魔法訓練1
ブルーの話ではキーケは氷魔法というよりは温度を下げる魔法を求めているようだった。
王都ベリータウンでは街の温度を一定に保っているが、その温度を操作する魔道士が不足しているらしい。
キーケは元々暑い地域であったわけではなく、隣国リロカからの熱攻撃を受けており、近年になって気温の操作をする魔法の需要が急激に高まっているということだった。
そして、このリロカからの熱攻撃による心労が素で王子は不眠症になってしまったということだった。熱の来る方角や魔道士の目撃情報からリロカが熱攻撃を行なっていることは確実ではあるらしいが、決定的な証拠がなく交戦に出にくいことも心労の原因らしかった。
事情を聞いた私は、王子の不眠の種が少しでも軽減されるならと気温を下げる魔法の伝授を行うことにした。
私は夢の中で雪山を作った。
実際の雪山には行ったことはないが、何度か凍え死ぬ悪夢を見たことがあった。大量の雪は容赦なく体温を奪っていく。吹雪を追加すれば尚のことだ。
私は自分の夢の中から世界の夢へ繋がるの扉を作った。初めて作るが簡単に作ることができた。扉の先には王都の風景が広がっている。扉は王都にある広場のうちの一つに繋がっており、そこには三十人程度の魔道士が立っていた。
「生贄とはありがたいねーぇ」
「夢で人を殺せるの?」
「そりゃそうだぜ、ただの悪夢じゃなくて呪いなんだからなーぁ。コツは強ぇの一発で一気に痛みを与えることだぜ。運が良けりゃあ、そのショックで御陀仏よ。まあ、あんだけ居りゃ十五はイケっかなーぁ」
「そうなの……。それなら、もう少し強めに……」
「強め? なに──」
呪いを抑える力を強める。私自身の魔力を使って夢の中に触覚を再現する能力だけを残して呪いを無効化した。
扉を通り抜け、世界の夢に入る。
扉の傍に控えていたミルが、
「本日お世話になる魔道士・騎士合計三十四名全員揃っております」
三十四人の男女比は半分半分くらいだった。母国レヌカでは魔法も武術も全てが男性を立てる社会であったため、魔道士も騎士も男性ばかりだったので、女性の多さに驚いた。
「よろしくね。では、参りましょうか」
私は大人数が通れるように自分の夢に繋がる扉を拡大させた。初めてのことだったが簡単にできた。
三十四人の魔道士と騎士が私の夢に足を踏み入れた。
おそらく雪山も温度のある夢も初めてであろう彼ら彼女らは、方々で感嘆の声をあげている。
しかし、それも一瞬のことで、すぐにその寒さに閉口する。
何名かは寒さに耐えきれずに消えた。そして、現実世界の王宮内にある仮眠室で目覚めていた。私は現実の仮眠室の様子を見ることができるようにしていた。幽体離脱魔法の応用である。
「誰か炎の魔法を使って見てくれるかしら?」
私の言葉に何名かの魔道士が炎を出現させる。しかし、その炎には魔力は通っておらず温度のない炎になっている。
私はその炎に魔力を注ぎ、熱を与えようとするがうまくいかなかった。炎に触れたり、魔道士に触れたりもしたが無理だった。
「ひ、姫様、一度この寒さを抑えてはもらえませんか。全員寒さに耐えきれず起きてしまいます」
ミルの言葉に周囲を見回すと、残っているのはミルを含めて十人程度にまで減っていた。
「あら、ごめんなさいね」
瞬時に雪山が草原に変わる。急激な環境の変化に耐えきれず二人減った。残っているのは熟練に見える魔道士や騎士が多く、若い騎士はミルだけだった。さすが姫付きの騎士は忍耐力が高い。
ミルはあたりを見回し、
「皆寒さのせいで起きてしまったようですね」
「訓練の方法はもう少し考えないとダメそうねぇ」
「そうですね……。あの、姫様、質問してもよろしいでしょうか?」
「いいわよ。なにかしら?」
「なぜ姫様の夢には温度があるのでしょうか? 我々の見る夢は痛みに繋がる感覚はないのですが……」
「夢の中で魔力を使っているのよ」
私は呪いのことは伏せて話した。
「夢で魔力を使う……。まったく想像ができません。夢の中では全てが自由で魔力を使わずともなんでも出来てしまいますから。夢の中で魔力を使うというのはどういう感覚なのでしょうか?」
「そうねぇ……」
私も呪いを受けて勝手に夢の中で魔力が使われていただけのため、夢の中で魔力を操作する感覚というのは自分自身あまり分かっていない。呪いという夢の中にあるものを操作している感覚だった。そして、呪いのかけ方は分からないし、分かっていたとしてもかけようとは思わない。
「説明するのは難しいわねぇ……」
「そうですか……。では、姫様の夢の中で我々自身が魔法を使うことで訓練するのは難しそうですね」
「そうねぇ」
「ただ、圧倒的な寒さを感じることはできましたので、冷却魔法の取得のためにはなっていると思います」
「そうね。皆には寒さに長時間耐える訓練をしてもらおうかしら。私は皆が温度のある魔法を使えるようにできるか試してみるわ。
残っている皆にも一旦起きてもらおうかしら」
私は夢の中を再度吹雪の雪山に変えた。
寒さに耐えきれず次々に起きていく中、最後まで残ったのはミルだった。
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