28 参加者
夏休みになりました。僕はなるべく兄とシフトを合わせました。仕事の時でさえ、一緒に居たかったんです。
ルリちゃんがファミレスに来たことがありました。僕は兄を紹介しました。
「ふふっ、いっつも動画で観てます」
兄はルリちゃんを気に入ったようでした。女嫌いの彼でしたが、彼女は例外になったようです。
そして、アルバイト先では、次第に梓の話はされなくなりました。警察が来るなんてことも無かったです。
梓の親は、彼女が居なくなったことに、気付いていないようでした。兄によると、そもそも親と思われる人と連絡を取っていた形跡が、全く無いとのことでした。
僕たちにとってはそれは好都合でした。彼女の失踪から長引けば長引くほど、僕たちに辿り着く可能性が低くなります。
兄との行為に僕は溺れました。彼の欲望は全て叶えました。そして、僕の欲望も。
「なあ、瞬。あのメスガキ、殺して良かったな」
ある夜、裸でタバコを吸いながら、兄が言いました。
「僕は……そう思えないけど」
「なんでだ? あいつが邪魔だったから、俺たちは愛し合えなかったろ?」
「殺さなくても方法はあったと思うんだ」
その当時の僕は、心から兄を愛していましたから。梓への想いは全く無く、けれども殺してしまったことへの罪悪感はありました。
梓に口止めをして、彼女にアルバイトを辞めさせるか、それとも僕と兄が辞めるか。そういう風にして、距離を取れば良かったんです。
「僕があの時、兄さんを止めていれば……」
「まあ、やっちまったもんは仕方ねぇよ。バレなきゃいいんだ、バレなきゃ」
殺人という大きな罪を犯したにしては、兄はあっけらかんとしていました。いや、そんなものなのかもしれませんね、人は。
兄との時間が増えれば増えるほど、何が「普通」なのか僕にはわからなくなっていました。ルリちゃんという理解者もできてしまったことですしね。
そのルリちゃんを、兄は家に呼ぶよう言いました。まずは三人で酒を交わしました。彼女は兄を伊織さんと呼びました。
「伊織さんって、何人くらいとやってきたんですか?」
「んー、覚えてねぇ。百はさすがにいってないと思う」
「あははっ! 凄いですねぇ」
しばらく話が盛り上がったところで、兄は寝室へと僕たちを招きました。
「ルリちゃんにサービス。生で見せてあげる」
「えっ、兄さんマジで?」
「やったー!」
直接見られるということには、さすがに恥ずかしさがありました。けれどもルリちゃんは嬉々としているし、兄に逆らうわけにもいきませんから、大人しくベッドに乗りました。
ルリちゃんのリクエストで、僕が兄を抱くことになりました。彼女は年下攻めの方が好きらしいです。エンターテイメントとして消費されることに、僕は段々興奮してきていました。
「兄さん、四つん這いになって?」
僕はルリちゃんに全てを見せつけました。彼女はスマホを向け、写真を撮ってきました。それから履いていたデニムをずらして中に突っ込み、指を動かしていました。
コンドームの中の精液まで、ルリちゃんは飲みました。こうした参加者が居ることで、兄も高ぶっていたようでした。
「ルリ、本当に変態だな」
「くふっ、褒められると嬉しいですね?」
ルリちゃんが帰ってから、僕たちは湯船につかりました。後ろから兄に抱き締められながら、僕は言いました。
「ルリちゃん、いい子だよね?」
「そうだな。あのメスガキとは大違いだ」
「梓の話はしないでよ」
「そうだな。もう死んだ女の話なんかしても仕方ねぇもんな」
その夜、僕は夢を見ました。梓に馬乗りになられ、首を絞められる夢でした。彼女が夢に出てきたのはこれが初めてでした。僕は叫び声をあげて飛び起きました。
「どうした、瞬」
僕は兄に、梓のことを話しました。兄はとりあえずタバコをすすめてきました。紫煙を吐き出し、僕はこんなことを思いました。
いつか、梓の亡霊に、殺されるのかもしれない。
そのことを言うと、兄は笑い出しました。
「俺、前に言ったよな? 死んだらはい、終わりって。亡霊なんかも居ないんだよ」
「でも、梓は僕たちを見ている。そんな気がするんだよ」
「おいおい、大丈夫か? しっかりしろって。魂なんてものは、無いんだよ」
僕もそれを信じようとしました。しかし、ダメでした。梓は度々、僕の夢に出てくるようになりました。
ある日は、僕の首に縄をかけ。またある日は、水の中に僕の頭を突っ込み。ガムテープで口を塞がれることもありました。
僕は憔悴していきました。眠ることがこわくなりました。兄から睡眠薬を貰ったのですが、それも尽きてしまいました。そうして悪夢を見る度に、兄に慰められましたが、根本的な解決にはなりませんでした。
「瞬。一度、精神科行こうか。薬貰おう」
予約がいっぱいで、初診を受けられたのは九月になってからでした。兄と一緒に病院に行きました。
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