第17話 趣味
俺は愛子に着いて、見覚えのある部屋に通された。
中に入ると、そこはやはり変わっていたが確かに愛子の部屋だった。
勉強机に本棚、机と分離する引き出しなど昔と変わらないものもある。逆に俺は知らない本棚や棚なども置かれている。
「私、お菓子取ってくるから椅子にでも座ってて」
愛子はそう言って部屋を出て行った。
俺は愛子の言った通り、勉強机とセットの椅子に座った。
そうしてもう一度辺りを見回してみると、意外と思い出の品が多かった。
俺がお土産に買ったストラップや、二人で英語の塾に通っていた時のメダル、俺が誕生日にプレゼントした文房具など。
そういったものがこの部屋には散りばめられていて、正直驚いた。
愛子が以前、自分のことを思い出を大事にするタイプと言っていたが本当だったようだ。
それでも、こんなに大量に思い出があると逆に落ち着かない。
というか、俺からするとこの部屋は正直異常に感じた。
俺の部屋にはこんなに思い出の品はないし、自分の趣味のグッズであふれている。
それなのにこの部屋にはそういったものが見当たらない。
愛子の部屋で変わったように思ったのは収納面だ。本棚や小さい棚など実用的なものだけで、趣味が見通せない。
もちろんその中に仕舞っているだけなのかもしれないが、一つも見当たらないのは違和感がある。
俺に見られたくない趣味でもあるのだろうか。
「お待たせ。さっき開けたお菓子に追加してもう一個持ってきたよ」
そう言って愛子はまた新しいチョコのお菓子をもって部屋に入ってきた。
俺は愛子の趣味ってなんだろう、と考えながらお菓子に手を伸ばす。
よく考えてみると、愛子が何かにはまっているという話を聞いたことが無い。
お菓子はよく食べるけど、それが趣味なのだろうか。さっきも料理してたし、食に興味があるのだろうか。
「ねえ、愛子って食べるの好き?」
「まあ、人並みには好きだけど」
「じゃあ趣味って程ではないの?」
「まあ、そうだね。料理もよくするわけじゃないし、お菓子も健吾といる時しか食べないことにしてるし」
「それはなんで」
「最近そうしたんだよ。健吾と会うのが多くなって、その分お菓子を食べるタイミングも増えたから、太らないようにしないとと思って」
そう言いながら愛子はチョコのクッキーを開封した。
俺の予想と反して、食は趣味ではないらしい。
それなら次に思いつくのは文房具だ。
愛子はまだペン型消しゴムを使っているし、文房具へのこだわりはありそうだ。机にも俺が上げたシャーペンなどが置いてあるし、もしかしたらこれが趣味かもしれない。
「じゃあ文房具は好き?」
「別に好きでも嫌いでもないよ」
「……じゃあ、文房具集めが趣味だったりしない?」
「しないよ。好きでもないって言ったじゃん」
これまた違った。
まあ、そう言われると愛子の持っている文房具はあまり新しいのはなさそうだったし、全然違ったのだろう。
じゃあ一体愛子の趣味は何なんだよ。
もうすでに見当がつかなくなってしまった。
「ねえ、さっきから何なの? 初対面でもないのに好きなもの聞いてきて」
さすがに違和感があったのか、愛子が聞いてきた。
「実は、愛子の趣味を当てようとしてたんだよ。部屋を見ても全然見当がつかなかったから」
「ああ、なるほどね。そんな推理ゲームが行われてたんなら、私も誘ってよ」
「いや答え知ってるじゃん」
「そうだけどさ。……私の趣味かあ。ぱっと思い当たるのは二個だけど、そのうちの一個だけ教えてあげるよ」
そう言うと愛子は立ち上がって部屋を出た。
少しして愛子はスマホをもって戻ってきた。スマホケースは紺色のシンプルなやつだった。
「私はよくこれを見てるんだよ」
そう言って愛子はある動画を見せてきた。
画面には焚火の映像が流れていて、他には特に何もない。夜の闇の中明るく灯る薪はきれいだと思うが、映像はあまり変わらない。
「暇なときはずっとこれを見てるんだ。ベットに横たわってただ焚火の音を聞いて、その様子を眺めてる」
「……それって楽しいの?」
「別に楽しくはないよ。癒されるってだけ。私はほら、情緒豊かなタイプだから普通に生きてるだけで疲れちゃうんだよね。でもこの動画を見てるときはあんまり感情が出ない。だからすごい楽なんだよ」
「昨日のお笑いとは真逆だね」
「うん。でも昨日のライブは本当に楽しかった。今までは感情を抑えるつけるとか無にするとか考えてたけど、発散するっていうのも本当によかった。これからはお笑いも趣味になるかも。そうなったら趣味は三つに増える」
「……それならよかったよ。俺のおすすめの芸人さんの動画送っとく」
「ありがとう。あっ、そうだ。今日のプランのこと忘れてたよ。ちょっと待ってね」
そう言うと、愛子はまたしても席を立った。そして棚の前に移動すると、迷いなく一冊の本を出してきた。
「これ、中学の卒業アルバムだよ。一緒に見よ」
「やだよ。恥ずかしいし、懐かしむにはちょっと早いでしょ。卒業してから三か月しか経ってないぞ」
「それでも中一とか中二の時は懐かしいでしょ。せっかくだから一緒に見ようよ」
そう言って愛子は机にアルバムを置いてページをめくりだした。
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