第139話 生徒会は忙しい【side一ノ瀬司】
『副会長、留年してしまった生徒のリストは?』
副会長『こちらに。
…注意事項やそのまま使えない物リストと一緒に用意してあります。』
『ありがとう、綾ty…ごほん、永瀬書記?今年度予算は使い切っているかな?』
永瀬『…。…はい、文具でぴったり使い切りました。』
僕は庶務の子達に振った仕事の進捗状況を確認してようやく安心する。
ここは北翔高校の生徒会室。
3月中旬の春休み真っ只中で部活や委員会、補習の生徒たちしか居ない校内は静かで落ち着いている。
副会長は留年した生徒のフォロー用のパンフレットを作成して配布する用意をしている。…進学校たる我が校でも素行や成績で残念ながらそうなってしまう子も居る。
不当な処分には生徒会から抗議したりするのだが大体留年は成績の問題なので生徒会は直接関わりが無いのだが毎年必ず起こる留年生と元同級生のトラブルや留年生と進級した生徒のトラブル防止の為生徒会はパンフを作成して留年した生徒に渡している。
何かあれば力になってあげたいしね。
他にも予算問題、春休みに生徒が起こしたトラブルや新入生がもうじき入学してくるので諸々の準備で僕たちは忙しい。
そんななか、
永瀬『…ふんふふふーん♪』
永瀬書記が鼻歌交じりで今日はご機嫌。
綾ちゃん良い事あった?僕がそう問いかけると機嫌が悪くなるから黙って見てると、
庶務女子『永瀬さん?なんか良い事あったのー?』
永瀬『…いや?特に?』
庶務女子『うそだ!絶対良い事あったでしょ!なに?昨日のホワイトデー?』
永瀬『いやだなー!違う違う!』
(絶対ホワイトデーでしょ?)
思ったけど口には出さないで仕事をこなす。
良い事あると気分上がるよね、良かったね。
僕も庶務の子たちと本当はボランティアで老人介護施設訪問や学童保育の子どもたちの面倒をみたい。…会長って肩書はどうしても判断や書類整理の為に校外活動に制限が入る。
…趣味の古民家研究会のメンバーと語り合いたい…。
僕はそう思いながら書類整理マシーンとして生徒会の真ん中で書類をさばく。
庶務女子『…そう言えば?留年生の中に永瀬さんに言い寄ってた山本くんの名前あったね?
差堀先輩は卒業出来て良かったね?九頭くんも進級おめでとう!』
2年生の庶務の女の子…ライバル心があるのか彼女は綾ちゃんを煽る癖がある。
良く無いな。
永瀬『…ありましたけど…関係無いです。ふたりもそうです。』
庶務女子『えー?仲良いんでしょ?留年可哀想w』
これは見過ごせない。
『…本人の責任ではある、でも生徒会以前の問題として留年した生徒を笑うような事はしちゃいけない。それで無くてもナイーブな問題だし留年せず退学してしまう生徒も多いのだから。』
凶悪な事件や犯罪は論外としても人には事情がある。
あまりそこには触れない方が良いはずだ。
まあ彼の場合は期末試験も補習も追試も受けなかったから問答無用で留年が決まった自己責任と言えどもね。
仕事を減らす為にも大いに学業推進をお勧めしたい。
煽られた綾ちゃんが少しキレながら主張する。
永瀬『…でも一年の三島は赤点も多く、友永は赤点ありで停学ありなら留年で良かったのでは?』
…綾ちゃん…この話の時怖い。
『生徒会から留年を勧めるのは生徒たちから信頼を失うから出来ないよ。
…そういった生徒を指導したり、曲がった道へ進ませないように生徒会は尽力するんだよ。』
永瀬『…そうですけど…。』
そのふたりに綾ちゃんは拘っている。
綾ちゃんから聞いてはいる、クラスメイトの斎藤くんが受けた裏切りと屈辱的な出来事を。
それでも彼は真っ直ぐ成績を伸ばして部活でも結果を出している。
多忙だろうけど?是非そんなに頑張って結果を出した生徒が生徒会に欲しくて勧誘したけど忙しいって断られた。
…綾ちゃんが喜ぶだろうって思惑も否定できないけどもね。
それでも話したら聞いてた通りの生徒でストイックで情熱を内に秘めているように感じた。
事務も書記の子も所用で外して室内は僕と綾ちゃんだけになった。
一応斎藤くんから話し行ってるかもしれないし、フォローしておく。
『綾ちゃん、綾ちゃんのクラスメイトの斎藤くんを生徒会に勧誘したんだけど断られてしまったよ。その話し聞いてる?』
綾ちゃんは機嫌悪そうに、
永瀬『会長名前で呼ばないで下さい。そんな事したんですか?!』
『だって僕が引退したら綾ちゃん補佐する信頼できる人必要じゃないかな?』
永瀬『ちょっ!余計なことです!』
そう言いながら綾ちゃんはちょっと嬉しそう。
僕はその笑顔を守りたいって思う。
幼馴染としてずっと見てきたからさ。
綾ちゃんは誰も居ないと僕に自由に話し出す。
そこは幼馴染だからね。
直接言わないけど話の中で色々綾ちゃんの思ってる事を窺い知る事が出来る。
綾ちゃんは男性不信なんだ。
その原因は彼女のパパにあるけど、僕もその一端を担っていると思う。
…綾ちゃんが信頼する斎藤くんを出来るなら口説き落として生徒会に来て欲しい…!
もうじき新年度、僕は高校生活最後の年。
どんな一年になるだろうか?
春は近い。
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