第10話 《配信》恒例行事やりたくないけどやるよ 2



「さて、お前たちに聞く。ダンジョンで絶対してはいけないことを今から3分以内にあげなさい」


〈人を殺してはいけない〉

〈急に問題が始まった?〉

〈ま~た、漠然としたものを〉

〈居眠り?〉

〈これに答えってあるのかよ〉

〈あれだな、遊び感覚で来てはいけない〉

〈ムスカ?〉

〈生き物を殺す覚悟をせずに来る〉

〈こ~れ、なんも考えてない顔です〉


 ちゃんと答えてる人が少ない。こいつら、案件配信だってこと忘れてないか? 好き放題言いやがって。こんな奴らばっかだから国が苦労するんだよ。ちょっと国の上層部の気持ちが分かった。


 ……あれ?


 もしかして、


「私って政治家の才能ある?」


〈おやつは1000円まで〉

〈おい、ヤル気ないだろ〉

〈お前が政治家に向いてるわけがない〉

〈お金は持って行かない〉

〈毎日謝罪会見で終わるだろ〉

〈当選しないだろ〉

〈途中で飽きたとか言いそう〉

〈探索者協会にいかずにダンジョンに入る〉

〈案件だからって言っててぇぬきすぎだろ〉


 私は視界の横で流れていく戯言を黙殺し、さらに熟考を重ねる。


 もし、私が政治家になったら。毎日、宴会を開こう。それで、汚職をした議員を糾弾してSNSの裏垢で晒す。なんて完璧な計画だろう。私はどこぞの国会議員と違って下手なミスは侵さない。


「誰にもバレず、国を支配する……ありだな」


〈おい、誰かこいつを止めろ〉

〈これが同じ人類だと思いたくない〉

〈中二病かな?〉

〈人に喧嘩を打ってはいけない?〉

〈ありだな、じゃねぇよ〉

〈はい、これ炎上決定〉

〈精神病院に受診することを勧めます〉

〈もう3分経った?〉

〈やっぱこの案件失敗だわ〉


 ピピピピピ


 アラームが鳴り、3分……4分になってたがまぁそれは置いておいて、時間は過ぎた。満を持して、答えを提示しよう。


「3分経ったので、答えを発表します」


 ヒュードンドンパチパチ


 画面の向こうではこんな音がなっているだろう。


「ダンジョンで絶対してはいけないこと、第一位は」


 ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル

〈長い〉

〈一位、って二位以下も発表するのか?〉

〈いつまでやってるんだよ〉


 あれ、これ、どうやって止めるんだっけ。同じところを押しても止まらない。こういうのって同じところ押したら勝手に戻るんじゃないの? え~っと、ここを確か押す、いや確かこっち、違う違う。本当にどれだっけ? やばいやばい。これは間違いなくやばい。ほら、普段使わない機能を使うから、と友人の福音が聞こえてくる気がする。しかし、もうやってしまったものは仕方がない。どうしよ。


〈うるさい〉

〈答えいつになったら終わるんだけど〉

〈飽いてきた〉

〈事故った?〉


 こういうのって、説明書がないって不親切。マジで。開発者に怒鳴り散らかしたい。そして、私のストレス発散に付き合ってほしい。慰謝料は出す。


「……止まんないな」


〈グダグダ〉

〈同じところを二回タップしないと戻んないよ〉

〈国内No.3のダンジョン配信者がこれでいいのか〉

〈と言いながらなんだかんだ見てる視聴者たち〉


 ふ~ん、二回タップね~。やるだけやってみましょうか。


「あ、戻った」


〈それで、答えは?〉

〈はぁ〉

〈お先真っ暗〉


「答えは、法律を破らないことです」


 当たり前っちゃ当たり前だよね。


「はい、これが答え。ダンジョン配信を監視しているAIが犯罪を犯した人を見つければすぐに国に報告されるようになっている。軽犯罪ならちょっとのお目こぼしはあるらしいが、重罪を犯せば、ダンジョンの前で警官が待ち構えててくれる。

 ダンジョン配信は神が管理しているので偽装映像を流すことは神々に喧嘩を売ることと同義。一度それをやろうとした人物は、倍速にしているのかというような速さで老い、原子レベルにまで分解され、亡くなった。

 これは、「ダンジョン配信に不正侵入及び改竄を試みた愚者の末路」という題で、ダンジョン配信サイトにアップされた。あげたアカウント名は「ダンジョン配信公式」というもの。

 つまり、このことから重罪を犯した映像を故意に改竄されたというのはありえず、法廷でも正式な証拠として提出することが可能であることも法律として規定されています」


〈さては、カンニングしているな〉

〈こよみちゃんじゃない〉

〈ほえ~、初めて知った〉

〈誰だ! こよみちゃんのふりができるほどの優秀な女優しらないぞ〉


 どいつもこいつも、私が真面目なことを言うのがそんな珍しいか! しまいにゃ殺すぞ。殺害予告を匿名で送ってやる。メリーさんの真似も悪くはないか?


 私はスマホに写っている文字の羅列カンニングをもう一度見て、息を吐く。


 キキキ


 その時、そんな音が足下から聞こえてきた。見れば、「常世」のダンジョンで最も弱い魔物、蟋蟀こおろぎ。鳴いてるその姿は、なんかイラつく。足を少し上げて、勢いよく踏み潰してやった。後には小さな白色のカケラ。


 順番的には早いが、どうせなのでこれについて話そう。


「これは魔石。ダンジョンで魔物を倒せばこれが必ず取れる」


 魔石を拾い、説明を開始。


「これくらいの大きさだと10円で買い取ってもらえる。売買は国の管理している探索者協会で行う。もしも、探索者協会以外で売買を行った場合、バレたら逮捕されるので注意。懲役……なんだっけ?」


〈おい〉

〈調べてたんじゃないのかよ〉

〈はぁ~あ〉

〈罰金10万円〉

〈懲役って、そこまでいくの?〉

〈10円もらうために10万円払うとか馬鹿やんw〉

〈意味ねぇ〉

〈それだと15円はいくかもしれない〉


 懲役か罰金かなんてどっちにしろ面倒ごとっ点では同じ。それと、10円か15円かなんて誤差。そういうのを考えるのは探索者協会の職員だけで充分でしょ。


 視聴者のコメントに心の中で突っ込みながら、次の話題を考える。このまま、本来の方向性に戻るか、自由に話題を発展させるか。


「さて、次はダンジョンで気を付けなければいけないことについて、だな」


 結局、カンペに沿うことにして、話を切り出す。やっぱ自分で考えるのは面倒。


「まずは、情報収集。ダンジョンについての情報がないと何を着て、どんな武器などの装備を持って行けばいいのか決められないし、気を付けなければいけないことも変わって来るからこれが一番目にやらなきゃいけないこと」


 これ、一番重要なのに初見でやろうとかする馬鹿がいるからしょうもないところで死者がでたりするんだよね。はっきりいって迷惑。


「これを疎かにするから、ダンジョン内で死者数が~とか、なんとか言われるの。だいたい、余程のことがない限り、ダンジョンで死ぬことなんて有りえない。自分の力量にあった場所で、きちんと準備をして、油断しないで戦ってたら怪我ぐらいするかもしれないけど、そんぐらいでしょ? イレギュラーなんた例外が取りざたされてるけど、それだって、珍しいからイレギュラーなんだから」


〈急に饒舌になってるし〉

〈なんかあったん?〉

〈真面目な話してる、やっぱ偽物?〉

〈これは実感のこもった言いまわし〉

〈どこで調べるの?〉


「お、いい質問。これはえ~と、これこれ。『どこで調べるか? 探索者協会のホームページに全部乗ってる。つまり、新人に足りないのは、探索者協会の重要性が理解できていないこと。国がやってるからか知らないけど、知られてないだけでいろんなサービスをしてるし、取り入れてるの。これを使わずに一人か何人かでいきって死んだやつがどんだけいたか』……とカンペに書いています」


 「どこで調べるかと質問が来たらこれを読め」とでかでかと書いてあったので覚えていたので、口頭で言ってみたが、どんなことが書いてあるかぐらいは見といた方が良かったか? まぁ、わかるっちゃわかるけど。


〈こいつ、ゲロったぞ〉

〈これ、誰がカンペ書いたんだろ?〉

〈なるほど、実感がこもっている理由はそういうことか……〉

〈探索者協会の闇を除いてしまった気分〉

〈やっぱね〉


「……何連勤したのかな?」


〈ぐはっ〉

〈10連勤……ウッ〉

〈蘇る、忌まわしき記憶の数々〉

〈ハハハハハハハハハハ〉

〈これから、探索者協会の受付には優しく接しようと思います〉

〈5連勤だな〉

〈この国に労働法はないのか〉


 どうやら、視聴者たちの闇を開いてしまったようだ。だが、関係ない。というかそんなところまでかまってられない。とりあえず、このカンペを書いた人には文句を言っておこう。


「さて、総括すると『入る予定のダンジョンについて事前に調べておきましょう』というわけですね。皆さんも、これは守ってくださいね」


〈そう言っているご本人は守っているのか〉

〈真面目なこと言ってるんだけど、なんか違う〉

〈案件配信をちゃんとやるなんて、つまんないですよ!〉

〈これじゃない感〉

〈それな〉


「失礼なことを。このダンジョンは『常世』という日本神話にある場所を基にして日本の神々が作り出したところで、それにちなんで名前も『常世』となっているというわけ。ここにいる生物に見えるものも全て魔物なので可愛いからと言って注意するように」


 けれど、私の周りには草原が広がり、遠く彼方には森がある。本当かどうかは知らないが、ここは理想郷となっている。確かに、このダンジョンはどこにいようと神秘的で、神聖さを感じる不思議な場所だ。


「嘘か本当か知らないけど、神々曰く、このダンジョンを完全攻略すればこの世の全ての知識と、世界を全て買えるほどの富、老いることのない永遠の命を手に入れることが出来るとか」


 ちなみに、誇張は入っているが現在の人類にとっては垂涎ものの知識と富が入るのは本当らしいし、永遠の命も手に入るらしい。ソースは神。月夜見尊が言っていたんだから間違いない。もしも違かったら血の涙を流して復讐に走ってしまうかもしれない。なにせ、私もこれを狙っているから。


〈本当か~?〉

〈こよみちゃんのセリフだから余計に信憑性が〉

〈神がいるんだから有りえなくはない?〉

〈信じられん〉

〈嘘だろ。神に遊ばれてるだけ〉


 ほぉ、みんなだいたい信じてませんねぇ。ふふふ、競争相手は少ないほどいいんだけどね。まぁ、付け加えるとすれば一回目の完全攻略じゃなくて完全攻略すれば誰でも貰えるらしいんだけど。これは黙ってた方が良いよね。


 私は一人ニヤつく頬を必死にこらえて心の中ではほくそ笑むのだった。



 

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