第2話 最初の町 その1
「ぅん~~~」
心地よいけだるさが体を包み込む。これは目が覚める前の微睡だ。
体を動かそうとするも。
「ぅ~~~~、狭い~~~」
なんだか体が柔らかいモノに覆われているみたいだ。
「————知らない天井だ」
うっすらと目を開けるとしみの無い綺麗な木の天井が見えた。
「何処だここ……」
目を擦るとなんだか柔らかい。
俺の手はもっとゴツゴツしているはずじゃないか?それに目の周りも落ちくぼんでいてもっと骨ばっていたはずだ。
フニフニ。
両手で目の周りだけでなく、頬などをまさぐってみるとなんだか心地よい感触がした。
「むぅ、にょむにょむ」
もっと触っていたいモチモチの卵肌であるがおかしい。俺の顔はこんなんじゃなかったはずだ。
「…………」
ぼ~~っとした頭で起き上がると、なんだか周りの物が大きく見える。それになんだかファンシーだった。
「あ~~~~~、トイレ」
寝ていた場所から降りて床に立った俺は。
「ん~~~~~?たしかコッチ」
フラフラとトイレに向かった。
トイレに入って用を足そうと股間をまさぐると。
「なんだ?この服。~~~~~~~~っ、それよりおしっこ、おしっこ」
急いで裾をたくし上げてパンツを脱いでアレを摘まもうとしたのだが。
「あれ?ない」
違和感を覚えて股間を覗き込むと。
「———ない」
つるつるだった。
「俺の大切な玉(と、竿ビッグ・マグナ~~ム)が無い!」
どうする?
とりあえず座っておしっこをした。
「ふ~~~~。とりあえず――――――――便器がデカい」
危うくお尻がはまりそうになった。
縁に腰かけておしっこをしようとするも、慣れない女の子で出すのは難しく、危うくこぼすところだった。
トイレから出て洗面所で手を洗うが洗面台もデカくて一苦労した。それもこれもこの家は2mを超す巨体のリアル熊がせいかつしているから、家具はどれもデカいのだ。
「まぁ、アイツ喋るんだけどな」
だってここはファンタジーな世界。俺異世界転生しました、ってことを今更ながら思い出して鏡を見る。
鏡を見るのは楽だった。
理由は洗面所に大きな姿見が置いてあったから。
「あいつ、これで身だしなみとか整えているのか?熊なのに」
もはやあいつのことは怖くなくなっている。
「…………」
鏡に映った自分の姿を見ていたらなんだかちょちょいと髪に手櫛を通して整えたら、体の向きを変えて自分の姿を眺めはじめてしまった。
「———はっ、何やってんだ俺。女じゃあるまいし」
いや、今は女なんだけど。身体は女だけど心は男のはず。なのに自分の姿を見ながら可愛いポーズをとってしまう。
これじゃあ男とか女以前にナルシストだ。
「…………だっちゅ~~~の」
——————————恥ずかしくなってしまった。やるんじゃなかった。谷間も無かった。
「あっ、おはようございます。?なんで顔が赤いんですか」
「聞くな」
リビングに戻るとプーサンダーが朝食を用意してくれていた。
「簡単なものですけどどうぞ」
促されて席に着くと。
「これは何だ」
「森の恵みです」
見たことない固まり。
「こっちの丸いのは」
「クカの実」
「こっちの白いネチョッとしたのは」
「ギーヴェ」
「なにそれ」
「果物とキノコだけど」
「…………食べれるの」
「食べれますよ」
恐る恐る口に運んでみると―――
「別に普通だな」
「なんだと思ったのですか」
「良くも悪くも何かインパクトがあると思ったんだけどな」
「それじゃぁ世話になったな」
朝食をいただいた後俺は人の村に向かう為にプーサンダーの家を出立することにした。
「うん、さっさと出ていけ」
「おいおい、ここは名残惜しそうにしろよ」
「ははは、無理やり押しかけてきておいて?」
ごもっとも。
「それじゃぁ」
「ああ、ちょっと待って」
プーサンダーは何か包みを渡してきた。
「これは」
「食べ物。か、勘違いしないでよね。これはお腹を空かせて戻ってこられても迷惑だからよ」
「…………ふっ、ツンデレかよ」
「な、なんだよ」
「なんでもないよ。ありがとうな」
「もう来るなよ。あ、そうだ。君の名は」
「…………なぜそこで「君の名は」なんだ」
「え?なんて」
「あ~~~、何でもない。そう言えば名前は名乗ってなかったけ。俺の名前はエアリオ」
「え?本当に、本当にエアリオって言うの冗談じゃなくって」
「ああ。って言うか一度教えてたよな。今思い出したぞ」
「うっっっっわぁ」
「なんだよその反応、それより名乗ったことは」
「はいはい、分かったよ君に常識が無かった理由が、本当に冗談じゃなくてそういう名前なんだ。ふ~~~~~ん」
「え、なんかマズいのこの名前」
「まずいよ。かなりまずい」
「———どうすればいいんだ?」
「がんばれ」
「いい笑顔で見捨てんな」
「無理無理。ボクじゃどうにもできないから自分でどうにかして。ほら行った行った」
「おいちょっと待てよ」
こうして意味も分からず追い出された。
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