第3話 女はつらいよ。 その7

「よし。【斥候】にするぞ」

 俺に足りないものは―――情熱、思想、理想、優美さ、勤勉さ。

「———そして何よりも”速さ”が足りない」

 …………ハイ、ネタに走りました。ラディカルグッドスピードだけに、脚部限定です。ハイ。

 そうは言っても速さは大事だ。

 RPGでは初心者は攻撃力を上げるために力に頼るだろう。

 中級者はやられないために防御力を上げるだろう。

 でもそれでは駄目なのだ。

 速さが低いとバックアタックを受けやすくなる。加えて運が低いとクリティカルを連発されて、敵の行動回数が増えるので何もできずに全滅するのだ。

 懐かしのゲームの苦い思い出が甦る。

「おのれダンテ、貴様に追いかけられたことは一生忘れないぞ」

 俺が多くのゲーマーの気持ちを代弁していると。

「あらっ、エアリオさんはダンテ様と会ったことがあるんですね」

 羨ましいです~~。という受付のお姉さんに顔を上げて見つめ合う。

「…………ダンテ、いるんですか?」

「ハイ。帝国が誇るトップ冒険者です」

 よし。そいつが中ボスだな。

 そう決めた俺はさっさと登録を済ませて鍛えることにした。

 遅い事なら誰でもできるって言っていただろ。

「そういう訳で行ってきま~~~~す」

「ちょっと、エアリオさん。まだ登録終わってませんよ~~~~~~~~~」



 と、言う訳で急ぎ過ぎたが無事に冒険者登録が終わった。

 何かいろいろ言っていたがすべて聞き流した。どうせ【ファーストファンタジー・オンライン】のチュートリアルみたいなもんだろ。

 そんなことよりクエストである。

 クエストに出るには先ずは装備だ。

「武器は持っているからな。まずは防具だ」

 なに?スク水セットはだと。そんなものは存在しなかった。だから防具から選ぶ。

 適当な武具屋に入ったが。

「そこそこ品ぞろえがよさそうだな」

 適当に店内を見て回ったが。

「試着室は無し。店員が話しかけてくる様子もなし」

 店にはそばかす顔の田舎娘が1人、愛想もなく肘をついている。

 商売する気はあるのだろうか?

「とりあえずサイズ合わせはどうすんだ」

 ゲームなら装備すればサイズは関係ない。マンガの中には装備品に魔法が掛かっていて、装備すればサイズが自動で合わせてくれるヤツもあった。

 オーダーメイドだと日数や予算が厳しい。

 俺は適当な手袋を手に取ると。

「おっ、装備ウィンドウに試着ボタンがある」

 試しに押してみる。

「お、お~~~、ピッタリ」

 明らかにブカブカだった手袋はピッタリと手に馴染んでいた。

 どうやらサイズは気にしなくてもよさそうだ。

「…………でも、アレは無理だな」

 店の中央に飾られている全身鎧は一目で店1番の一品だと分かる。が、お値段的にも装備に必要なステータス的にも手が出なかった。

「おとなしく革製の装備にしておこっと」

 無難な装備を見て回ったが。

「とりあえず上半身と下半身の防具だな」

 防具は【ファーストファンタジー・オンライン】では上半身と下半身装備があり、補助として頭と靴の防具がある。

 あと、武器スロットをつぶして盾も装備出来る。

 今の手持ちでは全部は買えなさそうなので上半身と下半身の防具を選ぶべきだろう。

 安いやつを見繕うと、【皮のブレスプレート】と【皮のレギンス】がよさそうだった。

 ブレスプレートは白いシャツ付きで左側だけ肩紐の付いたブラジャーのような奴だった。

 レギンスは厚手の皮で出来たタイツのようなモノだ。

 どちらも色気は無いが、初期装備感が出ていてこれはこれでいい感じだ。

 その2つを持ってレジに行くと。

「…………」

 気になった商品があったが値段が値段なので諦めた。

「—————になります」

 俺は商品の代金を支払う。

「駆け出し冒険者ですか」

「ん?そうだが」

「いや~~~、ウチはピンとキリしか扱ってないんで常連さんの冒険者以外は駆け出ししか来ないんですよ。いや~~~、君みたいな子供が冒険者なんて世も末ですなぁ~~」

「むっ、君だって子供だろうに」

「ウチはオヤジが死んじまって家業を継ぐことになったんでさぁ」

「母親は」

「おっかぁは体が弱くてね。ウチがもうちょっと可愛ければ花でも売って稼ぎに出来たんだけどもねぇ」

「ならば店に花でも飾りなよ。俺で良ければ買っててやるよ」

「ははは、この店には花は似合わねぇよ」

「そうかい。すでに太陽のように元気な花が飾られている様だが」

「———————っ、見かけによらず男らしいじゃねぇか」

「これでも中身は男の子なんでね」

 片目をつむってウインクをかました。

 誰だコレ。

 そう思ったが店員の女の子は顔を赤くしていたのですべってはいないみたいだ。

「アリガトゴザイマシタ」

 その声に背中を押されて店を後にした。


「どうやらこの町は早くどうにはした方が良さそうだ」

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