第12話 謁見

謁見の間とは、その城の最も華やかな場所である。

謁見の間を豪華に飾ることで、その国の財力や国力を相手に見せつけることが可能となり、敵対する気力を奪うことができるとされている。

無駄に高い天井や、だだっ広い部屋、豪華絢爛な飾り彫刻…等々。

そして権威を見せるための道具が玉座である。

煌びやかな装飾を施された玉座は、謁見のを申し込んだ相手よりも高い位置に備えられ、必然的に玉座に座る者は他者を見下すこととなる。


私の謁見の間というもののイメージは、このようなものであった。

しかしこのメロディアという国は、私の予想を常に裏切ってくる。

だから私は逆にこの国の謁見の間が気になっていた。


『そうだ、コッパとミンにこの国のことを教えておいた方が良いな』


王宮へ向かう道中、リュートがそんなことを言い出した。


『なっ…何か面白いことが、あっ…あったりするだか?』

『おう!多分他の国ではやってないことがあるんだぞ』


リュートはなぜかミンと話していると上機嫌になる。


『実はこの国には王様がいない』

『何!?』


リュートの言葉で驚かないつもりでいたが、流石に驚いてしまった。


『そして王女はいるけど、三年に一度の国民投票で王女を選ぶんだ』

『どっ…どういうことだど?おっ…王女は同じ王家の人じゃ、なっ…ないってことだか?』

『ワハハハハッ!やっぱり驚いたか』

リュートは上機嫌だった。


『そうなると、一体誰と謁見するんだ?』

『それは王女に会うんだよ』

『だがその王女は、王族ではないのだろう?』


頭が混乱してきた。

そうなると今回の謁見の意味はあるのだろうか。


『まあ、楽しみにしてるんだな』


そう言うリュートが一番楽しそうにしていた。



『こちらでお待ちください』


王宮の執事に案内された部屋は、八人掛けの円卓がある部屋であった。

円卓の中心には白い花と黄色い花が入った花瓶が置かれている。


『謁見の間に行く前の待合室か?』

『えっ…ここがで謁見するんでねえのか?りっ…立派な部屋だど』


ミンはテーブルクロスを触りながら言った。


『ミンは王宮や貴族の館に入ったことは無さそうなので知らないのだな。謁見の間というのは、来た者を屈服させたくなるほど豪華なのもなのだぞ』


その時、奥の扉がガチャリと開く音がした。

入って来たのはひめっちであった。


『客を退屈させないために躍りでもてなすのか。良い心遣いだな』


私は素直に感心した。


『お前は何を言ってるんだ?ひめっちだぞ』

『だから、踊り子のひめっちだろう?』

『まっ…また会えて嬉しいだよ』


ミンは嬉しそうに手を振った。

ひめっちはそれに笑顔で応えて手を振り返していた。

そしてゆっくりと、ひめっちは円卓の向かい側に座った。


『いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました。私が王女のベルです』

『おっ…王女様?えっ?踊り子ではなかったのか?』


驚きのあまり、私は立ち上がっていた。


『王女は期間限定の称号です。私の本職は踊り子ですわ』


ベルは可笑しそうに口元を隠して笑う。

相手が王女だというならば、失礼がないように気を付けなければならない。


コンコンと扉がノックされ、私は慌てて椅子に座り直す。

扉が開くと、人数分の紅茶とクッキーの乗せられた皿が運ばれてきた。


『いっ…いい匂いがするんだど。こっ…これ食べても良いんだか?』

『ええ、どうぞ。コックさんも喜びますわ』


許可をもらいミンは嬉しそうにクッキーを頬張った。


『うっ…美味いんだど!オラ、こっ…こんなに美味いお菓子食べたことないだよ』

『あらあら。後でコックさんに伝えておきますね』


ミンは大袈裟過ぎると思ったが、私もクッキーと紅茶をいただいてみる。

まずは紅茶を一口。


『こっ…これは、美味い』


父が重要な客をもてなす席に同行したことがあるが、その時に出された紅茶よりも美味い。

この茶葉が良いのだろうか。


『この茶葉は、この国で作られた物ですか?』

『ええ。あまり国外では売られていない種類の茶葉ですけれど、気に入ってくれましたか?』


ベルはニコニコと私を見て嬉しそうに笑った。


クッキーを一口食べてみる。

味はパイスのクッキーの方がふんだんに砂糖やバターを使っているので甘いのだが、サクッとした表面の食感、ふんわりした生地の中に練り込まれたナッツの食感がとても良い。


(このシェフは優秀だ!)


謁見の間ということを忘れて、つい紅茶とクッキーを堪能してしまっていた。

そんな時にベルが本題を切り出した。


『リュートさん、今日はどのような用件で来たのですか?』

『どんな用件って、姫っちの顔を見に来たのが一番だな』


リュートはさらっと恥ずかしい台詞を言ってのける。

それとひめっちとは姫っちという姫の愛称だったようだ。


『ありがとうございます。私もリュートさんに会えて嬉しいです』


ベルもニコニコしながら、さらっと返事をした。


『あとは、関所の通行料を納めに来たのと、ちょっと言いにくいことが一つ』

『言いにくいこと?一体何でしょう?』


ベルは小首を傾ける。

仕草がいちいち可愛かった。


『実は関所が壊されちまった。迷惑料として5000バッツ納めてくれたので、これを使って関所の再建をしたいと思ってる』

『あらあら…それは困りましたね』


一瞬嫌な予感がした。

関所を壊した犯人として牢屋に入れられる可能性もある。


『木を伐って、製材して、関所の作り直しをして…分かりました。緊急の用件ですね。議会に緊急提案しておきますね。出来るだけ早く人手を手配するようにしますね』

『悪いな姫っち』

『いえいえ、報告ありがとうございます。用件は他にもありますか?』


ベルは素早くメモをすると、またニコニコとこちらを見た。


『いや、報告はそれだけだな』

『そうですか。それじゃあ時間までお茶とクッキーを楽しみましょう』


ベルはクッキーを口に運ぶと、美味しそうに食べ始めた。

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