第3話 女はつらいよ。 その8

「よし―――」

 取り合えず防具は手に入れた。革製の簡易なブレスプレートとレギンスだが、ぴっちりと体にフィットするため素朴ながら妙な色気がある。

 髪の毛もポニーテールにしたので活動的で健康的なエロスがある。

 贅沢を言うならブルマで体操着の幼女が良かった。

「…………ぅぷ」

 ここでも中身オッサンの自分を想像してしまった。

 幼女の自分に慣れるのは何時になるんだろう。

 ———とりあえず冒険に行こうと思い門に向かうと。


「いました。あそこです」

 見覚えのない3人組が寄ってきた。

「てめぇ、待ちやがれ」

「あっ、間に合ってますんで」

「そうですか。…………じゃ、なぁい!てめぇ、さっきはよくもやってくれたなぁ」

「さっき、はて?」

 覚えがない。

「ギルドでてめぇが泣いたせいで危うく捕まるところだったんだぞ」

「ああ、あの時の。禿げとチャラ男とモヒカン」

「誰が禿げだ!」「誰がチャラ男だ!」「…………」

 1人、異論はないみたいだ。というか、すっごい目で睨んで来てる。

「オレがデネブ」

「アルタイル」

「……ベガ」

「「「3人そろって」」」

「バカの大三角形?」

「「ちっが~~~~~~う」」

「~~~~~、五月蠅いなぁ。どうでもいいじゃないか。俺は行くぞ」

「行くなぁ」

「少しはオレ達の話を聞けぇ!いや、聞いてください。いや、マジで話を聞いてぇ」

「ん~~、少しだけだぞ」

 泣きながら縋り付いて来そうだったので引きはがす。

「てめぇ、可愛いからって調子に乗るなよ」

 威勢を取り戻しやがった。

「そうだそうだ、可愛いからって正義じゃないぞ」

「うん、そこは否定しない」

「「いや、否定しろよ!」」

「それで、お終い?」

「ちげえよ。てめぇには落とし前付けてもらわねえとな」

「落とし前田のクラッカー」

「なんだよ、ソレ。いちいちボケんな」

「おい……こいつヤバイんじゃ」

「そんな気はするが―――」

 むっ、聞き捨てなりませんね。

「そんなことより、おい!てめぇのせいでアニキがおかしくなっちまったんだ」

「はぁ?何で」

「テメェが頭をゴスゴスと踏みつけてくれやがったせいで」

「あ、ああ。モヒカンを踏み潰したアレか」

「そうだ。そのせいでアニキは―――アニキは頭がおかしくなっちまったんだ」

 元からじゃね?と思ったが、そのモヒカンは黙ってこっちを睨み続けてきている。

「ぅお、なんだよ」

 ズイっとこっちへ近づいてくるモヒカン。デカい分迫力があった。

「…………」

「やろうってのか」

 俺がナイフを構えようとすると。

「……オレサマを踏みつけてください!」

 いきなりフライング土下座してきた。

「…………やっべぇ、ホントにおかしくなってやがる」

 だが、これはもうどうしようもないんじゃないかな。

 目覚めちまったモノはもう戻せない。

「すまんが俺には何も出来ない」

「踏んでくれるだけでいいのです!」

「いや、……無理」

 敵をけたぐり倒すのは平気だが、それを望んでいる相手にするのは出来ない。キモチワルイ。

「すまないがそういうプレイはお店で」

「どちらのお店に勤めてらっしゃいますか!」

「いやプロじゃねぇよ!知らないからんな、自分で探せ!」

「あぁ、待ってください。お姉さま~~~~」

 やめろ。そのなよっとしたポーズでお姉さまとか呼ぶな。

 あぁ、クソ。なんでこんなのバッカ寄って来るんだ。これも俺が美少女だからか。裏アカでネカマやってた報いですか。そうなんですね。


「俺の、ばっきゃろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 走りだした俺の口から出た叫びがこだました。

 トボトボとギルドに戻る途中に市のあった場所の前に通りかかると。

「……………………あの屋台無くなってやがる」

 代わりに。

「……………………むしろ亡くなってやがる」

 店主は死んでいた。————社会的に。

「……………………嫌なモン見ちまったな」

 忘れよう。

 今日あった嫌なことはみんな忘れてしまおう。忘れてクエストを受ければいい。

 そう、今日という日はまだ始まっていない。物語はクエストを受けるところから始まるのだ。

 それでいいよな。


「はぁ、—————女はつらいよ」


 決して異世界のせいではない。そう思いたい。

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