第151話 忍者なの?【side小佐田恋】

ゆかりっちと別れて私はターミナル駅ビルの本屋さんで二年生用の参考書を購入して帰途に着く。


ゆかりっちも言っていたけどもう二年生になるんだね。

ようやく寒冷地のうちの県も春の気配が訪れる。

あたし寒いの苦手だから春が待ち遠しい。



ふんふふーん♪


『…あの…。』


急に声かけられてビクッとなっちゃう。

だれ?!


田中『…こんにちわ。

小佐田さんも鼻歌歌うんだね?』


聞かれた?!

それより一瞬でコイツ出てこなかった?!

私は冷静を装い、知り合いとの突然のエンカウントに自然に対応する。



『田中くん?どうしたん?こんなとこで?』


田中くんは少し小柄なヒョロイメガネの男子。

…でも期末試験などでは学年3位前後は確実に獲れるすごいやつ。

…以前ゆかりっちがらみの映像研究会との関わりで知り合った斎藤(宏介)くんの親友らしい。



田中『…ちょっと知り合い見かけたから…極秘取材を…。』


目が泳いでいる。

…なんかむっつりな男の子って感じする…。


『当たり前だけど?法に触れるような事されると学校や生徒に迷惑だし?』


さらに目を逸らす田中くん。

これ?怪しくない?


『何撮ったのか見せてくんない?』


さほど親しいわけじゃ無いけど気になって仕方無い。

なんか隠してるような感じ?



田中『いや…あの、その。』


渋る田中くんに疑いは深まる一方な訳で。

田中くんはふうって一息吐くと観念したように、



田中『…見て貰った方がいいかも知れない。』


キリッとした顔で私に向き合った。

…なんか盗撮とか疑ってるんだけど?違った?


じゃ、スマホ出して?私の問いかけに田中くんは不思議そうに、


田中『カメラで撮ったんだよ?』


ハンディカムのデジタルビデオカメラ…?

これを県内屈指の人通りのターミナル駅構内で撮影して誰も何も言わなかったの?


田中『…僕存在感が消せるんだよね…。

簡単に忘れられちゃうくらいに…。』



まさか?そんなわけないでしょ?

存在感少ないとか無いって言ったって?


『…そんなわけないっしょ?存在感消せるわけ…。』


話しているとまるで色が薄くなるように目の前田中くんが消えそうな錯覚…忍者なの?

あたしはしっかり目に力入れて田中くんを見てる。

しっかり認識すれば全然大丈夫。

でも一回目を逸らすと紛れそうになるし、気を抜くと簡単に逃げられそう。



田中『…ごめんなさい。そんなに睨まないで?』


田中くんは泣きそうな顔で怯えていた。

悪かったね!怖そうってよく言われるし!



田中くんが差し出すビデオカメラの液晶画面ですぐに撮影した内容は再生する事が出来た。


…九頭くん?背景はターミナル駅。

外見だけは…イケメンだけど…


私は思わず、



『…隠し撮りで男の子撮ってたの?

…無いわぁ…。』


男同士なんて生産性の無い…。

私の疑いを全力で

否定する田中くんは目をバキバキにして、



田中『僕は女の子が好きです!

寝ても覚めても女の子の事考えています!』


『…キモ…。』


漏れ出た呟きは田中くんを傷付けてしまった。



☆ ☆ ☆

画面に映し出されているのは九頭くんがナンパしている光景…。

画面越しにでもわかる可愛い女の子を見てはひっきり無しに声かけて居てそのうち数名がちょっと話し込んでロイン交換したり、お茶したり。


問題なのは、



『僕、そこの北翔高校の生徒なんだ。

…うん、そう。成績は良い方だよ?』


とか、学校の名前出してたり、

※いけしゃあしゃあと成績良いとw


『彼女居ない居ない!もうだいぶ前に別れちゃった!』


ああ…あたしこう言う奴1番嫌い。

前に頼まれてゆかりっちに引き合わせちゃった責任感じる…。

それでもあの子にとって憧れの王子様だって聞いてたから。

浮気とかしそうなダメ男っぽいなぁって思ったし、制約かける為にも、

『在学中は絶対別れない』って縛りを設けた。


好きで結ばれて…でも上手くいかなかった。

世間ではよくある話。

でも私はゆかりっちとクズに縛りをかける為に悪い噂打ち消す引き換えに別れないって誓わせた。

クズは約束は破ってないって言い訳するんだろうけどもう事実関係は破綻していて、クズは誠意のカケラ無い動きをしている。


ゆかりっちの『もう九頭くんは私に興味無いんです。』の言葉通り私の耳に入る情報も九頭は学校でも校外でもゆかりっちに寄り添う姿は見られない。

それどころか校外でナンパしてた。飲み会でお持ち帰りした!みたいな話を聞くし、私の同級生もナンパされてた。

…やっちゃう?


『…田中くん、これを焼いて私に貸してくれない?

出所は秘密にする。』


田中くんはどうしようかな?って顔。


『…斉藤くんは九頭くんの事…きっと口にはしなくても不愉快だよねぇ?』


私、きっと悪い顔している…。

田中くんも悪い顔して、


田中『…そうだろうねぇ…。

僕は宏介くんの敵は許せ無いねぇ。』


ふふふふ!

はははは!


利害が一致した!

私は田中くんに相談して新学年開始早々に仕掛ける事にしたんだ。

クズを型にハメよう。


…これは教育でしょ?






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