第7話 全然だめ

 実は今一週間後に期末試験が控えている。正確に言うと、明日で試験一週間前となるのだ。

 高校に入って二回目の試験。最初の中間テストで大体どんな問題が出るかなどもわかったので、俺はさらなる高得点を目指すつもりでいた。


 前回のテストでは学年二十九位と、結構高かった。しかし俺は全然満足していない。

 もっと勉強しておけばいいところとか、残念なミスが目立っていて、悔しさも残ったのだ。


 そこで俺は部活動が緩いというアドバンテージを活かして、テスト二週間前から勉強を始めていた。

 土日もフルに使ったおかげで、授業で習ってないところ以外の範囲は大体カバーできた。


 つまり余裕が生まれたのだ。


 余裕なんて活かすに限る。そこで俺は愛子に一緒に勉強しようと誘うつもりでいた。

 愛子から何となく聞いた感じ、前回はあまり点数が高くなかったようだ。そこで、俺が勉強を教えようと思ったのだ。

 だから俺は今日、勉強に誘うことを目標として部活動に参加している。伝えたいことを、少しずつでも伝えるために。


「……」


 とは言っても、何かに誘うというのは相当な勇気が必要なもので、ちょっとした覚悟ではなかなか言い出すことができない。


 そもそも勉強に誘うとか、青春感がかなり強いし、自分がそんな青春行事をしようとしていることが恥ずかしい。

 自分のことなど気にしないでほしい、なんて思っていた人間がそんなことしていいのだろうか。


 いや、いいんだろう。

 別に意見が変わることなんて、しょっちゅうあるし、それが普通のことなのだ。過去の自分を裏切るとか言われようと、別にそんな問題じゃないと思う。

 どっちも受け入れればいいだけだ。


「試験勉強は進んでんの?」


 全部の自分を受け入れたおかげか、スッと言葉が出てきた。勉強を誘うための助走的な会話が始まる。


「ぜんぜん。まだ何の宿題にも手を付けてないよ。ノーベン状態」

「なるほどなあ。俺はもうだいたい終わったぞ。あとは授業で学んだところをカバーするだけ」

「そう」


 そっけない態度をとられてしまった。

いやいや、別に今のは自慢したいわけじゃなくて、自分の実績を発表したかっただけなんだ!

なんで面倒くさがられなきゃいけないんだ!


「いや別に自慢したいわけじゃなくてね。ホントにホントに。全然そんなつもりなかったからさ」

「しつこい。わかったわかった。……はあ、それで、今回はさらなるランクアップは望めそうなの?」

「多分いける。学年順位をランクっていうなら、今回は大幅なランクアップが望めそうなんだよ!」

「いいじゃん。健吾はほんと真面目だからね」


 真面目だ、と言われて我に返った。


 愛子に乗せられてべらべら喋ってしまったが、本題を見失っていた。俺は別に自慢したかったわけじゃない、愛子を勉強に誘うことが目標だったのだ。


それは思い出したのだが、愛子の言葉に許せないことがあった。


「愛子、今俺のこと真面目って言ったな」

「言ったけど?」

「俺は真面目ですごいねって言われるのが一番嫌なんだよ!」

「……なんで?」

「距離を取られてる気がするから」


 俺は真面目だって言われて真面目なキャラを取らされるのがすごく嫌だ。

 あいつは真面目だからって言って距離を離されてる気がして嫌だ。

 それに何だかまじめなのが良くないことだ、なんていう風潮があってちょっと馬鹿にされてる気もするんだよなあ。


「ごめん。何気なく言っちゃった。次から気を付けるよ」


 素直に愛子に謝られて、俺はまたしても我に返った。


 さっきは熱くなってしまったが、俺が急に怒り出して迷惑だったんじゃないか?

 やってしまった。

 自分の気持ちを伝えることに集中しすぎて、制御できなくなってしまっていた。


「いや、こっちこそごめん。急に怒っちゃってごめん。これからは本当に気を付ける」

「私はいいよ。ほんとに嫌だったんだろうし、嫌だったらいまみたいに言ってほしい」

「ごめん、ありがとう」


 今回は一瞬で仲直りできたが、勉強に誘うような空気ではなくなってしまった。


 どうしようか考えていると、愛子がリュックから一枚紙を取り出した。それは真っ白なルーズリーフだった。

 何をするのかと覗こうと思ったが、愛子に

「見ないで」

 と言われたので、視線をそらした。


 愛子が何やらルーズリーフに書き込みだしたので、俺はすることが無くなってしまった。愛子が何をしているのか気になるが、見るなと言われたら見れない。


 俺は仕方なく勉強することにした。

 既に三周した数学のワークを出して、四週目に取り掛かる。四週目ともなると、さすがに解き方も覚えてきた。


 俺は脳内で解法を考えながらワークを解き進め、愛子はプリントに何かを書き続けているうちに、時刻は午後五時を過ぎていた。

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