そして俺は今、全てを理解した。


 ……俺は、何を、踏んだんだ?



 混濁する意識、相も変わらずパンツのことばっか考えている頭ん中。


 その頭に、まるで何かを吹きかけられるように———。







『ち……ちょっと、何よこの粉……! ガス、ジェールズ、吸っちゃダメよ! 毒の粉の可能性も……!』

『とにかくここから離れて……兄貴ぃっ!』


 その声を最後に、俺の頭には何も、聞こえなくなった。




◆◇◆◇◆◇◆◇




「……んあ……っ、ここ、は……」


 目を覚ましたのは、木造でできた建物———まさかここ、王都のギルドセンター内の医療用ブロックか?!


「よかった、目が覚めたのね!」

「兄貴ぃ……もう戻ってこないと……ぉっ!」


 ふと目を向けた両脇にいたのは、サナとジェールズだった。……ジェールズに至っては涙を流していたが、一体この俺がどうなったと言うんだ……?




「幸い、命に別状はない……どころか、身体的な損害も全くと言ってもいいほど認められません。後は、本人の精神状態ですが……」


 などと言っていたのは、俺のベッドの足の方に立っていた、ギルドセンターの受付のお姉さん。







「ずっと思ってたんですけど、貴女のおっぱい、おっきくていいですよね! あとその長い金色に輝く髪も素敵で、いつもずっと見惚れてと思ってました!!!!



 …………はっ?????!?!?!?!」


 



 場が、固まった。

 何を言い出したか、俺の口はあろうことか、お姉さんを見た瞬間に、そのお姉さんのおっぱいについて言及してしまった。


 そしてその魅力についてなぜか急に語り出し、最終的にパンツめくりたいとまで口走ってしまった。


 ……しまった。



「えっうそ、アンタほんと何言ってんの?!」

「兄貴ぃ、まさか……頭がやられて……」



「えっ……えっえっ……えっ……?」



 俺も分からなかった。俺自身でさえ、自らが発した言葉の意図を全くもって分からなかった。

 ……ああ、いや、そう思っていたことは間違いなくなのだが、なんでそんなものが口に出た?


 普通は、ここに入った時にちょっとそう思うくらいなのに。こんなことを告白するような仲じゃなかったのに、どうして?



「……っっ、最っっっっっっっ底ですね、ガスさん……私、貴方のこと診てあげたのに……!」



「———、ハッッッッッッッッッッ?!」


 何が起こったか分からない、なぜ俺があんなことを口走ったのかは分からない、ただ、俺はただ1つ理解した。


 そう、ただ1つ。




 俺は、最低なことをしてしまったんだと。

 最低なことを言ってしまったんだと、言われなくても理解してしまった。

 



「……っ!」


 そのまま、俺はギルドセンターを後にした。

 とりあえず走って、走って。

 誰にも出会いたくなんてなかったから、とりあえず走った。


 がむしゃらに、どこに行くのかも分からず、ただひたすらに走った結果。



 俺が辿り着いたのは、王都の広場だった。



「……いや、これじゃ結局、他人と会っちまうじゃねえか……っ!」


 息の上がった体を抑え、再度どこかへと走り去ろうとした瞬間。


 声が、聞こえた。




「あ、どうも~……近衛騎士……団長、になりました……レイ・ゲッタルグルトです……キランッ☆」


「……レイ! もっとこう……キャピッと!……なんかこう……もうちょっと可愛くっ!」


「可愛くってなんですかっ!……アホなんじゃないですか、こんなもんに夢中になって!」


 声のした方向———広場中央の噴水、その横に置かれた木の土台に立っていた、2人の人影。


 1人は、人界軍近衛騎士団の中でも特に冷徹とされる、黒い甲冑を纏った女騎士。名をライ・チャールストンと言う。

 もう1人の人間に指示を出していた側の人だが……あんなキャラだったか?



 そしてもう1人。2週間前、突如として人界軍に現れ、突如近衛騎士団長にまで登り詰めた謎の少女、レイ・ゲッタルグルト。


 彼女はだったが、それでもその剣———いや、捌きは、あまりにも鋭すぎると有名な話。らしい。なんでも、あの出身だとか。


 ……だが……なんだあの衣装は?


 妙に露出度が高く、さまざまな色があしらわれた、とてもカラフルで明るい服……だが、あんなの近衛騎士には到底似合わない。



 似合わない、が。


 それでも俺は、それが『かわいい』と思えてしまった。




 だからこそ。


 ここで俺は、ようやく最初に戻ってくるんだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 そして、その土台に飛び乗った俺は、言い放ってみせたのだ。




「おっ…………おっ、おおっおおおおっ……!



 俺と、付き合ってくださいっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」




「…………え」

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