第134話 永瀬綾とお出かけ

ホワイトデーの日、午前中の部活を終えてから俺はシャワー浴びて更衣室で着替えてターミナル駅に向かう。


コートの中はもう私服だけど、制服のズボンをトイレで着替えてこれでやっと落ち着く。

一応春休みでも制服で登校を義務付けられてるからね。


ターミナル駅のモニュメント前で待つ。

今12:30。丁度待ち合わせ時間ジャスト。



『お待たせー♪』


声を聞くだけでご機嫌永瀬さん。

永瀬さんはさっきまで部活してた?って思えない位可愛い格好。

薄いオレンジのベレー帽に薄い茶色セーターに白っぽいフレアスカート。

ふわふわのベージュのコートを羽織っていて通行人が振り返るほどの可愛さ。


…怖い。

俺の悪い癖が出る…。

魅力的な女の子見るとなんかチカチカフラッシュバックして、悪寒、動悸、息切れ、目眩、吐き気に襲われる…魅力的なほど、距離が近いほど症状は深刻になる。

…つまり、相当に魅力的なんだよ今日の永瀬さん。


永瀬『じゃじゃーん!』


両手を広げて少しおどけて見える。

ハグしてっていう風にも見える…。


『…すっごい似合ってるけど…どうしたの?』


『そりゃ?お出かけですし?女の子として気合いもいれるでしょ?

今日は駅ビルでまったりショッピングandランチで?バレンタインのお返しに何か買ってくれるんでしょ?』


にっこり笑う永瀬綾が眩しくて俺は目を逸らす。

…逸さざるを得ない…!

ホワイトデーだからね、今日はそんな感じのお出かけショッピング?

まあ駅ビルだからお出かけって響きほど遠出じゃ無いけど。


それより永瀬さんは俺のリアクションを見て表情を曇らせる。

…やばい、良く無い。失礼に感じたかな?


『あんまり…こんな感じ好きじゃ無かったかな?

…ごめんね。』


申し訳無さそうな永瀬さん、違う!俺の問題なんだよ。


『…お、俺、魅力的な女の子が…ちょっと苦手で…前に言った…やつ。』


『…あー。わかってはいたの。

でも、せっかく初めてお出かけだからさ?ふたりきりなんてさ?

あの文化祭の出し物準備以来じゃない。』


俺カレへハンバーガーの仕入れに行った時ね。

42話 親友のバイト先へ2 参照。


『…か、可愛い女の子…苦手。』


永瀬さんは嬉しい半分、悔しい半分。

可愛いとは思ってるんだ?なんて呟いて頬を染めてるけども…。

それさらに魅力上がるからやめて?


『じゃあ…どうしたら良いの?』


『…。』


まさかだっさいコーデやぶすな格好して?なんて言えない。

強いて言えば制服…見慣れてる…?

だめ!永瀬さんスカート短め、美脚長めで脚の破壊力半端ない。


服は所詮服…そうだ、顔隠せば?

…言えるか?そんな事。



少し考えて俺は呟いた。


『…メガネ掛けよう?すっごい顔隠す位のやつ。』


『なに?宏介くんメガネ娘好きなの?』


(…嫌いじゃ無い…確かに好きかも。)


『やめよう。』


『まあまあ、印象変われば違うんじゃ無い?いこ!』


俺の袖を引っ張って駅ビルの安めなメガネ店へ引っ張る永瀬さん。

永瀬さんは嬉しそうに、楽しそうに俺を引っ張る。

引っ張りすぎ!俺の抗議に笑うばかりで耳を貸さない。


いらっしゃいませ。店員さんの声がする。


『ちょっと伊達メガネ見せてください♪』


店員さんに断り入れて店内を物色する永瀬さん。

永瀬さんはプラスチックっぽい樹脂フレームの縁が厚いセルフレームと言われるメガネフレームを何本か掛け始めた。


これどう?これは?ふふ!こんなの?


元が良いので何掛けても可愛いとしか言えない…?

そして気付く、メガネサイズ大概大きめに見える。

…永瀬綾は顔すっごい小さいんだ。初めて知った。


『これにしようかな?これならどう?』


選んだのは丸っぽい型の黒縁セルフレーム。

形状記憶樹脂性の軽くて型崩れしにくいやつ。

途中で候補の一つがまつ毛当たる!ってなったから鼻パッドが付いているタイプ。


店員さんに顔に合わせて調整してもらい、受け取る。


永瀬さんはちょっとモデルさんのようなポーズを決めて、


『じゃん!永瀬綾ver.メガネっ娘だよ!』


ばちこん。


…相変わらずウインク下手だなー…。

顔に対して少し大きめ黒縁メガネを掛けた永瀬さんは隠しきれない可愛さが漏れ出す。


『…ベレー帽深く被ろうか?』


『こう?』


『…マスクもさ?感染症怖いからしっかり。』


『こうかな?』


『コートもボタン閉めてしっかり。』


『…ええ?こうで良いの?』


鏡を見た永瀬さんは怒り出す。


『私の魅力!どこ行った!』


『…これ位素材の良さを消さないと俺…。』


『…くっ…お互い面倒な…!』


永瀬さんの魅力を完全に消す事なんて無理でさ?


JK『…あの子すっごい可愛い!モデルさんかな?』

JK『お忍びの芸能人じゃない?顔小さい!』

男『…すっげ可愛い!隠しきれて無いでしょ!』


『…永瀬さんはすごいな。』


『感心しないでー!』


でもなんとかメガネ、帽子、コートしっかりだと悪寒は少なくなる。

とりあえずこれで行く事になった。


『期末試験の勝利ご褒美なのに!なぜこんな事で苦労を…!』


『…ごめん。』


永瀬さんを駅ビルに出来たばかりのイタリアンカフェへ案内する。

ビンテージ調の店内は賑わっていて出来たばかりで注目度が高い。


『わ!良いね!私パン好きなんだよね!』


『…そう思って。』


『わかってくれてたんだ…?』


『…隣の席になって長いからね?』


俺はパニーニセット。永瀬さんはバケットにフィッシュフライとアイスティーを付けた。フライドポテトをシェアしてふたりで座って摘む。


『美味しいね!』


『…ね?』


話しは盛り上がる。

期末試験のことに生徒会のこと、二年生になったら?特進どんなかな?

話題は尽きない。食べ終わってほんのり足りないって思うけども永瀬さんは十分みたい。女の子って少食だよね…。


俺が支払い持つから先に出てて?って促してゆっくりお店を出る。

店外に出ると永瀬さんが見当たらない。

女の子は身支度にも時間かかるし気長に待とうって思って店の前の通りのお手洗いから見えやすい所で立って周りに注意を払う。


…。


…。


…!


永瀬さん戻って来た。


小さく手を振って見せてこっちへ早足で向かって来る。

さっきのマスクは外してるけども黒縁メガネとベレー帽でいつもと印象は全然違うけど十二分に魅力的な女の子だなぁって思う。

…現に周りの目をも永瀬さんに注目しちゃってる。


永瀬さんがにこやか歩み寄って来て遠目から俺に声をかけようと口を開き掛けたその時、



?『あれ?君、会ったことあるよね?』


『…は?』


?『君みたいに綺麗な娘…一度見たら忘れないよ?』


その男は男前の顔を爽やかに微笑ませて永瀬さんに笑いかける。

永瀬さんは苦笑いしてちょっと呆れ顔。


『忘れるもなにも?制服でナンパするのやめた方がいいよ?九頭くん?』


ベレー帽とメガネ外して永瀬さんは九頭をジト目で睨む。

九頭は狼狽して、進級出来たからとかなんとか言っている。

またこいつか…!俺はため息ついてふたりに割って入った。

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