第2話 最初の町 その8
「———————————————」
俺の前には1つの箱がある。
これは異世界転生した俺の第二の人生を左右する選択の末に手に入れたモノである。
選択は重要だった。SかM。どう生きるかを問うモノだった。
選んだのはMの道。被ダメージの値が上がることで上位の実績を獲得できる被虐の運命。この道を選んだ以上、俺はこれから積極的に攻撃を受けなければならなくなる。
だがそれも実績の為。仕方ないんだ。
今後ダメージを受けるたびに気持ち良くなってエロい声が出てもそれはシステムの仕様だから仕方ないのだ。
別に期待しているわけじゃない。
「そうだ。俺はむしろ報酬目当てで仕方なく」
むしろ報酬に目がくらんでその道に入った方がマズイかも、と思ったが気にしないでおこう。ツッコんでくる奴はいないはずだ。
「それより報酬だ」
【Mの目覚め】で貰ったのは「ランダム防具箱」だった。
よくゲームである開けるとランダムなアイテムが手に入るやつだ。
見た目は木で出来た菓子折りの箱みたいなもので、朱い組み紐が捲かれている。表面には【ファーストファンタジー・オンライン】のロゴマークのF/Fが焼き鏝で刻印されていた。
「何が出るかな♪何が出るかな♬」
お約束のメロディーを口ずさみながらワクワクと紐を外していく。
俺はまだ武器だけで防具を持っていない。
一応はゴスロリドレスを着ているが、これは見た目だけなのが残念なのだ。
デザイン的にはお気に入りなんだけど性能が無いのはいただけない。
男だから―――という訳でもないがオシャレに無頓着な方だったが、それはリアルな思考だ。ゲームではいろんな装備を集めては色々着せ替えしてコーデを模索していたものだ。
だから期待していた。このアバターに似合う可愛い衣装来いって。
願いが通じたのか箱のフタを持ち上げたら。
「おぉ―――こ、これは」
隙間から虹色の光が溢れて来る。それはソシャゲをやっていたら誰もが望んでいる光だろう。
つまり確定演出。
言い方はゲームによってSSRやレジェンド、星5とか星3とか色々あるが、要は最高レアリティーのアタリ演出である。
「うおおおおおおお、テンション上がってキターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
虹色の光が部屋を満たして、俺の視界がくらんだ。
そして光が収まってそこにレアアイテムが―――――
【スク水セット】
「すーーーーーーーーーーーーーーーーーん」
テンションが最底辺まで急降下した。
そこに有ったのはスク水。つまりスクール水着であった。
しかもご丁寧に胸に「えありお」ってひらがなで名前が書かれた名札が付いた、旧スク水だった。
紺色の化繊で出来た下腹部に水抜きと言われるデルタゾーンがある先史時代の遺物である。
もはや現代日本では手に入らないものでフィクションの中の代物である。
だが、だが勘違いしないで貰いたい。
スク水がハズレなのではないのだ。むしろアタリだろう。
俺だって大人のゲームでは大好きなコスチュームだ。
だが、考えても見たまえ。
「着ろ……と。———————俺に?」
そう。
それを自分が着るところを想像してほしい。
アガルか?タツか?ヌケルか?
無理だろう!
スク水はロリっ子が着てこそだと俺は思う。
いい年した大人が着るものではない。巨乳反対。スク水と着物には貧乳が似合う。分かるだろう!
ましてやオッサンの俺にぃ?
「————あっ、俺今はロリっ子美少女だったわ」
加えると20年来連れ添った嫁(キャラ)である。しかも
公式でスク水イラストがあった。
お世話になりました。
「だけど無理!見てくれがどんなに理想の美少女だとしても中身が俺である以上無理。無理なものは無理!心の目にスク水着たオッサンが写る!」
血を吐きそうなぐらいの慟哭を上げた。
悔しくて血の涙を流しそうだ。
「俺だってもう一度いとうのいぢ先生の書下ろしスク水エアリオのイラストが見たかったよおおおおおおおお!」
この世界に神は居ないのか。
何ゆえ純粋に美少女の艶姿を楽しめないのだ。
確かに心の目を閉じてあるがままを見ることが出来れば望む姿を見ることが出来るだろう。
しかしそれには俺自身の意思でスク水に着替えなければならない。それには抵抗がある。
加えて俺はよく訓練されたオタクだから、見えそうで見えないギリギリの「向こう側」を見る心の目を持っているのだ。
「こんなことなら心の目にフィルターを掛ける訓練をしておくべきだった」
しかしもう遅い。
「神よ―――なぜ俺は男の心を持っているのですか」
そうすればこんなに苦しまずに済んだのに。
「おまけに―――」
【ネコミミカチューシャ】
【ニーハイソックス・白】
【ネコしっぽ】
「セット……なんだよなぁ。フッ―――――バッカじゃねぇのぉ!」
なんでだよ!
なんでその組み合わせで着るのが男なんだよ。
「そうだ。これを誰か別の人に着せれば―――」
ユニークアイテムだったので譲渡も売却もできなかった。
「——————————寝よ」
どこにどう付けるのか分からない、分かりたくない!ネコしっぽを放り出して布団に入ったのだった。
少し枕が濡れていた。
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