第1話 異世界転性 その7
「ちょっぉ、なにいきなり刃物なんか取り出しているんですか」
奥からお茶のお替りを運んできた熊さん、もといプーさっ!じゃない、プーサンダーだ。プーサンダー。———危ないところだった。
「ん?ああ、これか?」
俺は内心の動揺を表に出さずにプーサンダーに答える。
「ん、これか。これはさっき手に入ったやつなんだが、お茶を待ってる間に暇つぶしで見てみてたんだけど」
そう言って手に持っていたナイフを持ち上げてみせる。
「何ですか、その黒いのは」
プーサンダーはナイフの黒い刀身に怯えている様だが、これは―――
「黒曜石だよ」
「コクヨウ、セキ?何ですか、それ」
「ん?黒曜石って知らない。これってそんなにレアなものじゃないはずなんだけど」
「ん~~~。なんでしょうか、見てるとすっごく不安になります」
黒曜石の小刀【無銘】。
手の中に有るナイフを見ればそういう名前だと分かる。
というのも、ポップアップウインドウが現れてそこに表示されているからだ。
だが、プーサンダーの反応を見る限りどうやらこちらの住人には見えていないようだ。
それを確かめられただけでも収穫だ。
兎も角、このナイフの情報だけど―――
攻撃力:15+筋力2%
保有アビリティ;獣特効20%
フレーバーテキスト
獣を狩る為と祭儀用の二つの用途に作られた黒曜石製のナイフ。黒い輝きの透明度が高いほど高価。
と、最初に手に入れた武器だけに数字上はそれほど高くない。
とは言え、獣特効は使えそうだ。これもプーサンダーを追いかけて手に入れた【追い剝ぎ】の実績の報酬らしい。
「それで、これ【無銘】ってついてるけど、アイテムにも名前が付くと神様の恩恵とやらを受けられるのか?」
「はい?」
「いやだからアイテムに名前はつくのかって聞いてるんだよ」
「いえ、そんな話聞いたことありませんね」
「ふ~~ん」
ってことはこの無記名じゃない【無銘】は隠し要素かな。
新しいお茶を啜りながらナイフをシステムメニューの装備欄から武器として装備した。
UIを見る限り、武器は一つでなく複数、予備なんかも装備できるみたいだが、今はロックが掛かっていて使えない。今後実績を獲得して解放できるのだろうか。
それと、予備の武器を用意するということは装備の破損もあるのだろうか。
もしかしたら今は見えてないステータスがあるのかもしれない。
「それでお話ってその刃物のことですか?」
「いや、これはついで、本題はこの森の事」
「森のことですか」
「そっ、お前詳しそうじゃん」
「そうですけど、これでも森の守護者ですから」
「えっ、お前が森の守護者?」
「何ですか、その「ありえねぇ」みたいな顔は」
「いや悪ぃ」
みたいじゃなくてそのものなんだけどな。
「でも守護者なら俺を見ていきなり逃げだすなよ」
「う”、そう言われてもボクママに言われてここの守護者になったばかりだし、それに人間怖いし」
「そうなのか?人間は強いんか」
「強いというか―――野蛮ですね」
「ハハハ、野蛮かそうか。ハハハ、奴等らしいな」
「らしいって、他人事みたいに言いますけど君が言いますか」
「なんだよ俺が野蛮だって言うのか」
「自覚ないんですか」
失礼な奴だな。
「それより、この森の危険な生き物とか近くの村までの道とか教えてくれよ」
「教えたら出ていってくれますか」
「おう」
「では―――」
そうこうして森の情報を聞けば村までは半日はかかることが分かった。
そしてこの森は夜になると危険度が上がることも分かったので―――
「今夜泊めて♡」
「……ぅわ」
「うわぁ、ってなんだよ。こんな美少女が泊めてって言ってるのに嫌な顔するとかそれでも雄かよ。付いてんのか」
「……ないわぁ」
「え?」
「付いてないわ。ボクこれでも雌です」
「え?えぇ~~。お前雌かよ」
「悪い。これでも同族では美少女なんですよ」
み、見えね~~~。
どう見てもリアルな熊だからなぁ。
「でもそれなら泊めてくれるよね♡」
「ほんと図々しいわね」
「お願い、お・ね・え・ちゃ・ん♡」
「お姉ちゃんじゃないわよ。う~~、上目遣いで見るんじゃないわよ~~~~~」
無事、プーサンダーの家に泊まれました。
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