はじまりの物語

世界最古のフィクション物語は4万4千年程前に描かれたインドネシアの壁画らしい。

書物と括れば中国の「易経」。

歴史書ならギリシャの「ヒストリア」か。


そんな中、現存する世界最古の長編小説と名高いのが日本で生まれた紫式部の「源氏物語」である。

しかし、その最古の小説に記された一文──"物語の出で来はじめの祖なる竹取の翁"。

誰が書いたのか、いつ書かれたのかも今一つ分かっていない始まりの物語。

かの有名なかぐや姫…竹取物語をつまりは日本の物語の親だと最古の小説は述べている訳だが、成程どうして──地に足がついたこの世界だけが全てでは無いのだと、月という異世界からの転生を交えて綴られた物語は文句無しに今でも色褪せる事なく多くの物語の親であると言えるだろう。


「これにする!」


ブックカフェ・ノアールの中二階。

常連の母親に連れられてきた幼い少女は絵本の棚からかぐや姫を持ち出して席へと着いた。

小学校にも上がっていなさそうな時分から気軽に物語の祖を手に出来るというのはよく考えてみれば何とも良い環境である。

母親にカフェオレ、少女にココアを届ける店主マスターに付いて行く。


テーブルへとお邪魔すればキラキラと目を輝かせながら落ち着きなく撫でじゃくってくる少女。

中々にテクニシャンではあるのだが、目的を忘れてもらっては困る。


不便な前足で絵本の表紙を捲ろうと苦戦していれば少女が察して手を伸ばし、いとも簡単にページが開いた。


「いっしょに読もう」


満面の笑顔に鼻を鳴らす。

言われるまでもない。

元よりそのつもりである。

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