第11話 《配信》恒例行事やりたくないけどやるよ 3




「それでは、ダンジョン内では、どのようなことについて気をつけて行動すればいいのか、説明していきましょう」


 つとめて、真面目な様子で仕切りなおす。意味があるかどうかはこの際重要ではない。自分の気の持ちようが重要なのであって、視聴者がなんと言おうと


〈あ、これで常世の話は終わったんね〉

〈なんか、露骨に話題逸らした?〉

〈その程度の情報収集でいいと思ってるのかよ〉

〈あまり参考になりませんでした〉

〈最後の情報いる?〉

〈噂話を自慢するように話されてもねぇ〉


 なんと、いわれようとも、、、


「やっぱやっちゃう?」


〈壊れた〉

〈一体、何の話をしているんでしょうね〉

〈ゾワッってきた〉

〈やるって、なんのことなんでしょうねぇ〉

〈ヒィ〉

〈あきませんよ、これはあきませんよ〉


  コメントを見た感じ、私の意図は伝わったようだ。わざわざ説明する手間が省けたようでなりより。


「それでは、実演していきましょう!」


 テンションは最初からMAXで、歩き出す。


「ここから行く場所はまだ行ったことがありません。事前に調べた情報から、その場所はまだ誰も完全に調べきったわけではないようです。けれど、初心者は大体このような状態でいくので私もそれに倣おうと思います。どれだけ調べても、実際に行くのとでは大違いですから」


 目指すのは、洞窟。どんな魔物がいるのか、それと初めの100mほどの地図については調べられている。が、完璧ではないので慎重に行くことにしよう。



 歩き始めて5分。森の中にあった小さな滝、その崖に人が二人ほど入れる大きさの穴がある。短剣を手に取り、中に入る。


 少し湿って薄暗い。まだ、入り口の近くだから大丈夫だが、光を灯した方がいいだろう。


「洞窟系のダンジョンには謎の力で壁が発光しているものから、ここのように明かりひとつない暗いダンジョンもあります。私には残念ながら光なしで探索するのは厳しいので光をつけた方がいいでしょう」


 スマホで道先を照らす。


「ここで、重要になってくるのが、どこに道があるのか、です。今回は、いくつも道が分岐しているタイプと調べはついています。嫌なことに、現在くだっていますが、道は左右に分かれるだけでなく上に空いている穴が正しい道として続いており、それを無視すると行き止まりになるといった道も当然あるそうです。何が言いたいかというと、目だけを頼りにしているなら前だけ照らすのはいけないのです。上下左右に前後まで、ある程度気をつけないと魔物に奇襲されてしまう、そんなことも起こり得るのがこの洞窟です」


〈悪意高くね?〉

〈攻略させる気ないやろ〉

〈そこまで来ると、洞窟系ダンジョンの下層レベルだぞ〉

〈ほへぇ、真面目にやっとる〉

〈ふ、壁に化けたゴーレムが出てくるよりはマシ〉

〈さすが、常世、上級者でもきついって本当だったんだな〉

〈入口の近くはほのぼのとしてるんだけどね〉


「私もここは初めてなので気をつけて行きます」


 気を引き締めて歩き出す。


「さて、このゴツゴツとした岩でできたこの場所ですが、奥にいくにつれて湿り気が増しています。戦う時は滑らないように気をつけないといけません」


〈殺しに来てますね〉

〈本当に上級者向けって感じ〉

〈殺意が高い〉

〈寒くて湿ってるって嫌だな〉

〈こんなダンジョンもあるんか〉


 壁に掌を当てれば、骨まで染み込んできそうなほど冷たく、手を離しても湿っているので寒さが残る。


「それに、洞窟ということで声が反響します。本来であれば黙って歩いた方がいいのでしょうが、ここは足音でさえ魔物に反応されてしまうようなので無意味でしょう。それに、蝙蝠もいるらしいですからね」


〈コウモリって、強いの?〉

〈やれ、超音波!〉

〈やっぱ、常世の魔物は魔物って感じがしないんだよな。アホみたいに強いのに〉

〈かわいいイメージしかない〉

〈超音波は強い〉

〈だけど、ズバットは弱いやん〉


 魔物とピー(自主規制)を比べないでください。ていうか、ガチ勢のファンが怒るよ? 私は言ったからね?(心の中で)


「ほら、あそこに」


 天井にぶら下がっている蝙蝠の群れを指さす。ズバットとは似ても似つかない野生の蝙蝠の姿。こちらには気づいているようだが、気を伺っている。わたぢのお気に入りの雷の魔法を準備。


「針雷」


 一撃で蝙蝠の群れは全て同じように大地に落ちていく。それなりには強いみたいだけど私からすれば雑魚ね。


「下層になると、魔物をこっちが認識した時は大抵向こうも認識している。先手必勝。今回の蝙蝠は夜に活動するタイプらしくて、昼間だとこっちが攻撃しない限り、襲ってこないらしいのね。だけど、それって絶対じゃないから注意しないといけないし、今回は初めて来る場所だし、余裕があったからちょっと倒してみたかったから倒したんだけど、意外と強いわよね」


〈どこが強かったのか理解できない〉

〈強い?〉

〈強い(一撃)〉

〈哀れなコウモリ〉


「この蝙蝠は私が攻撃する時、数匹ですが反応して逃げようとしていました。そのことから、昼の活動期間でない時でもこれほどということは、夜であれば手強いことは間違いないということです」


 まぁ、私にはあんま関係ないんだけど。


〈あ〜、夜に強いタイプね〉

〈手強い?〉

〈普段ふざけてばかりだからギャップがすごい〉

〈なんで反応したってわかるん〉

〈順調に人外の道を進んでいますね〉



 グルルルルル



〈獣の唸り声?〉

〈もう人外だろ〉

〈なんか声がする?〉

〈強いやつか?〉


 うなり声、洞窟内に響き、その発生源は特定しづらい。向こうは、こちらをどう認識しているか。それが重要だ。


「この声は、どこからか聞こえてきます。ただ、あまり遠い場所ではないですね。この唸り声がどういった意味合いを込めて発せられたのかは残念ながら私にはわからないのですが、まぁ友好的ではないことは確かです。それが私に対してなのか、それとも、他の存在に対してなのか。それによって対応が変わります。まぁ、ただ唸っただけという可能性もなくはないですが」


〈やっぱ、偽物だろ〉

〈唸っただけw〉

〈近い場所にいるのか〉

〈友好的かもしれないだろ!〉


 唸り声を出した魔物は巨体であることが想像できる。けれど、この洞窟に巨体を自由に動かせるほどの場所が存在するのだろうか? また、あるとしたらどこにそれはあるのか。


「ここは、すでに地図も、出てくる魔物の情報もわかっている場所です。つまり、この魔物は新しく生まれたか、移動してきたかのどちらかなのですが、これは考えても仕方がないですね。どうせ答えは出ないでしょうし」


〈まだ深く入ってはいないんだ〉

〈確かに、あんま時間経ってないよね〉

〈てことは、イレギュラー?〉

〈日本神話だからなぁ、モグラとかかな?〉

〈取りこぼしがあったとか?〉


 モグラはうなんないだろ。そう思わず突っ込みたくなるコメントを横目にしながら、石を拾う。


〈ん? どうした?〉

〈形のいい石ですね〉

〈円形の石?〉


 それを、地面に向かって思いっきり投げる。


 ギャーン


 と、耳に痛い音が鳴る。それと同時に、獣の唸り声が聞こえてくる。やはり、近い。


「獣が私に興味を持っていたら、近づいてくる。だけど、興味がなかったら? いつまで経っても私はここで棒立ちしなきゃいけない。だから、あえて興味を持たせるように振る舞う、もしくはさらに興味をひきつけるようにする。向こうが来てくれそうなら周りを気にして待ってればいい」


 タッ、と足音がすると、少し先のところに、上からソレは姿を現した。


 それは、まごうことなきタヌキ。茶色の毛並みに、ところどころ黒の入ったその出立ちはどこか気品がうかがえる。しかし、その瞳は爛々と怪しく輝いており、睨んだだけであらゆる生き物の命を絶ちそうである。


「さてと、それじゃあ、それなりに強い敵と会った時の対処法の説明だね」


 不敵に笑って、短剣を構える。


 


 

 

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