『勇者』の指し示す道

『……あ、なんで触ってんのよ!! 死ぬ! 死ぬから!! 私の言ったことは本当! 

 


 ソイツだからっ!』


『兄貴ぃぃぃぃぃぃっ!!!!』



 そんな声は、取り込まれていく俺の意志の中からはとても小さく聞こえた。




「…………嘘、ついてたんだな」

『はい、貴方を連れて行くために』




『待っててガス! 今私とジェールズで引きづり出しに行くから!』

『待っててくれ兄貴ぃ! 今助けに行くから———』











「……………………待ってくれ!」


 声が出た。俺の本当の気持ちに反応してだろうか、ここでようやく声が出てくれた。


 ……声が出るとは思えなかったが、俺は今発声してみせた。その証拠に、サナとジェールズの動きが一瞬鈍ったのが分かったからだ。


「待って、とりあえずみんな待ってくれ! いやほんのちょっと! 数秒、1秒でもいい、とりあえず待ってくれっ!」

『待ってくれもクソもないです、兄貴!』

『そうよ! 安心しなさい、今私が助けだして———』


「だから待ってくれって言ってるだろ!!

 ……コイツを殺すな!……コレはパーティリーダーからの命令だ!」


 




『貴方は……私のの元へ連れて行きます。……そしてそこで、私の主の養分となるのです』


『って敵さんも言ってるから! 私たちが待つ理由なんてないでしょ?!』

『俺、兄貴が養分にされる姿なんて見たくないです~っ!』




 ……みんなはそう言う。俺だって、確かに死にたくはない。

 でもさ、俺の本当の気持ちはそこにはない。そんな生存本能なんかに、俺の本当の気持ちは眠っちゃいないんだ。



「コイツは……俺におっぱいを揉ませてくれたんだ、こんな俺に、たったの1秒で、胸を揉むことを了承してくれたんだよ!


 ……俺はそんな優しさを信じたい、ソレが本物であると信じたい! 例えコイツが敵でも、俺は殺したくはない!


 だから頼む、コイツを見逃してやってくれ! コイツの主に食われるぐらいだったら……俺は本望だっっっっ!!!!」



 ……何を隠そう、この気持ちは本当の俺の本心だったのだ。なんせ、本心を隠せない謎の呪いにかかった俺。……だからこそ、俺の言ったことはその全てが本当になる。


 ……今俺を取り込んでいるコイツみたいに、嘘をつけるような状況に俺は置かれていなかった。だからコレは本音、俺の嘘偽りのない、本心だった。



『アンタほんとにバッカじゃないの?! 自分の命より、胸ぇ揉ませてくれた女の方が大事かっ!!』


『兄貴……まさかそんな人だったなんて……!』


「バカで何が悪い、そんな人間で何が悪いっ! 俺は今呪いにかかっている、俺の言うことは全部本当だ、だから———」


『だからこうして言ってるんでしょうがっっ!』

『……俺は兄貴を助ける、例え兄貴が何と言おうと助けるんだ……!』



「やめ———っ?!」


 声を出そうとした瞬間、轟音が耳に響く。

 何があった、と振り向こうとしても振り向けない。今の俺の体は、このスライムの中に取り込まれているからだ。


 ……とはいえ、俺を取り込んだスライムが後ろを向いてくれた。……同時に、俺は後ろにいた何者かの存在を直視してしまう。



『なに……あれ、まさかドラゴン……?!』

『ひえぇ……流石に俺はあんなのには勝てっこないっすよ~……』


 後ろにいたのは、黒い鱗を纏った巨大な龍だった。……まさか、壁を突き破ってまで出てくるとは……!


『来た……私の、

「おおうぇえ、あんなのがお前の主なのかよっ?!」





「……ドラゴン、喋らないけど?」


『主とは言え、ドラゴンなので喋りはしません。人間の言葉で話せはしますが、そんなことをしなくとも…………私とは、魔力を用いた念力的な何かで交信しています』


「あぁなるほど、わざわざ親切に教えてくれてありがとう~……って感謝してる場合じゃねえっっっっ!!!!」


 そう、俺は捧げられる。その『主』と呼ばれたドラゴンに。

 ……でもまあ、死んでもいい、って言っちゃったしな……







「もういいかな、諦めても。おっぱいは揉んだし、もう俺のやり残したことは何もない、きっと。


 そうだろ、ジェールズ……?」


『んなわけねえよ、兄貴! アンタ前に言ってたじゃねえか! 結婚するなら胸の大きいお姉さんがいいって!


 兄貴、アンタはまだ……できてねえ!……ソレでもいいのか、兄貴ぃっ!!!!』



 



「俺、は…………」



 どうすべき、か。

 本当の自分———例え今ソレが出来上がったものだとしても、俺はソレを隠しておくべきじゃない。



 そのはずだ。




「スゥーーーーッ」


 息を大きく吸って。

 心の芯を強く持って、俺は叫んだ。






「おたくのスライム娘、ウチにくださいっっっっっっっっ!!!!!!!!」

 

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