第2話 最初の町 その2

「まったく、なんなんだよ」

 愚痴を吐きながら森の中のけもの道を歩いていく。

「あんな意味深なこと言っておいて、何の説明もなしで追い出しやがって」

 先ほど別れた熊のプーサンダーの態度が気にくわなかった。

「親切が足らないんじゃないか。運営仕事しろ」

 って言っても、ゲーム世界であるのに運営がいるかもまだわからないからご意見・ご感想を伝える事ができない。

 まぁこういうのもお約束ではあるが。

「ふむ、エアリオという名前に問題があるみたいだけど人前で話していいモノだろうか」

 アゴに手を当て考えてみた。

「まさか過去に世界を滅ぼしかけた魔女の名前とか?」

 どこの嫉妬の魔女ですか。俺、死に戻りとかするの。

 確かめるために死んでみるとかできないし、そもそもこの世界では死亡時の扱いってどうなっているんだろう。

「う~~ん、いろいろとこの世界の仕様とか分からんな」

 【ファーストファンタジー・オンライン】の世界を下地にしていると思うが、いろいろ異なるところがあるし調べる必要がありそうだ。

 チュートリアルが無いから不便だ。まぁ有ってもスキップしそうだが。

 とりあえずスキップをしてみた。意外と体が軽い。

 とりあえず鼻歌に「RIMEMBER 16」なんか歌っちゃたりして。まぁ16歳どころか10歳くらいまで若返ってしまったが。

 しばらく行くとガサゴソと茂みを揺らしながら1匹の獣が飛び出してきた。

「お、こいつは白兎じゃないか」

 白兎は【ファーストファンタジー・オンライン】において序盤に出てくるモンスターである。

「へへへ、こいつはラッキーだぜ。やっとまともなエンカウントだ」

 最初は蚊で、次が熊だったりバランスのおかしい敵だったがこれが普通の相手だ。

 特にこの白兎は脅威度は低いがドロップする素材が良い値段で売れるので、レベリングと資金集めで大変お世話になりました。

「行くぜ」

 武器の黒曜石の小刀を構えて近ずく。

 足元の白兎はこちらに気が付くと俺に向かって走り出し、勢いよく突っ込んできた。

「当たらなければ―――ごふぅ」

 見事に腹に食らった。

 カウンターでナイフを食らわせるつもりだったのに空ぶった。

「うおおおおおおぉぉぉぉぉ」

 地面を転がるくらいに痛かった。

「あっれ~~~。おかしいな、格ゲーでは普通にカウンター狙えるのに」

 しかし実際にはゲームのようには上手くいかなかった。

 立体的に動く物体に攻撃を当てるのは意外に難しい様だ。

 そう言えば、パワプロならホームラン王なのに実際に野球をやると全くボールを捉えられなかったけな。

 ゲームセンスと運動センスは別物ってことか。

「ぅわっぷ」

 地面に転がっていた俺の顔に白兎が後ろ足で砂をかけて来た。

「ふっ、ゲームと違ってこっちを待ってくれはしないという事か。いいだろう、ここからは俺のターンだ!」

 カッコつけて挑んだはいいがウサギって意外と素早いんだな。

 だてに野生で生きているわけではないという事か。

「うおおおおおおお、やってやんよおおおおおおおおお」

 めちゃくちゃにナイフを振り回して暴れた。

 最近の若者(中身オッサン)はキレやすく危ないのだ。



「はぁ、はぁ、はぁ。や、やっと、抜けれ……た」

 朝にプーサンダーの家を出たのに空の太陽は赤く染まっていた。

 聞いてた話では半日ぐらいの道のりだったらしいのだが、あの白兎を倒すのに30分近くかかり、さらに暴れたことで多くの白兎にマークされたみたいで続けざまにエンカウント。都合30匹ほどの白兎を倒した。

「死ぬかと思った」

 実際プーサンダーに貰ったお土産が回復アイテムでなかったらHPは底をついていただろう。

「はぁ~~~~~、不親切とか愚痴ってごめんなさい。めっちゃ助かりました」

 森をようやく抜けた時にはレベルが8にまで上がっていた。

 もちろんドロップアイテムもたんまりだ。

 実績もいくつか達成している。

「しかし、レベルアップでHPは回復しないのかよ」

 これは意外ときつかった。

 ゲーム世界だけどゲームと違って戦闘1回ごとにリザルトがあるわけではなく、常にリアルタイム進行だった。

 おかげでステータスの確認もできていない。もちろん実績や習得アイテムの確認もである。

 そんなことやっていたらタコ殴りに会う。

 昨日だってウインドウを見ていてプーサンダーに後ろを盗られたのだから。

「とりあえずまずは村に行って宿をとろう。風呂に入って飯を食って、それから確認だ」

 そう決意して最後の丘を越える。ここを越えれば村が見えてくる。あと一息だ。

 自然と足が速くなる。もうクタクタだったが意外と根性あるもんだと自分に驚いた。


「——————あ?な、なんだこれ」


 丘を越えて見えて来た光景に息を飲んだ。

 一応言っとくと村が無かったわけではない。それなんて罰ゲーム。

 ただ、知っている光景では無かった。

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