第2話 最初の町 その3

「あ”?通行料だと」

 町に入るための門で門番の兄ちゃんに呼び止められてたかられた。

「そうだよ。お嬢ちゃんこの町の子。通行証は持ってないの」

「持ってねぇよ、そんなもん」

「それじゃあお父さんかお母さんは何処」

「遠い世界」

「え⁉えっと、それは―――」

「聞かないでよ」

 実際は比喩ではなくホントに遠い世界なのだが、旅立ったのは俺の方だ。ごめんなさい、先立つ不孝をお許しください。なんつって。

「そうか、もしかして1人で旅をしてるのかい」

「そうですけど」

「そうかそうか。苦労してるんだね」

 どうやら門番はいい具合に勘違いしてくれているようだ。

「そういう訳でここはまけてね」

 そう言って通り抜けようとしたが。

「それとこれは別。出すもんだしやがれ」

 肩を掴んで笑顔ですごんできやがった。

「チッ。はいはい、いくらだ」

「100メールだ」

 うげぇ、手持ちの1割かよ。

 しぶしぶ硬貨を門番に手渡す。

「はい、どうも。————いや、離せよ」

「くっ、すまない。お前のことは手放したくは無いがここでさよならしなきゃいけないんだ。ふっ、大丈夫だ。必ずお前を取り戻してやるからな」

「いや、そんな小芝居はいらないから」

「お前の顔は覚えたからな。覚えてろよ~~~」

「はいはい。これ通行証。なくさないようにね」

「有効期限とかあるのか」

「もちろん」

「守銭奴め。あっ、それよりここってアレフ村で合ってるか」

「ん?いや、ここはノネイトって町だ」

「そうか。じゃあこの町で旅人向けの手ごろな宿屋を知らんか」

「それなら馬車通り沿い、この門を抜けた道沿いがそういう宿屋だな」

「そうか。ありがとな」

 俺は門番に手を振って町の中に入った。


「ふ~~~~~~~、やっぱりここはアレフ村じゃなかったか」

 見渡すと活気にあふれた大きな町並みが広がっていた。

 俺の知るアレフ村は人口100人ほどの田舎町だったが、ここはそんなものではない大きな町だ。

 丘から見た時は目を疑った。

 山の形など立地的にはアレフ村と同じ場所のはずだが、町は大きな石造りの壁に囲まれ家々が密集した都会であった。

 奥にある山から流れる川が縦に伸び、街道が川に対して十字に成るようにはしっていた。

「やっぱりゲームと色々違うな。宿屋の人に聞いてみるか」

 そうと決まれば早速宿屋選びをしますか。

「どれどれ、『竜殺しを殺した女亭』『転がるリンゴ亭』『銀の匙亭』、…………ネタか。う~~~ん、他のもパッとしないな」

 そう思いながら歩いていると。

「おっ、ここは」

 ちょっと目立たない路地の中に他とは趣の違う店構えの宿屋があった。

 そ~~~~と覗いてみると。

「お~~~~~、これは隠れ家的でいいんじゃない」

 入り口付近は明かりが少なく暗くて見えづらいが、奥の方は明るい。

 空は夕焼けからすでに夜のとばりが落ちた状態。通りには松明が並べられていているが、路地には届いていない。

 宿屋の前には大きなカンテラがありそれが看板を照らしていた。

「『怠け者の墓穴』、こりゃまたロックな名前じゃないか」

 気に入った。この宿にしよう。

 扉を開けると狭い通路になっていて、抜けるとこじんまりとしたフロアに出た。

 外観は白い塗壁だったが、内観は年季が入ってスモーキーな色合いになった木の壁だった。

 照明は壁に付いているのは間接照明で、直接は見えないが揺らぎが無いことから火ではなさそうだ。電気、は無いだろうから何かマジックアイテム的なモノなのかもしれない。

 カウンターとテーブルにはろうそくの入ったランプが置かれていた。


「あ”、嬢ちゃん。ここは子供の来るところじゃねぇぞ」

 カウンターにはいかつい顔のオッサンがいた。

 背はそれほど高くないが肩幅が広く、全体的に筋肉質。腕の太さなんか俺の胴回りくらいあるぞ、アレ。

 頭の上は剥げているが、裾には白く硬そうな髪が生えている。また立派な顎髭も生えており、the酒場のボスって感じだ。

 加えて顔には複数の傷跡があり、マフィアのボスでも通じそうだ。日本にもらーめん屋を営んでいたヤクザの組長もいたらしいし、別におかしくは無いと思う。

 しかし、蝶ネクタイのタキシード姿はどうなのだろうか。筋肉で服がパンパンじゃないか。

「いやぁ、理由わけあって故郷を出て1人旅の身の上でな。ようやっとこの町に着いたんだ。部屋、取れる?」

 プレッシャーを意に介さず堂々と目的を告げる。

「ふんっ。冒険者か。いくら持ってる」

「今はしがない無職だ。一応手持ちが900メールだな」

 硬貨を見せて答えると。

「……飯付きで2日、800ってところだ」

「そうか。ヨロシクな、俺はエアリオだ」

「———!チッ、ワシはバッカス。ここのオーナーだ」

 案の定俺の名前を聞くと眉をしかめて舌打ちした。

 やはり名前に何か意味があるのだろう。

 それでもここに泊めてくれるのならアタリみたいだ。

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