第6話 《配信》不死鶏 (下)



 不死鳥、火の鳥、フェニックス、様々な名があるがその在り方は総じて同じ。再生を思わせる炎の化身。その姿は鳥であり、孔雀のようでもあり、また朱雀のようでもある。伝説上の存在であるからにしてその姿は色々な人がいろいろな姿を描いている。


 けれど、これはない。鶏はない。炎でできた鶏、すなわち不死鶏を見た時、誰もがそう思ったことだろう。だが、そえは仮初の姿でしかなかった。真の姿は炎のコカトリス。


 !?!?!?!?!?!???


 もはや炎の肉体であることしか共通点なくね? と言いたくなる様相である。つまりは、鳥=鶏=(壮大な誤解と悪ふざけの結果→)鶏の仲間=コカトリスというわけだ。うむ、意味がわからん。そもそも、コカトリスは鶏+蛇というわけわからん存在だし、少なくとも同じ鶏に区分してはいけないはずで……。


 と、そこで三垣はようやく正常な思考を取り戻した。それは、不死鶏がコカトリスの姿になったことと自分の体が固まっていくというありえない現象が同時に起こったために逆に冷静になったとも言える。


 そして、今最も行うべきことは、体内の魔力をより活性化させることだ。間違いなく、身体の硬直はコカトリスの持つ石化の魔眼が原因だ。体に直接作用する状態異常は体内の魔力を活性化させ、常に体に張り巡らせなければいけない。これまで身体強化などのためにしなかったわけではないが、石化に対処するために張り巡らせ方ではなかった。


 相手の本来の姿を曝け出さすことには成功したが、討伐隊の魔力は減っていくばかりで、戦況はより厳しくなったようにしか感ぜられない。息を切らす仲間たちを見ながら三垣は考えを巡らせる。


 コカトリスのような不死鶏は獰猛な笑みを浮かべているようで、また、それを裏付けるように、不死鶏の瞳は討伐隊たちを嘲笑っている。


 お前らなどいつでも殺すことができる。


 そのように思っているとすら思えてくる。実際のところ、不死鶏は彼らのことを見下していた。しかし、そえと同時に敵としての評価もしていた。不死鶏の心中を言葉にするならば「人間のくせによくやるな」といったところだろうか。


 そう不死鶏が思ったのには理由がある。まず一つに、彼らのような脆弱な人間がこのような場所で動き回っていられること。二つに、討伐隊らが石化の魔眼を受けても石化していないこと。これらを見て、そう断じたのだ。


 しかし、それは幸か不幸か、討伐隊らが、さらなる苦境に立ち向かわなければならないことを強要した。


 まず、火柱ともいいたくなるような炎が空から降り落ちた。それは無作為に討伐平が密集していた場所に向かう。


 本来であれば、容易く避けられたことだろう。。そんなたらればを語ったところで仕方がない。結論は簡単だ。全員燃えた。身体中を燃やされ、体を魔力で保護しているためその痛みは、より強くなる。炎が髪を、喉を、焼き、目玉を、肌を、骨すらも、溶かす。あとには何も残っていない。灰すらも。


 圧倒的な力。人智を超えたナニカ。多くの人が、首を垂れるだろう。神に祈るかもしれない。だが、コレを作ったのは神だ。祈りは、届かないだろう。ただ、蹂躙されるだけだ。


 降り注ぐ、炎、炎、炎。それらはただ乱雑に放っただけ。だからと言って安心できるわけではない。先ほどのを見ればわかる。仕留められると思えば、本気で殺しにかかるだろう。


 いやらしいのが、石化。特定の部位のみを狙い、効き目を高めている。それに、守るためにその部分の魔力を高めれば、他が疎かになる、そこをついて石化を使われれば一切反応することが出来ずに終わってしまう。


 投擲武器も、魔法も簡単に往なされる。


 ここに、勝ち目は潰えた。簡単ではないが、勝てると思っていた。本当に、終わってしまうのか? 三垣は、最後の仲間が倒れていく光景を目にし、自問する。懐の魔道具を取り出す。


 負けると決まるその時まで使わないと思っていた。いや、今が負け時か……そんな益体もないことを思ってしまった。あぁ、さらば人生よ。魔力は底をつきかけ、体が石化していく。足から、死が迫って来る。さらば、不死鶏よ。


 カチッ


 魔道具が発動する音が鳴った。


 薄く淡い水色の光が放たれ、あたりを覆い尽くしていく。あまりの眩しさに、不死鶏は眼を瞑る。だが、もう遅い。体の半分が石になってすら生きていたことが奇跡なのだ。三垣は、その一生を閉じた。


 されど、彼の置き土産が、猛威を振るう。74階層の半分を覆った、その光は、魔法はついに発動する。
















 全てが止まった。















 魔法名絶対零度


 それは、まさに言葉通りの威力を誇る。つまり、光が覆った空間内のあらゆる運動エネルギーを0にする。そして、その効果は魔力の続く限り。魔法具に込められた魔力は最大。つまり、この魔道具が発動できる最大の時間である10分。


 それは、まさに不死鶏にとっては致命傷に等しい。魔力の元である魔素の動きすら止める。常温であれば少ない消費量で済んだ魔力が蠟燭の火を吹き消すように消えていく。


 結果、不死鶏は本来の姿を現す。これではただのコカトリス。その命の灯は消えてなくなる……はずだった。



 10分経った。



 魔法は解かれたが、その痕跡は強く残っている。コカトリスはピクリとも動かず、息もせず、死んでいるかのようだ。マグマは吹き上がることなく、地中の中でぐつぐつと煮えたぎるだけ。



 20分経った。



 ようやく、マグマが地中から吹き上がり、元の光景が戻りつつある。だが、ここがダンジョンという特殊な地だからこそここまで早く回復したのだ。ここが地球上であれば下手をすれば一世紀はそのままの不毛の地となろう。


 魔力の循環が激しい、ここダンジョンだからだ。


 そして、またマグマが吹き上がる。


 それは、コカトリスの丁度真下。不死鶏の亡骸はマグマの下に沈んでいく。不死鶏の終わり。マグマに肉塊は溶かされていき、激闘の幕が下りる。


 なんて、


 不死鶏は、炎の化身。肉塊がついに全て溶け、残ったのは魔石。


 そこから炎が吹き荒れた。マグマを吹き飛ばし、現れたのはコカトリス姿の不死鶏。体を確認するように首を振り、パタパタとその場で羽ばたく。


 満足げしたのか、声高らかに、鳴く。


 ピィィィィィィ


 その声は、階層内に響く。


 まるで勝利を知らしめるように。



───この配信を終了します 

       楽しかったかな?───



 









 神々は戯れ、英傑たちは見守り、人々は抗う。



 されど、未だ英雄は現れず、世界は混迷の道を歩む。





配信されたダンジョン

:赤の迷宮(赤のダンジョンとも)

 全75階層という中途半端な数字のダンジョン。だが、創造者たち(神々)は中途半端だということに造ってから知り、100階層に作り直すために、色々計画を練っていた。そのお披露目として不死鶏を先行して(本来は90階層のボスにする予定)74階層に放したのだが、思ったほか反響を経て神々はホクホク顔。これなら間違いなく76階層以降も成功するだろうと喜び合っていたりする。

 75階層時、5パーティの攻略者あり


今回の主人公(?)

:不死鶏

系統

:幻獣(不死鳥とコカトリスの間の子)

説明

:不死鳥と鶏(コカトリス)が愛し合ったら生まれるであろう生物。なお、神々が勝手に作った。自然界というかダンジョン界で生まれることは今後ないだろう。神々が76階層以降のオープンPRのために74階層に放された。なお、一切(不死鳥を放つ以外)宣伝行為を行っていないため、ただのイレギュラーと片付けられている。一時は、100階層のボス、属性炎のエンシェントドラゴンを放つ案もあったが、それではネタバレ過ぎると反対の意見が上がり、90階層のボスということで落ち着……落ち着いた?



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る