第2話 最初の町 その4
「こいつが鍵だ。部屋の場所は階段を上がってすぐのやつだ」
木の札が付いた鈍色のごっつい鍵がゴトリとカウンターに置かれた。
「それでどうする」
「なにを」
「先に部屋に上がるか。それとも飯にするか」
「う~~ん、風呂はあるか?」
「風呂?そんなモノあるか。入りたけりゃ貴族様の屋敷にでも泊まるんだな」
「そうか」
どうやら風呂は一般的ではないようだ。てか熊のプーサンダーの家には温泉あったけどな。まぁ森の守護者だし、貴族みたいなものなのだろう。
「とりあえず飯だな」
「あいよ。お~~~い、ベアトリーチェ」
バッカスのオッサンは奥に声をかけると、フロアの奥の扉から女性が現れた。
「——————ダイナマイトっ」
赤い髪のボン・キュ・ボンが現れた。
「———娘さん?」
「嫁だよ」
「若くね。犯罪だろ」
「なんでだよ。それより客だ。飯の用意たのまぁ」
「はい~~~。あらあら、可愛らしいお嬢さんね」
やたら色っぽいお姉さんが近づいて来てアゴをクイッて―――してくれることは無く、普通にオーダーを聞いて来た。
「何か食べたいものある?」
「とりあえず酒」
「酒は食いもんじゃないだろう」
「お酒は飲み物です!」
「なに分かり切ったこと言ってんだ」
「俺の故郷では「カレーは飲み物です」って言葉があるんだよ」
「I't crazy」
「イカスだろ」
「イカレてるよ」
「それじゃあお飲み物はカレーでいいですか」
「いえ奥さん。お酒でお願いします。喉ごしのいいやつ」
「はい、お待ちください。料理は何がいいですか」
「お任せします。できればこの町の特産品で」
「は~~い」
明るい笑顔を見せながら奥さんは奥へと下がっていった。
「それでおっちゃんよ」
「口が悪いの、なんじゃ」
飯が出て来るまでの繋ぎにウイスキーのような蒸留酒を舐めながら塩もみしたキャベツをつまむ。
キャベツは新鮮でこの町が食料的に豊かなのが伺える。確か野菜の質がその町の力を測るバロメーターになると、「異世界居酒屋のぶ」のサラダ回で言っていた。
「この町で素材とか買い取ってくれる店はないか」
「———ブツは何だ。モノによって持ち込む店は変えた方がいい」
「なるほど。今は白兎の肉と毛皮、数は10ちょい」
「肉ならウチでも買い取ってやれる。毛皮は服屋とかだな。オグのとこなら口利きしてやれるぞ」
「ふむ、次の目的も決まってないし、しばらく滞在するしお言葉に甘えようかな」
と言ったものの本音はここに泊まるなら相手の顔を立てて、なおかつ懇意の相手に紹介してもらうことで信用を得よう、というところだ。余所者ならこうした方が賢明だ。
「しかし結構数があるがさばけるのか?」
宿の中を見ても俺以外に客の姿は見られない。流行ってないのかもしれない。
まぁ、静かなのはいいが。
「問題ない。飯だけの常連でも十分やって行けているんだ。オメェさんみたいな奴は臨時収入ってやつだ」
「その常連はいつ来るんだ」
「夜更けがただな。どいつもテメェの店閉めてからひっかけに来るんだよ」
「…………五月蠅いのは勘弁してくれよ」
「安心しろ。アイツ等も客商売だ。宿に人が入ってるときのことはわきまえてる」
「けど酒が入るんだろ」
「騒ぐバカはどついて表に転がしておくから安心しろ」
このおっちゃんが一番五月蠅いんじゃねぇのか?
まぁ、落ち着いた店内だし誰かが暴れたような形跡はないから治安はいいのだろう。
「それじゃあコレ、肉だけど何処に出す」
「おっ、アイテムボックスを持っているのか。見かけによらずに腕がたつのか。とりあえずここに、って、なかなかに大ぶりじゃねえか。どれ、1切喰うか」
「サービスか。だったら戴くぜ」
おっちゃんがウサギ肉を奥に持って行って戻ってきたときに酒のお代りを頼んだ。
「それと冒険者ギルドとかないか」
カウンターの向かいにある棚からボトルを取り出しグラスに注いで、肉の代金と一緒にカウンターに置いたおっちゃんに訊ねる。
「あるぞ。登録してねぇのか」
「うちの田舎はそう言うのは無かったからな。今はモグリってところだ。明日には行って日銭を稼ぎたい」
「フン、気を付けろよ。あそこには血の気の多いバカがたむろしている。オメェみたいな器量の良いのは絡まれるぞ」
「ニッシシ、そいつらをいっちょもんで華麗にデビューしてやるか」
「—————ふぅ、器量は良くてもそう邪悪に笑うと台無しだぞ」
「いいんですぅ。俺は可愛いよりカッコよくなりたいんですぅ」
そう唇を尖らせってウイスキーを一気に煽った。
ぷっは~~~~~。旨い。
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