抗するような輩の存在に

私は若干の興奮を抑えられなかった

「こういうやつ」の言い分通り次の駅で降りた人間はおらず

結局「こういうやつ」だけが次の駅で降り、職員に取り押さえられていた

電車は運転を再開した、ふと気になって窓の外をみると

ミサイルのようなものがこちらに迫ってきているのを視認した

私は恐怖から頭が回らずただひたすら叫んだ

電車から降りてどうにかなるわけではないが車内に残るよりは

マシだと思い次の駅で降りるよう促す

必死になっていたので呂律が回らず上手くいえなかった

誰もが無視を決め込んだので注意を引きつけるように上半身裸になった

ただ誰も気づいてくれない、すぐそこまで来ているのに

「こういうやつ」の気持ちが分かった気がした