第3話 女はつらいよ。 その5

「どうだい?」

「いえ、全然違います」

 ドヤ顔の女騎士に事実を突きつけてやるも。

「そうか、おしかったな」

 全然おしくないから。何がおしかったのか全く分からない。

「それじゃぁ代わりに」

 微笑む女騎士の顔がなんだか不気味なモノに見えてきた。

「私のお家に遊びにいらしてください」

「全力でお断りさせていただきます」

「即答。え~、なんで~~」

「むしろこっちが聞きたいですよ。なんで俺みたいな見ず知らずの子供をいきなり誘うんですか」

「それはもちろん君が美少女だから」

「そんな理由で付いて行くわけないでしょ」

「美味しいおやつやお小遣いをあげますよ」

「それ、子供の誘拐の常套句ですよね」

「わたし、身分は確かよ」

「貴族の危ない遊びじゃないですか」

「大丈夫。食べたりしないわ。可愛い女の子は愛でるだけ。お触りは厳禁。それが私の正義」

「お前の正義はそれでいいのか」

「もちろんだとも」

「貴族として、騎士として民の為にあろうとは思わないのですか」

「それはそれ、これはこれ」

 本当にそれでいいのか。

「…………そうだ。お姉さん、聞いても良いですか」

「なんですか。何でも聞いてください」

「お姉さんは”牛”と”馬”、どっちがいいですか?」

「ん?それは何だね。好きな食べ物の話かな」

「いいえ。乗るならどっちがいいか、と思いまして」

「なるほど。それならやっぱり馬だな。騎士なら牛より馬の方がピッタリだろ」

「ですよね~~♡すみませ~~ん」

 俺は手を上げてウェイトレスに声をかけた。

「ご注文ですか」

「はい。このお姉さんに三角木馬をお願いします」

「かしこまりました」

「ウマ~~~~~~~~~~~~~~~⁉」

 叫びを上げる女騎士に冷たい目を向ける。

「いやいやいや、何で三角木馬?」

「似合うだろ、女騎士に三角木馬」

「乗るの?私が、ソレに」

「牛と馬で馬に乗りたいって言っていたじゃないか。騎士たるもの馬に乗ってこそだと」

「そうかもしれないけど。っていうか"牛”だと何に乗ることになったのですか?」

「ファラリスの牡牛」

「それってナニ?むしろナニされるの」

「真鍮製の中が空洞になった牛の模型に人を詰め込んで、下から火で炙る」

「死ぬじゃん!」

「そりゃ拷問処刑器具だからな」

「そんなものより私は美少女の上に乗りたい」

「そうか。———そんな変態の貴方には、すみませ~~~ん、鋼鉄の処女1つ入りま~~~~す」

「それ入るの私よね!」

 なんて騒いでいる女騎士であるが、そもそも【ファーストファンタジー・オンライン】はスタイリッシュなビジュアル系のゲームだったはず。

 コイツとかさっきの奴とか見てると全然見えないな。

 こんな世界に誰がした。


 そんなこんなでそろそろお暇したいのだが。

「…………もう行ってもいい?」

「だ~~~~め♡」

 お巡りさん助けてください。いや、いっそテロリストでも現れてコイツをどうにかしてほしい。

 その願いが通じたのか1人の騎士が急いだ様子で現れた。

「ピーカー卿!」

 呼ばれた女騎士はめんどくさそうな顔で騎士の方に顔を向ける。それをメロンソーダに乗ったソフトクリームをストローで「ズッズッズッ」と吸い込みながら見ていた。

 ピーカー卿って、=チュウを付けなければ普通に貴族みたいな名前に聞こえるな。……見えないけど。

 ちなみに俺はソフトクリームよりホイップクリームの方が好きだ。

「実はですね」

 騎士が女騎士に耳打ちをする。すると女騎士の顔が真剣なものになって行く。

 どうやらシリアスな案件みたいだ。

 真剣になる女騎士はああ見えてちゃんと貴族で騎士様なのだろう。

「……全然見えないけどな」

 そう呟いていると。

「なんだと!皮被りが居るだと!」

 ほら、今だってせっかく部下がこっそり耳打ちしてくれたのに大きな声で言っちゃているし。

 部下も困った顔してるじゃない。

 あと、本当に何を口走っちゃているんですかね。この人。

 ほら、周りもざわついている。

「おのれ、奴らをこのままのさばらせてはおけん」

 ———なにもそこまで皮被りに敵意をむき出しにしなくても。彼らは別になんも悪くないよ。あんなの泌尿器科による風評被害だ。

「ええい!こうしていては居られん。私も出るぞ」

 おっ、どうやら行ってくれるみたいだ。よ~~しサッサと行け。そして戻って来るな。

「っ、いけません。奴らは女と見れば見境なく襲うのですよ!」

 部下が叫ぶ。

 この世界の皮被りはなかなかアグレッシブじゃないか。

「かまわん。騎士たるものそのような輩に屈するわけにはいかんのだ」

 皮被りはオークか何かか?むしろオークが皮被ってるの?つうか女騎士と皮被り(オーク)の組み合わせって……。

「ゆくぞ。すまんが話はこれまでだ。お代は家に請求してくれ」

 そう言て女騎士は去っていった。

 なにやらイベントクエストの気配がした――――が、俺は笑顔で見送った。

 もうこれ以上関わりたくなかったし、負けた方が絵面的に美味しい気がする。


 ちなみに俺は被ってないから。だから別に皮被りの味方をしてるわけじゃないぞ。

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