第2話 最初の町 その6

「なぁ、おっちゃん」

 俺は醤油恋しさを紛らわすように酒を煽りながら飯を食べる。主食はビスケット。ピクルスやオリーブの実、レバーをすり潰したペーストを上に乗せて食べるらしい。

 俺はレバーが食えないのでサンマの身を乗せてかじる。

 ちなみにビスケットはパンの仲間である。クッキーがケーキの仲間でお菓子なのに対して、ビスケットは主食になりうる。

 豆知識。豆も主食になる。

「アレフって村、知らないか」

「なんだ、藪から棒に。また懐かしい名前だな」

「おっちゃん、知っているのか」

「まぁな。むしろオメェのようなガキが知ってる方が驚きだよ」

「ガキじゃありませ~~~ん。お酒が飲める年齢で~~す。それで、何処に消えちゃったんだよ、アレフ村」

「時代……だな。100年前に王国だったこの土地が帝国に侵略された時に無くなった」

「————っへ?ここってアイリス王国じゃないの」

「本当に何で知ってんだ。ここはゲシュタルト帝国だぞ」

真剣マジか―――――――王国滅んでんのか」

 アイリス王国とは【ファーストファンタジー・オンライン】に出てくる名前で、最初の町のアレフ村から旅立ち王都を目指して立身出世していくのだ。

 それが100年前に滅びているとは。しかも侵略したのはゲシュタルト帝国とは――――。

 つまり今いるこの異世界はゲームの世界感から100年後の未来になるのか。

 意外とひねってくるじゃないか。


「それで―――――エアリオって名前に心当たりは有るか」

 俺は緊張感をもって気になっていたことを訊ねる。

「………………なんだ、知っていて名乗っていたワケじゃねぇのか」

「その口ぶりからすると、知っているんだな」

「当たり前だろ。み~~~~~~んな知ってるぞ」

「え?そんな常識なの」

 それじゃぁ俺が常識無いみたいじゃん。いや、まぁあんまり無い。ほとんど無さそう。気持ちあるんじゃないかな~~~ってくらい?

「いいか、帝国ではエアリオって名前は伝説だ」

「伝説……伝説って、昭和のアイドルとか平成のアイドルとかゾンビになって歌って踊るアノ伝説か」

「そんなワケあるか!そんなワケ分からんもんじゃない」

 いや、名作なんですけど。

「エアリオは帝国に侵攻された時に王国側で戦った戦士の名前だ」

「あぁ、なるほど。そいつが活躍したんだな」

 ん?

「そんな生易しいもんじゃない。奴は迫りくる帝国兵1000人を1人で殲滅したり」

 無双プレイ。

「倒した敵の身ぐるみを残らず剥いで行ったり」

 ドロップアイテムの回収。

「帝国の重要人物を何人も暗殺したり」

 スニーキングムーブで単身で敵陣に乗り込む暗殺クエスト。

「とりあえず奴は戦況を左右するほどの戦いをして敵味方問わずに【死神】と呼ばれて恐れられた」

 …………。

「やりたい放題だった」

 すみません。それ俺です。

 間違いない。俺が日本でプレイしていたゲームやでったムーブだ。

 つまり俺のプレイキャラのセーブデータがこの世界を形作ったワケだ。

 それでなんでステータスやアイテムは引き継いでいないんだ。

「だが奴は突如いなくなった」

「それで帝国の侵攻に耐えられなくなった王国は滅ぼされたんだな」

「そういうこった」

 そうか。………王様や姫様達は皆亡くなっているんだな。100年じゃ帝国に侵攻されてなくても生きてはいないな。

「まぁ奴は帝国に呪殺されただの、封印されているだのの噂は絶えんかったがの」

「ははは、実は俺がそいつの生まれ変わりだったりして」

「あ”ぁ”」

 冗談で言っただけなのにスッゲー睨まれた。

「冗談でもそういうことは言うな」

 別段冗談でもないのだが。

「帝国は今でも奴を恐れている」

「つまり目を付けられると殺されかねないと」

「まぁ今でも影響されているのは帝国だけじゃない。王国の貴族の末裔には今だ根強く信仰されていて、あやかって名前を付ける奴がいる」

「それは帝国からしたら面白くない話だな」

「だが帝国側でも若いやつに人気が出ててな」

「なんで」

「恐ろしい敵兵として語り継いでいたはずがいつの間にかおとぎ話の英雄に成っちまっていたんだ」

「はは、プロパガンダに失敗したんだ」

「だから今どきその名前を名乗るのは――――なんだ、その……痛いんだ」

「———ぅっわぁ」

 理解してしまった。 

 異世界転生してみたら知ってる時代より100年経っていて俺の名前が伝説の厨二キラキラネームになっていた。

 なにその罰ゲーム。

 そりゃぁ熊のプーサンダーに「ぅっわぁ」って言われるわ。

 痛すぎだろ。そりゃぁ冗談でも生まれ変わりとか言わんほうが良いな。

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