第183話 永瀬綾の男理論

縛られてた康司は俺と永瀬さんに着いて来る。

永瀬さんは気を使って、


永瀬『ね?宏介くん♪

…康司くんはどう思う?』


取って付けたような付け足しに康司は…。


康司『ふふ、ごめんね。俺お邪魔で…。』


朝のご機嫌と正反対のお通夜のような雰囲気に。

花見て、珍しい植物見てはしゃぐ永瀬さんも、展示物じっくり見たいタイプの俺も正直言って康司を持て余していた。


見た目もスペックも康司は本来良い男。

ただ女性関連だけはその経験値の無さからことごとく外している。

陽気で面白くて背も高いし勉強だって特進こそ逃したものの上位勢だし俺よりよっぽどモテるはずの男。

不思議でしょうがない。


ずっと着いて来る康司に…ついに永瀬さんがキレた。

いや見かねたと言った方が良い。


永瀬さんはため息ついて康司を植物園の自販機コーナーに置かれてる4人がけテーブルに座らせた。

俺どっち座れば良い?


康司

テーブル   宏介

永瀬



永瀬『宏介くんはこっち!』


ばんばん!隣の椅子を叩く永瀬さん。

少し苛立っているようだった。珍しい。



康司

テーブル

永瀬 宏介



永瀬『なんでにーちゃんが縛って置いて行ったかわかる?康司くん?』


康司は困惑しながら、


康司『えーっと、趣味?』


永瀬『にーちゃんはどノーマルなの。

言いにくいんだけど言っちゃうね?』


永瀬さんにしては珍しい。

あのダメ男たちですら笑顔で応対してきた永瀬綾だぞ?


永瀬『康司くんが邪魔だから置いて行ったんだよ。』


申し訳なさそうにでもハッキリと言った。

ショックを受ける康司に永瀬さんはダメ出しを続ける。


永瀬『康司くんは今日、浩くんと清香ちゃんの為にって聞いてるよね?』


康司『…でも…それはきっと方便で…。』


永瀬『裏を読む事は大事だよ…でも康司くんは表も見れて無いわけで。』


ショックを受ける康司。

口出ししようがない本当のことではあるし。


永瀬『にーちゃんの立場で考えよう?私が女の子目線で解説するよ?』


永瀬さんの説明は続く。

※二宮視点を永瀬さんが推理したものです。

清香と浩をくっつける後押しをしよう!

本人次第だけど、緊張しないように3対3でグループお出かけしよう!

宏介くんと浩くんと…クラス違うけど去年一緒だった康司くんが良いかな?


永瀬『…こうして康司くんがチョイスされたんだよ?』

※違います、あの教室で宏介に声かけた時点では3人目は『田中くん』だったのです。永瀬さんのクレームで康司になった経緯がありますw


康司『おおう…。』


感動する康司。


永瀬さんは続ける。

清香浩をペアで動かす為残り4人男女ペアがいいよね?

じゃ宏介くんはいつも隣だった仲良しの永瀬さんがお似合いだよね?

※永瀬の私見が多分に含まれています。

私(二宮新名)は康司くん。チョコもあげたし?お返しももらったし?

じゃ、バラバラになるけど清香たち気になるよ!近いとこでフォロー出来るように近めで展示見ていよう?


永瀬『そこで康司くんは空気を読まないでうるさいわ目立つわ邪魔するわ。

そんな人連れているメリットある?』


康司はしょぼんとして、


康司『…ありません。

いったい僕はどうしたら?女の子の経験が全然無い僕はどうしたら!』


一人称が僕になった?

康司が打ち砕かれて崩壊してしまった。


永瀬『私の意見だけどね?好みもあるだろうけどさ?

康司くんは良い男を演じなければならない。地がダメなら後天的に良い男になって行くしか無いでしょ?』


康司『おおう…あぁ。

納得しかない…!』


なんか宗教に見えてきた。

神々しいまでにカリスマ溢れる美人教祖と全てを喜捨しちゃいそうな弱者男子みたいな感じ。


私の持論だけど?

永瀬さんは前置きする。

さっきの康司くんのダメなとこ。

簡潔に言うね?



永瀬『うるさく邪魔して空気を読めない自分の事しか考えない女の子なら誰でもいい勘違い野郎?』


酷い…それは…そうかもだけども…。


康司『宏介、良いんだ。

このままでダメなら俺は…!試す価値はある!永瀬さんが思う理想の男?こういう男が良いっての教えてください!』



永瀬さんは少し赤くなりながら、



永瀬『おしゃべりな位なら?無口な方が良い。

空気読めないなら全身で周囲に気を配って後手になってもすぐ適切に動けば良い。

女の子なら誰でもじゃなくって1人の女の子を全力で愛してその子だけ見てるような男の子が良い。』


永瀬さんは目を瞑って、理想なのかな?口ずさむ。


永瀬『自分の事に集中したいのに妙に人に頼られたりバランス取る立ち位置に居ちゃって。

頑張り屋で、人のために一緒に頑張っちゃうような男の子が良いな。』


康司『…なるほど。』


永瀬『勘違いは誰でもしちゃう。でも実はよく見ていて?気を使ってくれてて?それを感じれば少し勘違いしても文句は言えないよ女の子なら。

そんな男の子だときっと女の子は心開いちゃうんじゃない?』


康司は黙って聞いていた。

いつしか憑き物が取れたような顔した康司は、



康司『…俺余裕なくって俺が俺がになってたんだな。

わかった、取り返せるかわかんない。

でも、二宮さんに謝って協力して来る!今日はそういう会だもんな!』



康司は笑って走って行った。

部活の時みたいな迷いの無いいい笑顔で。


永瀬さんはまだ続けている。

ありがとう、もう良いんだよ?


壊して再構築、康司には合っているのかも。


永瀬さんは赤くなりながら、


永瀬『だからね?

一見無口で無表情でもね?色んな事を考えて慮って、口にするか迷ってる。

その様子を見れば宏介くんは雄弁で表情豊か。

彼みたいになれば絶対に女の子に好かれるよ?

私は良いなって思うもん。』


そこで永瀬綾は目を開く、目の前の康司はもう居ない。

ぎぎぎって軋む音が立ちそうなほど首をこっちに向けた永瀬綾は首まで真っ赤になってて…。



手をバタバタ!首を振りながら!永瀬綾は学年1なんて噂される美貌を真っ赤にしながら、


永瀬『身近で!身近に!良いと思う男の子の話だから!

康司くんが真似しやすい!私が良いと思う!


…良いと…思ってるの…。』


『あ、あ、ありがとう…。』


ふたりして頭から湯気出そうなほど真っ赤になって俯く自販機コーナー。

向かいで無く隣に座ってる男女…一体どう見えるんだろうか?


『あの、なんて言っていいか…。』


永瀬『…。』


なにか決定的な事を言われたわけでも無い…でも…


結局俺は何も言えなかった…。


俺はやっとわかった、

俺、自分の気持ちがわからなくなっているんだ。

たぶん、皐月のことがあって、ゆかりさんが去って行って…わからなくなっちゃったんだ自分のことが。

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