第3話 女はつらいよ。 その2

 冒険者ギルドに向かって町の中を歩いていたら。

「バザール de ゴーザール」

 つまり市場である。朝市と言うやつだ。

 いくつもの出店、日本のテントみたいな奴じゃなくってイタリアとかシチリアとか地中海の傍のその辺。よく知らないけどそんな感じの出店が並んでいる。

「よっ、安くしておくよ。見て行ってよ」

「見~て~る~だ~け~」

「っん、そうか」

 ネタが通じないけど気にせず見て回る。窓は無いけどこれもウインドウショッピングと言うやつだろうか。

 なんだか女の子になったみたいだ。

「ん?こ、これは――――」

 懐かしいモノを見つけた。

「おっ、お嬢ちゃんお目が高いねぇ。これは自慢の1品で」

「ま、まさか―――」

 駄菓子の定番。

「うま――――」

「くさい棒って言うんだ」

「——————————————バッカじゃねぇのぉ!」

 とんだ期待外れだった。

「そんなこと言わずに。確かに独特の匂いだけど」

 だとしてもネーミングセンスが無さすぎる。

「味は濃厚でチーズのようなんだ」

 よりによってチーズ味かよ。

「1つ食べてみて」

「いや、要らない」

「だ、騙されたと思って。ほら、この白いソースをかけて」

「———グッバイ、アディオス、さよーなら」

「い、行かないで。ほら一口、一口だけでいいから」

「やめろ。顔に近づけるな」

 チーズ臭のするモザイクが掛かりそうな棒を強引に押し付けてくる店主。必死に押し返そうとするが引きはがせない。

「これセクハラ。セクハラは犯罪です!」

「大丈夫。大丈夫。ゴーホー、これゴーホーだから」

「合法じゃねぇよ!」

「10本で1メールでいいから」

 1メールで日本円の100円相当ってことか?

 いやそれだと2泊食事つきで800メールって、80万円相当になるじゃん。高過ぎだろ。

 いや、このイカレタ棒があのうまい棒と同列のはずがない。もっと安いはずだ。

「ねぇねぇねぇ」

 目つきがヤバイ。

「ホント、口に頬張ればパラダイスが見えるから」

「それのどこが合法だよ!明らかに脱法じゃねぇか!」

 完全にイッてやがる。コイツ早く何とかしないと。

「お~~い、ペトロやめてやれよぉ」

「お嬢ちゃん嫌がってるだろ~~う」

 助けを求めて周りを見渡しても他の店の店主は笑いながら冗談を言うだけだった。

 お前ら小学生かよ。まるで小学校のいじめみたいだ。

 こいつら全員アクシズ教徒じゃねぇだろうな。そんなことを思うほどに悪質だった。

 通行人たちは巻き込まれまいと遠巻きにして騒ぎ始めている。

「ほらほら、お嬢ちゃん「あ~~ん」しようね」

 手首をつかんでいるのに強引に顔に手を伸ばしてくる。

 もうイヤ!なんで俺がこんな目に。

 そろそろブチギレかけていたところで。


「これは何の騒ぎだ!」


 凛とした鋭い声が響いた。

「ク、クリーナーだ」

「クリーナーの女隊長だ」

 人垣からそんな言葉が聞こえて来た。

「野次馬は散れ。道を開けろ」

 そんな罵声が聞こえたあたりから人垣が左右に割れ、その道から揃いの白を基調として青い色で縁取ったピカピカの鎧を着た3人が現れる。

「く、クリーナーだと」

「知っているのか?」

 俺に迫っていたキ〇ガイがつぶやいた。

「クリーナー、帝国の粛清騎士団。俺たちに難癖をつけては自由な商売を規制する権力の狗だ」

「————いや、お前らは規制されて当然だろ」

 怯えて腰が引け始めた男の股間に膝を入れた。

「ぐっ―――――」

「何事だ。貴様ら何をしていた!」

 リーダー格と思われる女騎士に誰何され目を逸らす店主たち。

 キッ!

 女騎士が俺を睨みつけて来た。

 俺はどちらかというと被害者なんだけどなぁ。

 しかし普通に言っても怪しまれかねない。余所者でもあるし目を付けられたくない。

 よ~~~し、こういう時は。


「うぇぇぇ~~~~~~~~~~~~ん」

「ど、どうした。別に君を怒っているわけではないぞ」

 焦ってる。焦ってる。

 ふっふっふ、これぞ伝家の宝刀、「ウソ泣き」だ。

 女騎士はあたふたしながら俺に目線を合わせようと中腰になる。

「そうじゃないの。こ、このオジサンがくさい棒を無理やり口に入れようとしてきたの~~~~」

「なぁにぃ~~~」

 目を吊り上げた女騎士は「やっちまったなぁ」って言いそうな顔でうずくまっているオッサンや他の店主たちを睨みつける。

 こういう時に子供、特に女の子は便利である。

 ネカマで鍛えた女の子ムーブでどんな男にでも冤罪をな擦り付けてみせる。禁断の技だ。

 あまりにも強すぎて自分で怖くなって電車に乗れなくなりかけて、封印したほどだ。

 まぁ、今回は冤罪じゃないんだけどね。

「白いソースが美味しいんだって言って、頬張ればパラダイスを見せてあげるとか言うの」

 部下とおぼしき2人の男性騎士もオッサンを汚物でも見るような厳しい目で睨みつけている。

 しめしめ、あと少し。

「これはゴーホーだから。騙されたと思って先っぽだけでも入れさせて。って言って1エールあげるからってはぁはぁしながら」

「もういい、分かったから言わなくていいよ」

 女騎士はポンと俺の頭を撫でると立ち上がり。

「お前らそこに並べ。今日という今日はそっ首並べて下半身の汚い××××××を撫で斬りにして口にねじ込んでさらし首にしてやる!」

「「「「ひぃっ」」」」

 女騎士の汚い罵倒にオッサン達と俺の口から悲鳴が漏れた。

「逃がすな。こいつらはここで処刑する!」

 逃げようとしたオッサン達をすごい剣幕で追いかけだした騎士達。

「お、俺、そんなの見たくない―――――」

 冗談でもなく、女の子以前に人としての本音だった。

 そういう訳で俺は逃げ出した。


 そこで通知が出て「女子力が1上がりました」だって。

 —————————なんで?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る