第159話 愛莉先輩を呼び出す(手紙の件)

部活を終えて、シャワーを浴びて田中くんと待ち合わせて家路につく。

今日一日中気を張りっぱなしだったから疲れたー。


田中『宏介くん、何かわかった?』


俺は首を振る。

田中くんは?


田中『…僕も一日中宏介くんを中心に周囲を見てたけど特に悪意!とかの視線は感じなかった。

…強いて言うなら永瀬さんと話すと一部男子が注目しちゃうし、一部生徒はマジマジ見てるよね?』


それは俺も感じた、

…でも去年もそうだったし、永瀬さんはその美貌と健康的なセクシーを持ってるから注目されがちだよね。極端な強い視線や悪意は無いってのは共通の感想だった。小佐田さんと話した時もそう。

愛莉先輩も同様。


『…田中くん、この手紙の事って言うべきかな?』


昨日少し相談した内容なんだけど判断基準が無くて1日様子見てみよう?って事になっていた。何かヒントがあれば。

そして、今日観察したけどもまったく正直わからない。


手紙の内容は、


1『天童愛莉に留意されたし。』

2『小佐田恋に注意。』

3『永瀬綾に気をつけて。』


田中『正直言っても言わなくても?警戒しかできないし、意味無い気もする…。』


歯切れの悪い田中くん。

そうだよね、注意とか気をつけろって言われたって本人に言ったからどうなる?って話。

ただ不安にさせる要素しかないわけで。


でも、



『…愛莉先輩だけは気になる。』


他にふたりは教える意味があまりない。


シュミレーション

小佐田さん。


『…実は小佐田さんに注意しろって手紙来たんだ。』


小佐田『はあ?なにそれ?』


うん、こんな感じ。


シミュレーション

永瀬さん


『…永瀬さんに気をつけろって手紙が…。』


永瀬『私何かした?』


うん、こんな感じ。



ただ、愛莉先輩だけは、


『天堂愛莉に留意されたし。』

愛莉先輩に何かあるんじゃないか?って示唆している内容なんだよね。

俺は田中くんに、


『俺、明日もう一日様子見て何も無ければ愛莉先輩にこんな手紙来たって打ち明けようかと思う。

…何かあったら困るし。』


田中『うん、良いんじゃない。

…他の2通は?』


『…不安させるだけだし黙ってる事にするよ。』


愛莉先輩に永瀬さん、小佐田さん注意って手紙来たって言う必要感じないし。

本人たちに言っても中傷してる奴居るって知ってショック与えるだけでしょ?

もちろん彼女らになにか噂とか中傷されてる気配があればこんなことが…って言うかもしれないけど…。


そう言う事にしようって決めて翌日。

翌日、特に何も無く放課後を迎えて部活が始まった。

…何も無いのが1番なんだけどなんかモヤッとする。


俺は愛莉先輩にどう言ったら良いか?なんて言えば良いか?迷いながら声をかけそびれる。部活中にこんな内容のこと伝えるのも怯えさせてしまうよね?

内容をダイレクトに話さず、でも大事な事って。

部活終わりに時間くださいって?

難しい…。


そうやって悩みつつ愛莉先輩は今日忙しそうでなかなかふたりで話せるようなタイミングが無い。


忙しそうだな。

困ったな。


時間はどんどん過ぎていく。

部活終わりに用事とか約束がある可能性もあるし、もたもたして先約入っても良くないし。



少し強引だけどアポイントだけ早めに取っておこう!

俺は部室へ何か取りに行く愛莉先輩を確認して、追いかけて話をする事にした。



☆ ☆ ☆

部活中で部室には誰も居ない…。


愛莉『ふんふふふーん♪』


愛莉先輩はジャージ姿にふわっとした髪をふたつ縛りにして部室の掃除をしながら鼻歌を歌っていた。


ばたん。

大きな音は立てずに部室ドアを後手で締める。


愛莉『わっ!宏介くん?!

…聞いた?鼻歌歌ってたの…?』


あたふたしながら愛莉先輩は目をきゅって瞑って恥ずかしそうに顔を赤らめていてその姿は年上お姉さんの威厳なんか全く無い可愛い女の子でしか無い。

…魅力的過ぎて…寒気してきた…!


愛莉『宏介くん?』


部屋に入ったはいいがなんと切り出したものか少し困っている俺目を覗き込む愛莉先輩は可愛い。可愛いから余計に緊張感出ちゃう、怖い!


でも、大事な事!何かあってからじゃ遅いんだ。

俺、言え!



『…先輩…今日部活終わりなんですけど…時間あります?』


愛莉先輩は目が糸目になっちゃうほどニッコリ笑って、


愛莉『どうしたのかな?手のかかる後輩くん?

お姉さんに相談かな?トレーニングメニュー?スキル?

それとも先輩としての心構えかな?』


人差し指をピッと立てて振りながらイタズラっぽく俺に笑いかける。

俺密室にふたりはちょっとダメな感じする…!

早く用件を要点を…!



愛莉『?

宏介くん?どうしたのかな?

体調悪い?保健室行く?』


愛莉先輩はハッとした顔で俺の様子がおかしいから慌てて手を取る!

手の温度と俺の額を触り、


愛莉『熱…は無いね?

あ!やだ!私ったら!』


パッと手を握ってた愛莉先輩は手を離して一歩後ろに飛び退る。


『…先輩、あの。

…今日部活終わり、体育館裏来て貰えます?』


愛莉『えー?うん。

…なにかな?』


しっかり言えばいい。



『…ちょっと大事な…話がありまして…。』


愛莉『え?え?え?

大事なはなし?大事なはなしー?』


俺は頷き、


『はい、とても。

部活終わり…18:30に体育館裏で。

愛莉先輩とふたりきりで。』


人に聞かれない方がいいよね?



愛莉『はっはっはい!いきましゅ。』


愛莉先輩は真っ赤になりながらロボットみたいな動きでコクコク頷くと、ギコギコ音がしそうなほど関節の稼働部が制限されたような動きで心ここにあらずって表情で出て行った…。

なにか誤解しているような動きに不安を覚えるけど2人っきりで話せれば特に問題は無いわけで。

結局あの後部活中一回も愛莉先輩は目が合わなかった…。

なんか告白とかと間違われて無いかな?俺は心配になってきた。



☆ ☆ ☆

部活が18:00に終わりいつもなら自主練を18:30位までしている俺だけど今日は手紙の件で愛莉先輩にアポイントとったからシャワー浴びて、制服に着替えてもう帰るだけ!って状態で手紙を用意して待ち合わせ場所の体育館裏へ向かう。




そこには正真正銘の乙女が居た。



いつも愛莉先輩は身支度綺麗で乱れただらしない格好なんかしていない。

他マネージャーが疲れや作業でダレていても愛莉先輩だけはいつも綺麗で手入れの行き届いた服装と髪型を保っている。


…しかし、今はそれを二段超えた仕上がった状態で手を胸元に当てて、

ドキドキ、うきうきって様子で頬を紅潮させながら目をキラキラさせて待っている。



『…これは狙われるワケだわ。』


思わずため息が出る。

それほど仕上げた天堂愛莉の美人っぷりに脱帽するばかり。

女性恐怖症無かったら持っていかれそうな魅力ダダ漏れ状態!


多分俺やらかしたんだ。絶対何か誤解している。

言い方?呼び出し方?

俺は出頭する犯人のような気持ちで愛莉先輩の前に歩いていく。

…この手紙が悪いんだ…俺の声は誰にも届かない…!




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