第4話 戦う美少女は…… その1

「さてさて、どんなクエストがあるかな」

 初めてのクエスト。RPGにおいてはゲームのシステムを楽しむ最初の機会。これを外したらそれはクソゲー認定まった無しである。

「お願いだぞ。クソゲー世界で余生を過ごすのは御免だ」

 せっかく異世界転生したのだ、楽しみたいじゃないか。

 変態は―――いや、もぉ言うまい。噂をすれば影が差すと言うしな。君主危うきに近寄らず、だ。

 ギルドの掲示板の前で目をつむっていた俺は、そ~~~~~と目を開いて掲示板に張られている紙を読んだ。


『町内美化週間~ボランティア清掃員の募集について』


「…………お掃除クエスト?」

 でもボランティアって書いてあるし、なんか違う気がする。

「あの、すみません」

 通りかかったウエイトレス訊ねてみた。

「え?クエストならそこじゃなくってアッチよ。窓口で教えてもらわなかった?」

「あっ……聞いてなかった」

 やらかしたぁ~~~。

 俺はウエイトレスさんにお礼を言って教えてもらった場所に向かう。

 そこには複数の冒険者がすでにいて張り出された紙を見ていた。

「少し待たないといけないかな」

 そう思ったのだが。

 後ろに立つ俺に気が付いた男性が居たので笑顔で会釈すると、男性は驚いた顔で仲間に小声で話しかけて。

「ど、どうぞ」

 何故か場所を譲られた。

 俺が新人だからかな?

 優しいやつも居るじゃないか。

「ありがとう」

 ならば好意に甘えさせてもらって掲示板を見る。

「…………おい、なんでお前ら距離を取る」

「えっ、いえそんなことはないよな、なぁ」

「おい、こっちに振るなよ」

 明らかに避けられていた。

 俺、なんかしたか?

 とりあえず手ごろな奴に聞いてみることにした。

「おに~~~さん♡おススメのクエスト、教えてほしいな」

 会心の笑顔で上目使い、これで落ちないはずがない。

「えっ、え~~~~と」

 くっくっくっ、テレてるテレてる。ネカマで鍛えたこの技は伊達じゃない。童貞の1人や2人、殺して見せようホトトギス、だ。

 なんか自分の首を絞めている気がするけど、気のせいだろう。

「そ、そうだね~~。えぇと、君はまだ初心者なんだよね」

「そうで~~す~~♡まだランクがお星さま1つだけなの。あっ、職業は【斥候】です」

「そうなんだ。それだと1人は大変だろ。僕たちのパーティーに参加しないかい」

「わ~~、それは助かります~~。お兄さん頼りになるんですねぇ」

「え?えへへぇ、そんなことないよぉ」

 …………デレデレしやがって。

 いつもはゲームのモニター越しだったから分からなかったけど、リアルだと中の人はこんな顔してやがったんだ。

「……………………キモイな」

「ん?何か言った」

「いいえ~、なんにも」

 とりあえず笑っておこう。昨日の苦労を思うとキモブゥ、もといモブキャラでもいないよりましだ。

「それじゃ仲間に紹介するね」

「お願いしますぅ~」



「と、言う訳で連れてきた」

 声をかけた冒険者は俺の為の初心者向けクエストの受注をすると仲間の元へ案内してくれた。

「と、言う訳で。じゃないわよ。あんたバカなの!」

 場所はギルドの中ではなく別の建物の中に有るお店だった。

 雰囲気的には昼はカフェで夜は酒場になる感じかな。

 そんなお洒落なお店にお似合いな赤髪の少女が冒険者、ややこしいからA君とでもしておこう。A君に食ってかかる。

「あのねぇ、ワタシ達だってやっとこさ駆け出しから卒業できたばっかじゃない。なのにこんな素人の面倒を見ようっての⁉」

 むっ、素人だと、聞き捨てならんな。

 こう見えても俺は大人の漢だ。

 子供の頃に憧れた大人になろうと日々努力をかかさなかった。……はずだ。

 その大人がよく言っていた。「この素人が!」と。

 そうだ。そいつは何より自分が玄人プロであることに誇りを持っていた。人生のありとあらゆることの玄人プロ。故に素人呼びが何より許せなかった。もちろん俺も許せない。

 ———ん?お前いくつだよって?そんなツッコミが出来る奴こそいくつだよ。って言いたい。

 そんなの40代…………いや、このマンガもっと年食ったオッサンの世代か。…………釣りバカ日誌を連載してる雑誌に載ってたしな。そこから分かるだろ。

 惜しむらくは人気名作にも関わらず作者死亡で断筆になったことか。大晦日の年越し麻雀が懐かしい。


「…………その子、1人で天井を向きながら泣いてるけど、大丈夫?」

「多分憧れの冒険者パーティーに入れることに感動してるんだよ」

「…………ふぅん、それならいいんだけど」

 俺が憧れの南倍南みなみばいまんに思いををはせらせていると何故かこいつらに憧れていることになってやがる。


「これだから素人は!」


 心の中で叫んで表向きは笑顔で通した。

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