父という存在
―――四十九日。
それは、故人の極楽往生の審判が下る日。
このため遺族は、初七日から7日ごとに供養を行う。
少女は、仏教というものを知らないため、その行いも知らなかった。
しかし、悲しみに打ちひしがれながらも、自身の母親を埋葬し必ず7日に一回は供え物を取替え、手を合わせる。
きっと、人間の
それを繰り返した7回目の夜。
――即ち、四十九日の夜。
その暗闇を纏った空には、望月が輝いていた。
少女は母親が眠る土がこんもりと盛られた〖墓〗の前に一輪の白菊を手に立ち尽くしている。
「母様……」
ふと、そうつぶやいた。
次の瞬間―――――――。
「………ぇ?」
少女の回りに、光が舞った。
よくよく目を凝らすと、蝶のようである。
『〖水月〗やっと会えたね。』
母親の墓の後ろに、ほんのりと月のような柔らかい光を放った見知らぬ青年が立っていた。
「なぜ私の名を?」
なぜ知っている、と自身の母以外の人を初めて見た少女に酷く警戒されながら問われた青年は、知ってて当たり前だよ、と印象的な細いたれ目を更に細くし微笑み応える。
そして、こうも続けた。
『だって、君の〖父親〗だから。』
そう答えた青年は、月の色を落し込んだ薄い金の絹糸のような長髪を後ろで結い上げていた。さらに色白の体には、心が洗われるような白地に金のきらきらとした糸で〖月と蝶〗を形どった衣を纏っている。それを、横から吹いてくる秋風になびかせている様は、まるで天女のようであった。
見た目は、青年。
大体、数え18程の若者にしか見えない。
少女の母は、今年亡くならなければ25、6だったはずだ。
それに、見た目通りの年齢であったら、水月は彼の5,6歳の時の子となってしまう。
まず、ありえないだろう。
その結論に至った少女は、害を成す者だ、という目で青年を軽蔑する。
「だったら、瞳の色がちがうでしょ?」
絶対違う、と少女はあきらめたように鼻で笑った。
母は死に際に、言っていたのだ。
少女の綺麗な青い瞳は父親譲りだと。
しかし、青年の瞳は、珍しい金色だが青色ではない。
『あ、これは〖星〗に、いや、友に〖借りている〗んだよ。』
それに、僕はこれでも長生きなんだからね、と青年はどこか誇らしげに胸を張って言う。
「〖星〗?お星様のこと?」
借りるってなに?と先程までの警戒心が解けたのか、少女は興味津々に青年に詰め寄る。
『まぁ、いずれ分かることだよ。』
青年は、まだ知らなくていいことだよ、と誤魔化す。
そして、『君には〖どっちで暮らすか〗決める権利があるんだよ』、と少女に言った。
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