学校で一番 ダルそうでアツい先生

俺は周りの目など気にせずに走り続けた。


クラスメイトや先生などにも聞いたが、みんな知らないと言っていた。


俺がしばらく廊下を走っていたその時だった。


「廊下を走るな」


後ろからそんな声が聞こえた。


「すみません」


俺は振り返りすぐ謝った。


「おう、それでそんなに慌ててどうかしたのか?」


俺はそう言われ顔を上げると、その先生は栞のクラスの担任だった。 


ちょっと伸びたヒゲに筋肉質な体にだるそうな感じであるが、先生という職業に関しては人一倍熱心らしい。


そんなこともあってか、女子校であるこの高校では男の先生は嫌われることが多いが、この先生は高い人気を誇っているそうだ。


「あの栞さんがどこに行ったか知りませんか?」


「ん?栞か。確か坪久田に話しかけられていたぞ。そこの絡みは初めてだから、記憶に残っていたな」


坪久田…


確か、今日昼休みに絡んできた人の名前がそうだったはずだ。


あの後、あの人が誰か栞に聞いたところ教えてくれた。


本名は坪久田 麗華。


坪久田商会の娘だ。確か、楓、栞に続いて学年順位は3位だそうだ。


それもあって俺たちを目の敵にしているらしい。


いい迷惑なのだが…


「どこに行ったかはわかりませんか?」


「すまない、そこら辺はわからない」


「そうですか」


流石にわからないか。


先生といえど、生徒の行動を全部把握しているわけではないから、しょうがないだろう。


しかし、坪久田さんに話しかけられていたと言うだけでもでかい情報だ。


「ありがとうございます」


「ちょっと待て」


俺が廊下を走って行こうとしたら、すぐに呼び止められた。


「どうかしたんですか?」


そう聞くと、先生はキョロキョロと辺りを見回して、俺の耳元でこう呟いた。


「坪久田はこの校舎裏で気に入らない生徒をいじめているかもしれないと職員会議しているとこなんだ。もしかしたら、そこにいるのかもしれない」


俺がそれを聞き、ハッとし先生の顔を見ると、先生は「多分、商会の娘だから多分注意くらいで終わってしまいそうだがな」と頭をかきながら申し訳なさそうに言った。


ここに通うのはお嬢様ばっかだ。


大企業の娘、商会長の娘、この国の未来の背負うような優秀な人、そんな人たちが集まった高校なのだ。


そんな人たちに校則だからと言って処罰を下していたら、何をされるかわからない。


そんな恐れから、特に優秀な人には何をしても注意で終わることが多い。


「先生が謝ることじゃないですよ。しょうがないんですから」


「そう言ってくれると嬉しいが…」


そう言うと先生は俺の目を真面目な顔で見つめた。


その顔を見たのは初めてで俺は少し驚いてしまった。


「しょうがないからと言って諦めるようなつまらない大人にはなるなよ。お前は優秀だ。その力を存分に使えれば、仲間がいれば、そして絶対に諦めなければどんなことを達成できるだろう。俺は大きいことを成し遂げられているわけではないが、どんな生徒に対しても対等に接するようにしている。これは俺の学校に対する小さな抵抗みたいなもんだ。だが、俺はお前はもっとすごいことができると信じている。前までは一人で何を考えているのかわからなかったが、今は大事な友達がいるんだろ。なら、もうお前に弱点はない。もう一度言うが、これから理不尽なこともあるが、しょうがないと言って諦めるような大人にはなるなよ」


あついな。


俺はシンプルにそう思った。


今まで中学校まででこんなことを言ってくる先生はいなかった。


確かに先生が生徒の目の色を伺うのはおかしなことだ。


それを俺はしょうがないの一言で片付けていた。


おかしいことをおかしいと分かっていながらもそれが普通だと思っていた。


「お前が今から立ち向かう相手はそう言う立場だ。どうなるかはわからない。ただ、決めたのなら諦めるなよ」


庶民がお嬢様に向かって歯向かう。


それはこの学校で言えば異端だ。でも、俺は栞が危ない目にあっているのであれば助けたい。


そして、いつかお嬢様、庶民という隔たりをこの学校から、いや国から無くせたらいいな、栞と一緒に。


そんなことを思った。


「ありがとうございます」


「自分に似合わず暑苦しい話をしてしまったな」


また頭をボリボリとかきながら恥ずかしそうにそう言った。


「いえ、かっこよかったですよ。また相談したい時は来ます」


「おお、いつでも来いよ」


「はい」


「話が長くなって悪かった。早く行ってこい」


そんな熱い先生のエールを受け、俺は


「柳田先生!ありがとうございました」


そう叫んで走り出した。


後ろから、廊下を走るなという声は飛んでこなかった。




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