36 緊縛

 六月になり、ゼミでのグループワークも活発になりました。僕は久しぶりに自分の家に帰り、ノートパソコンを開きました。すると、とあるワードファイルが目に留まりました。梓に宛てた手紙でした。

 僕はそれを読み返しました。兄に襲われたこと、それがどれだけ苦しかったかということ、梓への恋心について書かれていました。まるで他人が書いたような文章だなと感じました。

 それから僕は、それを付け加えることにしてみました。私小説を書くのです。構想していたSFでも良かったんですけどね。そちらの方が簡単な気がしたんです。何せ、材料はたっぷりあります。動画です。それを観れば、当時のことはすぐに思い出せました。

 時間は充分ありました。僕はノートパソコンを兄の家に持って行き、彼の帰りを待つまでの間にキーボードを叩きました。時折兄が覗き込んできて、足りないところを指摘してくれることもありました。

 そんなわけで、今でも僕のパソコンには今までの経緯が眠っている筈なんです。ここまで詳しく記者さんにお話できたのも、一度文章化しているからなんですよね。まあ、まだ話は続きますよ。

 大学での僕は、優等生で通っていました。単位はたっぷりと取っていましたし、成績も優秀でした。グループワークでは、やる気のない同級生たちに作業を押し付けられましたが、それも受け入れてやっていました。

 ルリちゃんは、やる気のないうちの一人でした。僕とグループを組みたがり、そうしてやりました。当日の発表は自分がするからと言うので、完成したスライドを見せに兄の家に呼びました。


「うわっ、凄いなぁ。これ瞬くんが全部一人でやったん?」

「一人でやった方が早かったよ」


 練習、ということで、スライドの説明をルリちゃんがやりました。彼女は人前で話すことは得意なようですね。一言も詰まらずにやってのけました。これなら本番も大丈夫だろう、ということで、僕は作っていたカレーを出しました。もちろん兄も食べるので甘口です。

 兄はアルバイトでした。ファミレスではすっかり信頼されており、彼が居ないと回らないくらいだと兄が自分で言っていました。後輩も何人かできたようです。殺人者の「坂口さん」は着実に社会に溶け込んでいました。

 カレーを食べながら、ルリちゃんは今日はどんなプレイをしてほしいかという要望を出しました。僕が縛られているところを見たいとのことで、専用の縄まで持ってきていました。どこで調達したんでしょうね。聞きそびれました。

 兄が帰宅し、カレーを食べさせてから、三人で寝室に行きました。僕だけが脱ぎました。ルリちゃんは何やらスマホで動画を見ながら、僕を縛っていきました。ぬいぐるみで練習したけど、人間だとやっぱり上手くいかへんね、なんて言いながら。

 その様子は、もちろんカメラに納められていました。写真も何枚も撮られました。ルリちゃんの玩具になることも、また快楽のうちの一つでした。


「瞬くん、めっちゃエロいわぁ。はい、ピース。ってできへんか」


 僕はにっこりと微笑みました。縄は固く食い込んでおり、痕ができることは確実でした。兄は舌なめずりをしていました。彼はわざと僕の敏感な部分を外して攻めました。身動きのできない僕は、それに耐えるだけでした。


「瞬。欲しいって言ってみろ」

「欲しい。兄さんが、欲しい」


 兄は僕の中に入りました。ルリちゃんは恍惚とした表情で自分の股間をまさぐっていました。いやらしい音が寝室に響きました。それらも全部カメラが拾っているのだと思うと、余計に興奮しました。

 終わってから、縄を解くのはルリちゃんがやりました。痛々しい僕の身体を、また撮影し始めました。彼女が帰ってから、兄と湯舟につかりました。彼は愛おしそうに痕をさすり、僕の首に口づけました。


「兄さんも縛ってもらったら?」

「それは無理。ルリのこと、嫌いじゃないけど、身体を触られるのは抵抗あるな」

「僕は兄さんが緊縛されてるのも見たいなぁ……」

「この変態が」


 兄は僕の顔にお湯をかけました。僕もやり返しました。しばらくそうして遊んでいると、また欲情してきました。


「兄さん、お風呂あがったら交代ね?」

「えー、まだやるの?」

「変態だからね」


 兄は手だけは縛らせてくれました。ルリちゃんが縄を置いていったので、それを使ったんです。

 お返しにと、僕は兄を散々焦らしました。可愛らしい声を漏らし、兄は悶えました。


「早くしろよ……」

「ほら、兄さんも言ってよ。欲しいって」

「瞬が欲しい。だから、早くしろって……」


 精神的には優位に立ちたがる兄でしたが、それがまたいじらしくて、そんなところが大好きでした。

 僕がお望み通りにしてあげると、兄は大きな声をあげました。兄の手首にも、痕がつきました。


「お揃いだね、兄さん」

「うん……」


 ぐったりした兄の頬にキスをして、僕はその痕を指でなぞりました。

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