見知らぬ令嬢と不穏の影
それから、一ヶ月が経っていた。
茜と栞にスーパーで会った日の翌日は栞が昼休みにちゃんと謝ってきた。
気にしないでいいと言ったが、それでも本当に申し訳なさそうだった。
別に栞が悪いわけではないので、気しないで欲しいのだが…
逆に茜の方はというと、普通にわからない問題とかを聞きにきていた。
一回、言い争いになったのに来るんだねみたいなことを言ったのだが、茜いわくそれとこれとは別だそうだ。
いやならやめるそうだが、別に頼られることは嫌いじゃないので、全然大丈夫だと言った。
それから、毎日のように質問してくるようになったから、少し大変だが嬉しかった。
学校でちゃんと話しているのは茜と栞くらいしかいないのだ。
楓とまたチェンジする時にはもう少し話せる人は増やしておきたいな。
でも、増やしすぎてもバレやすくなるかもな。
そうな感じで変わったことといえば、それくらいと栞とすごく仲良くなれたことくらいだ。
「楓、聞いてる?」
突然、そんな声が聞こえた。
最近、ほぼ毎日聞いている声だ。
「何?どうかした?」
声の主は栞だ。
あの時から、俺はいろいろあって呼び捨てで呼んでもらえるようになった。
最初は恥ずかしそうだったが、今となってはそれが当たり前だ。
「ボーッとしてたからどうしたのかって思って」
俺の顔を覗き込んでくる栞の前髪は短くなっており、顔がはっきりと見えるようになっていた。
楓には敵わないが、やっぱり可愛かった。
「あ、ごめんね」
どうやら、昼休みに話している途中でいきなり俺がボーッとしてしまったようだ。
「全然気にしなくていいよ。それで変える時にこのカフェによってみたいんだけど」
あのあとから茜とは一緒に帰るようになっていた。
最後まで一緒というわけではないが途中までは一緒だったのだ。
だからこそ、あのスーパーは栞たちからも近くだったらしく鉢合わせてしまったわけだ。
「どれどれ?」
栞のスマホを覗き込むとそれはこの前までの栞は嫌がりそうなカフェだった。
「いいじゃん!私も行ってみたい」
「ほんとう!よかった。この前から行きたいって思ってたんだけど、行く勇気がなかなかなくて」
少し話し方とかも明るくなった気がするがそれでも根の部分は変わっていないのだろう。
「そうなんだ」
カフェには1人で行けないなら、茜といけばいいのだろうが、最近あかねは忙しいらしいのだ。
学校では普通通りだし、この前遊んでいるところを見かけたのだが、栞が騙されているのではないか心配だ。
「あら、栞さんこんちには」
そんな感じで話していると、今日は珍しく屋上に人が来た。
その人は栞と同じクラスの人らしく俺からしてみれば、名前もわからない。
でも、そんな俺でもわかることがあるとすれば、その人はどっかの社長令嬢だろうということだ。
立ち振る舞い、気品、そして俺には目もくれない態度。
どちらかといえば、あかねさんと近いタイプだろうか。
そういえば、外で見かけた茜といた人はこの人だったような気がする。
「こんにちは」
栞はオドオドしたりせず、落ち着いてそう答える。
「今日も庶民の人と話しているんですね」
「友達に庶民と令嬢も関係ないと思いますが?」
馬鹿にしたような感じで言っている令嬢にしっかりしおりが反論した。
俺は少し栞に庇ってもらえたのが嬉しかった。
「あら、そうです?なら、もう少し常識を身につけた方がよろしいのじゃなくて?」
俺は口を出しそうになるが、なんとか堪えた。
それは前に栞がそう頼んだ体。
「いつか他の令嬢にいろいろ言われることにるけど、その時は口出さないでね。私がちゃんと言い返すから!」
だからこそ、俺は唇を噛み締め我慢した。
「あなたの常識は社会には通用しないと思うのですが?」
しっかりと言い返す栞の姿はまさに令嬢のようで成長を隣でひしひしと感じていた。
「そうかしら?保険令嬢がよく吠えるものね」
「それとこれとは関係ないのでは?」
保険令嬢。
それは栞のことだ。
社長の娘でありながら、社長を継ぐことがほぼない。
茜の身になんかあった時だけ、代わりになる。
それが栞、保険令嬢と呼ばれる所以であった。
「いえ、あなたが保険と言われる理由が明白でしてよ。そういうところでございますわ。茜さまとは大違いです。」
「っ!」
その言葉を聞いて、詩織の顔色が変わった。
栞は茜の話をすると、機嫌が悪くなる。
それが嫌いだからかはわからないが…
「落ち着いてください」
俺はその栞みて、まずいと思い間に入った。
「あら、あなたが私たちの話に口出せるなんて随分大きくなったと勘違いしているものね」
令嬢は俺のことを見下したようにいう。
「栞さんとは仲良くさせていただいておりますので、栞さんを馬鹿にするような発言は看過できません」
「媚び売っているだけの犬には興味ありませんわ。じゃあごきげんよう」
あかねに言われた通り、栞にさんをつけていう。
しかし、話さなくなった栞に興味がなかなったかのように屋上から出て行った。
俺たちにそれを言いたかっただけのようだ。
「大丈夫?」
「うん、ごめんね」
令嬢が完全に見えなくなって俺は栞に声をかけルト、力が抜けた感じで謝った。
「うん、気にしないで。この時代にもいるんだね、ああいう人」
ああいう人はそれこそ本とかの中でしかみたことがない。
それが今の日本にもいるということが驚きだ。
まぁ、こういう頭が飛び抜けていい人か、お嬢様しか通えない学校があるくらいだから、しょうがないのか。
「何人かは箱入りだったりするからね。」
「よく考えたら、栞は違うんだね」
今はお嬢様のようになっているが、栞は初めて会った時はまったくそんな雰囲気を感じなかった。
「私とお姉ちゃんは社会を学ぶためにも2人で生活したりしてるからね」
なるほど、スーパーに来てたのは2人で生活をしているから、執事とかにも頼めなかったのか。
「茜はそれでもああいう人たちと話したりしてるけどね」
俺はふとそんなことをこぼしてしまった。
俺はしまったと思ったが、それは栞にもう聞こえてしまっていたようだ。
「いくら楓でもお姉ちゃんを馬鹿にするなら許さないよ」
「ごめんって馬鹿にしたわけではないよ」
俺は慌てて謝る。
すると、栞は笑顔になった。
「うん、許す!でも、お姉ちゃんだっていろいろ考えてるんだから!」
「本当にお姉ちゃんが大好きなんだね」
そんなことを言う栞。
俺からしてみれば、栞がどうしてここまで茜を信じて、好きでいるのかがわからない。
でも、何かあるのだろう。
でも、聞こうとは思わない。
誰にでも言いたくない過去というものはあるものなのだ。
「うん、この世界で二番目に好きだよ」
「えー、じゃあ、一番は誰なの?」
「えー秘密!」
「教えてよ〜」
俺はそんな話をしながら、その一番が俺だったらいいなと思った。
そんな感じで今日も1日が終わるはずだった。
しかし、帰る時間から三十分以上経っても栞が現れることはなかった。
栞は時間はしっかりと守るため遅刻することは全くないのだ。
そんな栞が連絡もせずにこないため、俺は心配になって栞を探すために校舎を走り回るのだった。
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