第21話 ついに

 それから俺たちは色んな屋台を回っていった。


 とりあえず、からあげを軽く平らげてしまうとお腹が空いてきて、焼きそば、いか焼き、焼きトウモロコシ、豚串などを買った。


 どれも匂いからしてもう美味しい。もちろん味も、濃い味付けでとても美味しかった。


 それだけ食べると、俺のお腹は満足だったのだが、そこからさらにりんご飴とわたあめを買った。


 満足とは言っても、お腹いっぱいではなかった俺は美味しくその二つを平らげた。

 愛子もおいしそうに食べていて、俺も愛子ももう少し食べれそうだなあ、という雰囲気があった。


 そこで、スルーした屋台に買いに行こうということになって、道を引き返すことにした。


 まだ食べられそうという気はあったものの、食べきれないと勿体無いので、ここからは二人で一つを食べることにした。

 結局当時のスタイルになってしまったが、いろんな種類のものを食べられるのでよしとした。


 そんなこんなで屋台を見て回っていると、いつのまにか入り口に戻ってしまった。


 もうそのころには俺も愛子も十分満足していて、不満はなかった。

 しかし回る所が無くなって、これからどうしようかという空気になった。


 時刻は七時を過ぎたところ。

 今日の用事は済ませたことだし、このまま家に帰るというのも一つの手だ。


 でも、それは何だか寂しかった。

 まだ、愛子とこの空気を楽しんでいたかった。


 と、そこで一つやり残したことに気が付いた。


 今日の目標である『愛子を褒める』ということができていなかった。

 俺はこのことを愛子に会った時から忘れてしまっていた。


 そもそも俺のプランでは最初に浴衣を褒めるつもりだったので、最初の計画がずれてしまい、よくわからなくなっていた。


 俺はちょうどいい理由が見つかったのをいいことに愛子にある提案をした。


「せっかくだし、ちょっとぶらぶら歩いてから帰らない?」

「いいよー。お腹いっぱいだし、歩いてちょっとでもエネルギーを消費しておこう」


 愛子はやる気満々な様子でオッケーしてくれた。俺も心を決めて、愛子を褒めることを決意しなおした。



 考えてみると、愛子を褒められる機会は案外多かったのではないかと思う。


 愛子と待ち合わせをしたタイミングだって、服を褒めることはできたはずだ。

 それに愛子の笑顔をよく思ったことも多かったし、ちょっとした仕草とか表情でもぐっと来たことはあった。


 それでもそれを口に出せなかったのは、褒めることを意識していなかったから。


 でもそれは当たり前のことで、しょっちゅう人のことをかわいいとか言って褒めてるやつは信用ならないと思う。


 何が言いたいのかというと、褒めようと思ったら意外と簡単に人を褒めることはできるということだ。


 実際、今俺の前を大げさに腕を振りながら歩いている愛子をかわいいと思う。

 そういうわけで、俺は今から愛子を褒めようと思う。


 話の流れの中で自然な感じで言えたらいいのだが、俺はそんなことができるほど話すことに慣れていない。

 ここは思い切って、いきなり愛子を褒める。


「そうやって楽しそうに歩いてるの、すごくいいな」


 ………!!!!!


 恥ずかしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……


 …………。

 …………っは、あ、あ、ああ……。


 はあ、恥ずかしかった。

 思ってたよりもセリフが気持ち悪かったし、何か決め顔でかっこつけてしまったような気もするし最悪だった。


 普段意識して人を褒めることが無いから、どうしても違和感のある仕上がりになってしまった。

 それに、直前までかわいいと言うつもりだったのに、いいねに変えたのがダサい。


 自分が気持ち悪くて嫌になる。

 愛子のリアクションが怖すぎて自分の世界から出られない。今現実に戻ったら、なんかもう本当に嫌なことが起きそうだ。


 しかし時の力に逆らうことはできず、俺は現実に引き戻されてしまった。

 そして目の前の愛子の顔を見る。


 愛子は不思議そうな顔をして、俺の方を見てる。きっと、俺がなぜあんなことを言ったのか疑問に思っているのだろう。


 それか、俺と縁を切るべきかどうか悩んでいるのかもしれない。どうすればいいか疑問に思っていてもおかしくない。


 とにかく、愛子は疑問が隠しきれていなかった。


「ごめん、今の説明するわ」


 本当なら、今のなしで! と叫びたい俺だったが、これ以上ダサいことを重ねると死では済まない気がしたのでやめた。

 ここはしっかりと理由を説明して、愛子の信用を取り戻す方がいいだろうと思った。


「今のは、愛子を褒めようとしたんだよ」

「まあ、内容だけを聞いたらそうだよねえ」

「そう。で、なぜそんなことをしたのか、というと少しずつでも、自分の思ってることを伝えようと思ったからなんだけど……」

「もうわかったよ。さっきは急に変なこと言いだして、気持ち悪いと思ったけど今はもういいや」

「縁は切らないでもらえるってこと?」

「そりゃそうだよ。そもそも、もう縁切るつもりなんてなかったし」


 愛子はそう言って、呆れるようにして笑った。

 俺はそんな愛子の様子に安心してお茶を飲んだ。何とか丸く収まって、急に喉が渇いたのだ。


 俺が中身を飲み干すくらいの勢いで飲んでいると、愛子が独り言のようにつぶやいた。


「あの時の失敗を、乗り越えようとしてくれてるんだね」


 愛子のその言葉に、俺は返事をすることができない。


 『あの時の失敗』を、ついに白状すると、愛子の告白に俺が何も答えられなかったことだ。


 それも二回、俺は愛子の告白に何も答えらえなかった。


 一回目は英語の習い事の帰り、唐突に愛子に告げられた。その時は本当に驚いてしまって、俺があたふたしていると愛子が走って逃げてしまった。


 二回目は二人で花火大会に行った時のこと。この時はしっかり面と向かって言われてて、一回告白されていたのにもかかわらず何も言えなかった。


 これが俺と愛子の縁が切れた理由だ。


 小学五年生の夏から、俺たちは交流を持たなくなった。

 残りの小学校生活のうちでは一度も話さなかったし、中学になって少し話してもらえるようになった。


 高校に入ってからはだいぶ打ち解けて、今はまた二人で『夏祭り』に来れている。

 しかし、『花火大会』には行けなかった。


 花火大会に行くのは二人であの時のことに決着をつけてからだと思っている。

 そしてそのために、俺はもう何も答えないなんて洗濯をしないように、少しずつ思っていることを伝える。


 あの時と同じミスを繰り返すことは、もう絶対にしたくない。

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