42 斎藤海斗

 大学内のカフェテリアで、僕とルリちゃんはコーヒーを飲んでいました。空きコマだったんです。ゼミまでの暇潰しでした。


「それにしても、こう見ると瞬くんってほんまに普通の男の子やな」


 ルリちゃんはしげしげと僕の顔を覗き込んできました。


「うちやって、まともなことしてへん自覚はあるよ。でも、やめられへんなぁ。普通やないのって、楽しいわ」

「僕も、普通じゃないのが楽しい。普通の人間の皮かぶって、普通に生きてる奴らを欺くのがね」

「ほんま、瞬くん性格悪いわ。でも、元々は花崎さんのこと好きやったんやろ?」


 梓のことにはできるだけ触れて欲しくはなかったのですが、僕は彼女への恋心について話しました。聖母だと思っていたということも。


「でも、他の男と駆け落ちしたんやろ? 聖母でも何でも無いやん」

「まあ、それは推測だよ。梓が今どうしているか、僕にもわからないんだ」


 そんな嘘も、さらさらとつけるようになっていました。僕も随分と図太くなりました。

 ルリちゃんは大きなあくびをしました。前日は、黎姫先生のセミナーに行っていたようでした。兄の教えを守るのが僕なら、黎姫先生の教えを守るのが彼女でした。


「また瞬くんとのこと見てもらってん。うち、瞬くんのこと相当崇拝してたみたいやわ。今かてせやで。瞬くんのお陰で、うちも生きてる実感あるんやで」


 どうやらルリちゃんは、他の男たちとのセックスを増やしたようでした。同じゼミの斎藤海斗さいとうかいとさんもそのうちの一人でした。グループワークを組んだことがあり、海斗と僕は呼び捨てにしていました。


「海斗がな、最近彼氏ぶるねん。瞬くんとはやってへんのかしつこく聞かれるわ」

「証明したら?」

「どうやって?」

「そうだね……」


 ゼミの時間になり、僕は海斗に声をかけました。彼は背がひょろりと高く、広い額をあらわにしていました。


「海斗。今日、ルリちゃんの家で三人で宅飲みしない?」

「いいけど……」


 僕の企みは、彼らの営みを見届けることでした。海斗は嫌がりましたが、お酒をどんどんすすめました。

 ルリちゃんが脱ぎました。彼女の裸を見るのはこれが初めてでした。とてもスレンダーな体型をしていました。僕はニヤニヤとして言いました。


「ほら、海斗。僕の目の前でして。僕はルリちゃんに手を出さないから。それで証明できるでしょう?」

「でも、瞬くん、オレは……」

「勃たないの? 仕方ないなぁ」


 僕は海斗の下着をひきずりおろし、口に含みました。わざとびちゃびちゃ音をたてて、大きくさせました。


「瞬くん、なんでそんな、上手いの……」

「兄さんにさせられてるからね」

「えっ?」


 海斗に兄と繋がっていることを話しました。彼は驚いて目を見開きました。ルリちゃんは海斗の頭を撫でました。


「やから、心配いらへんよ。瞬くんはお兄さんのこと抱いてるし、抱かれてるねん。うちとはやってへん」


 二人はベッドにあがりました。僕はスマホを取り出し、撮影を始めました。ルリちゃんが海斗にまたがりました。海斗は顔を腕で隠しました。

 ルリちゃんの優位で事は進みました。海斗は声を出すのを我慢していたので、僕が手伝ってやり、喘ぎ声を漏らさせました。

 海斗が達したので、僕は一人、ベランダでタバコを吸いました。後からルリちゃんもきました。


「海斗、寝てしもたわ」

「散々焦らしたしね」


 ルリちゃんはタバコに火をつけました。今日の事は三人の内緒。また僕には秘密ができてしまいましたが、梓のことを考えるとどうということはありませんでした。

 僕は動画をルリちゃんに送信しました。もちろん海斗にも。僕は彼女の家を出て、兄の元に帰りました。


「遅かったな」

「飲んでたしね」


 あんな場面を見せられた後です。僕は兄にがっつきました。いつもより興奮している僕を見て、兄は何かに気付いたみたいでした。


「ルリちゃんとやったのか?」

「まさか。ちょっとやらしいことはしたけどね……」


 僕は早速、三人の秘密を破り、兄に動画を見せました。兄はどんどん伸びている僕の髪をわしゃわしゃと撫でました。


「可哀想に。撮影されて悦ぶのは、瞬みたいな変態だけだぞ?」

「あははっ、そうだね」


 翌日、僕は海斗に呼び出されました。僕の家に彼を入れることにしました。


「瞬くん、お兄さんとしてるって、本当?」

「うん。何なら動画見せようか?」

「いや、いい。瞬くんはおかしいよ。ルリちゃんも。オレ、瞬くんはまともだと思ってたのに……」

「男の味も教えてあげようか?」

「やめてよ」


 もうその位で、海斗を虐めるのはやめました。しかし、彼もまた変態のうちの一人でした。それからも、ルリちゃんとしている時の動画を撮影して欲しいと頼まれました。

 海斗もタバコを吸うようになりました。事後、三人で肩を寄せ合ってする喫煙は最高でした。

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