19 特別
クリスマスの日、僕は一睡もできず、朝の七時頃にまず梓さんを起こしました。アルバイト先の後輩の家、しかも男性のところで、うっかり眠ってしまったことを梓さんは恥ずかしがっていました。
それから二人で兄を起こしに行きました。僕は寝室の床で寝ていたことにしておきました。
「あーもうあたしったら、ごめんなさい!」
梓さんは何度も兄に頭を下げていました。兄は笑って許し、トーストとジャム、それにコーヒーを僕たちにふるまってくれました。
その日は梓さんだけシフトが入っていました。僕は予め、兄に空けておけと言われていたんです。
僕は梓さんと一緒に、一旦兄の家を出ました。僕は帰宅してシャワーを浴び、着替えました。兄からすぐに来るようにと連絡がありました。
「この車は?」
「カーシェア。便利だぞ。十分単位で借りられるからな」
僕はまた、行き先も告げられずに助手席に乗りました。今度はそう遠くないところでした。ラブホテルでした。予約をしていたようで、兄は窓口で名前を言いました。
そして通された部屋には、壁に拘束具が取り付けられていました。僕は身震いしました。間違いなくこれを使うつもりです。
「まあ、そんなに怯えるなって。まずはタバコ吸おうか」
喫煙を終え、僕は自分で脱ぐよう指示されました。そして、恐れていた通り壁に拘束されました。これからどんな責めを食らうのだろう。唇を噛み締めていると、兄はこう言いました。
「昼メシ用意するの忘れてたわ。出前取ってもいいけど、ちょっとコンビニで買ってくる」
「えっ、ちょっと……」
本当に兄は出ていってしまいました。その時の僕の状態は、肩より上の所で両腕を吊られ、足を大きく開かされ足首を留められているといったものでした。
そこの位置から時計を見ることはできませんでした。なので、何分放置されていたのかはわかりませんでした。体感では、一時間近くでした。
兄が帰ってきてくれたときには、既に身体が悲鳴をあげていました。
「お願いです、外してください……」
「だーめ。今からが本番なんだからな」
兄は道具を使いました。ラブホテルに備え付けられていた物です。僕は情けなく身悶え、悲鳴をあげました。後から気付いたことですが、その様子もしっかりと撮影されていました。
「ほら、瞬。しっかり言ってみろ。自分は実の兄に拘束されて虐められて興奮するような変態ですって」
「言えません……」
「こんだけ身体反応させといて、何反抗してんの?」
僕は頬を叩かれました。つうっと涙が流れました。昨夜は眠っていないし、身体はもう限界でした。何も考えられなくなっていました。
「僕は……変態です……」
「だろ? 瞬のこと相手してやれるの、兄さんしか居ないよな?」
「はい……」
ようやく拘束を解かれました。僕は兄に肩を貸され、ベッドに飛び込みました。これで終わる筈がありません。
兄は僕を仰向けにさせると、またがってきました。散々責め苦を受けていた僕は簡単に達してしまいました。
「思い出に残るクリスマスだったろ?」
タバコを吸いながら、兄は満足そうでした。僕はベッドから動けずにいました。兄は僕の口元に吸っていたタバコを持ってくると、くわえさせました。僕はそれを吸い、吐き出しました。
それから僕は眠ってしまいました。兄はコンビニで二人分の牛丼を買ってきてくれていましたが、それを夕食にまわすことになりました。昼食を我慢してくれていたなんて、優しいななんて思いました。
兄の家で牛丼を食べた後、今日の様子の鑑賞会が行われてしまいました。目を逸らせば怒られるだろうと思ったので、羞恥心に身を焼かれながら、我慢して観ました。
「本当に瞬は変態だよな。もうこういうセックスしかできないんじゃねぇか?」
「そんなこと、ないです」
けれど、兄の言うように、普通のことでは足りなくなってしまっているのではという恐怖感がありました。
僕は変態なんかじゃない。そう言いきれない自分が居ました。そのことは、兄をますます悦ばせたのでしょう。
「お前は特別だよ、瞬。兄さんにとって、自慢の弟だ」
「こんな僕がですか?」
「ああ。兄さんの期待に応えてくれた。大好きだよ、瞬」
暑苦しい程の愛情でした。曲がって、歪んで、とげとげしいものではありましたが、それでも愛情でした。
「僕にとっても兄さんは特別ですよ」
兄の大きな手を僕はさすりました。それは次第に組み合わされ、熱を持ちました。交わるのは嫌でしたが、肌を合わせることは心地よかったのです。
その日は浴槽にお湯を張り、一緒に入浴しました。とても窮屈でしたが、後ろから抱き締められると、暖かい気持ちになりました。
僕は何もかも諦めることにしました。その方が気楽だったのです。梓さんへの想いは、宝箱にしまっておくことにしました。
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