両親を殺した悪逆非道な皇帝に復讐するために武術の修行したら世界最強になりました〜王道と邪道、どっちもマスターしたら無敵です!〜

半金庸平

第1話 こうして僕は皇帝の暗殺を決意した

僕の前世は、日本の社畜だ。


そのことにはじめて気づいたのは、目の前で父上と母上が逮捕されたときだった。


僕が転生した聖ミンダリア帝国は、ヨムルスエイジャ大陸の西に位置する国だ。


東西1700キロ、南北1000キロ、ちょうど前の世界のフランスとドイツをすっぽりと覆うほどの広大な領土を有する。


西はカルタギア海という大洋に面し、外国の貿易船がミンダリアの港にやってきて、交易が盛んに行われている。


東にはティエンルン山脈という4000メートル級の山が連なる山脈があるのだけれども、山と山の間の険しい峠道をわざわざ通ってやってくる外国の使節が求めているのもこの国の富だ。


北には草原地帯が広がり、遊牧民族が家畜とともに暮らしている。前の世界でもそうだったように、こっちの世界の遊牧民族も僕たち農耕民と時々交易し、時々略奪しにくる。もちろん、こっちの世界の人もバカじゃないから、国境地帯にたくさんの要塞を作り、遊牧民族の動きを監視している。


南には熱帯雨林が広がり、小さな国が点在しているらしい。


こうした外国との貿易を通じて、ミンダリアには世界中の物が集まってくる。

なにより、この国自体も広大な農地から農産物を収穫でき、あちこちの鉱山から豊富な鉱物資源が採れる。


この経済力を背景にして、この国では学問が活発に行われ、無数の職人により作られた商品が市場にならび、ありとあらゆる娯楽が発達している。まさに、大陸一豊かな国だ。


というのは表向きの話。

統計データが示す国の豊かさと、そこに暮らす住民の生活感覚にズレがあるのは、前の世界でもこっちの世界でも変わらない。


さっきも言ったように、北の遊牧民族は定期的に襲ってくるし、その上、西南の方の海にあるいくつかの島が何十年も前から海賊の根城になっていて、そいつらが海沿いの町や村を荒らし回っていて貿易に支障が出ている。


国内では、ここ数年天候不順が続き、作物が上手く育たない。

こんな状況なのに、役人共は庶民に重税をかけてくる。


そんな訳で多くの庶民が飢えに苦しみ、借金で土地を失くした農民があちこちで抗議してるけれど、そんな人たちを軍隊は「反乱」と呼んで虐殺している。


つまり、もう終わってるんだよね、この国。


僕の父上ヘンリー・ユアンは東北の国境、東の山脈地帯との境目でにある要塞の司令官だった。

針葉樹の森が広がる寒冷な地域で、シュクジェンという蛮族が小さな集落をあちこちに作って暮らしていた。


もともとシュクジェン人はミンダリアに対して比較的従順で、治安はそれなりに良かったんだけれど、20年ほど前、デーニッツという奴がシュクジェン人の頭目になってからというものミンダリアに逆らうようになった。


父上は司令官として軍隊を率い、要塞に襲いかかってくる蛮族たちを何度も退けてきた。

まさに救国の英雄だ!

父上がいたからミンダリアの人たちは安心して夜眠ることができたんだ!


それなのに、疑り深い皇帝アレクセイは、


「父上がシュクジェン人と内通して謀反を企てているいる」


という宦官の嘘を信じて、鉄甲衛、皇帝の手足となって「反逆者」を取り締まる部隊に命じて父上を、そして一緒にいた母上を逮捕した。


このとき僕は、まだ5歳の、何もできない無力な子供だった。


僕は父上の部下に守られてなんとか逃げることができたけれども、父上と母上はそのまま都に連れ去られてしまった。


「反逆者ヘンリー・ユアンが都の大通りで処刑された」


そのしらせを聞いたのは、父上と母上の逮捕から2ヶ月後、追手から逃げながらあちこちを転々としているときだった。


父上の汚名を晴らし、父上を罪に陥れた宦官ども、そして皇帝に復讐する、それが僕ウィリアム・ユアンがこの世界に生きる意味になった。

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