第3話 おじさん、学園のゴシップを聞く
「つまり、あの三人は三角関係なのよ!」
女はイキイキとした顔で熱弁する。
その勢いに押され気味のダンは辛うじて「なるほど……」とだけ答えた。
ここは学園の一角にある、清掃員専用の休憩室。向かいの席に座るのは同じく清掃員のポーレンだ。
彼女の正確な年齢は知らないが、自分よりも年上だろうとダンは踏んでいた。
ポーレンは清掃員きっての情報通として名高い。ダンが何気なくアンセルの話を振ったところ、ポーレンは意気揚々と知識の全てを披露してくれた。
……彼女の話はこうだ。
この国の第一王子であるアンセルと、公爵令嬢であるロビネッタは幼い頃からの婚約者同士だ。
アンセルは立太子こそまだだが、次期王になることは確実。ロビネッタは帝国一の才媛として名高い。二人は学園の憧れの的だった。
しかし二人が入学してすぐ、二人を取り巻く環境は大きく変化する。マドカという娘がこの学園に現れたのだ。
どうやら彼女は異世界からやってきたらしく、卓越した魔法の才能を持っていた。
初めは浮いた存在だった彼女も、その実力と愛らしい人柄によって周囲の信頼を勝ち取っていった。
やがてマドカはアンセルと仲を縮め、それに嫉妬したロビネッタがマドカを虐めているという噂が立つようになった。そのせいかマドカとロビネッタの人気は逆転し、近頃ではロビネッタは孤立気味だ。
この春、二年生に進級した三人は同じクラスになり、恋のバトルはますますヒートアップを見せている。
「惹かれ合うマドカさんとアンセル王子! それに嫉妬の炎を燃やすロビネッタさん! 恋は障害があるほど燃え上がるものね! 三人の今後に期待だわ〜」
「お詳しいですね……」
「私はこういうゴシップが大好物なのよ! あはははは」
……楽しそうでなによりだ。
「ちなみにダンさんは魔法に詳しい?」
「いえ。ちっとも」
「魔法は火、水、風、土、光、闇の六つに分けられるんだけど、アンセル王子は火魔法の強力な使い手なのよ。それからロビネッタさんは水魔法、マドカさんは風魔法の使い手ね」
「へえ……」
「風魔法は火魔法を強めるからアンセル王子とマドカさん相性抜群! 逆に水魔法は火魔法を打ち消すからロビネッタさんとの相性はイマイチね……。やっぱりアンセル王子はマドカさんと結ばれる運命なのかしら?」
ポーレンはにやにやしながら想像を膨らませている。
「ちなみに光魔法は特殊な修行をした神官だけが使える魔法で、闇魔法は魔族が扱う魔法なの。どちらも普通の魔法士には扱えないから、魔法士の属性は実質四つね」
「ポーレンさん、魔法にも詳しいんですね」
「そりゃあ生徒さん達の話を聞いてたら自然と詳しくなっちゃうわよ! そのくらいしか楽しみのない仕事なんだから!」
そんなことを言いながら笑顔でダンをバシバシ叩く。ダンは苦笑いを浮かべた。
そのとき予鈴のチャイムが鳴り響く。もうすぐ午後の授業が始まる。
「そろそろお仕事の時間ね」
話が盛り上がりすぎて昼食を食べ損ねたことに気付き、ダンは包みをポケットに突っ込んで席を立った。
ポーレンと途中で別れ、ダンはほうきを手に校舎裏の庭園へと向かう。その道すがら、ダンはポーレンの言葉を思い返した。
王子と公爵令嬢の婚姻問題となると、この国にとっては一大事だろう。貴族の子女の集まる名門校だからかゴシップも壮大だ。
(まあ、ただの清掃員には縁のない話だな)
……と、思っていたのだが。
庭園の大きな木の根元に誰かが蹲っている。服装からしてここの生徒だろう。
ここに来る途中に本鈴も鳴った。今は授業中のはずだ。こんな所で何をしているのだろうか。
(もしかして具合でも悪いのか?)
「あのぅ……」
ダンがおそるおそる声をかけると、その肩がびくりと揺れる。
その人物は勢いよく顔を上げる。涙に濡れた青の瞳と目が合った。
「あっ……」
一度見たら忘れられぬほどの美貌。
そこにいたのは先程まで話題の中心にいたアンセル・べラース、その人だった。
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