二宮――2

 今日、一ノ瀬は、傘を貸してくれた人に礼をすると言っていた。そんな彼の態度に不穏さを感じたのはなぜだろう。咄嗟に「一緒に行こうか」と言ったら、すごい剣幕で断られた。そのままさっさと出かけた一ノ瀬を、俺はそっとつけてみることにした。理由はうまく言葉に出来ない。何か胸騒ぎのようなものがしていた。思考をかき消すように「いや、ほんまは相手がすごい別嬪さんで、あれそれなことをしに行くんかもしれん」と下卑た想像をしているうちに、なんだか羨ましくなってもきた。

 一ノ瀬の様子は、やっぱりどこか変だった。駅前でぼーっとしていたかと思えば、ひとりで喫茶店に入り、ひとりでコーヒーを飲んでいた。しかも、柄にもなくチョコレートパフェを頼んでいたようだけれど、それには一口も手をつけない。

 ――ドタキャンでもされたんかいな。

 思い切って店に入ってみようか悩んでいるうちに、一ノ瀬が店から出てきて、俺は偶然を装って声をかける。

 結局パフェは食べずじまいだったようだ。店員が黙ってパフェグラスを下げているのが見えた。勿体ないなあ……。

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