第133話 努力と結果と幸せと【side三島皐月】

11:40

私は職員室前に居る。

担任から連絡が来て、職員会議結果が出たって。

…電話で伝えてくれれば良いのに、面談がてら話すから春休みだけど登校するよう指示された…。


最初に進級だよ!って言って欲しい…。

進級以外の言葉なんか聞きたく無いし、受け入れられない。

なんでもするから留年だけは勘弁して欲しい。

ほんと留年回避の為ならなんでも…。


卒業式後の数日、春休みだったけどもこの進級か留年か?ってストレスでまったく楽しく無いし、落ち着かない!

そりゃあ自分が悪いのは知ってる。でも!でも!


落ち着いて?ゆかりは少し前に担任に会ったはず。

多分私の心情を慮って結果は伝えこない。

玄関で待ってるって。


私は意を決してドアをノックする…!



☆ ☆ ☆

担任は難しい顔をして腕を組む。


担任『三島、来たか。

…職員会議で結構意見が分かれたんだよ。』


ヒュッ!って喉が鳴る。

満場一致で?三島は頑張ったから?進級させてやろう!美人だし!

みたいな?感じじゃ無いの?


『…はは、そうなんですか?』


内心はともかく先生の機嫌を損ねまいと丁寧に対応するわ。

…でも職員会議終わって結果出てるし?意味ないよね?


『それで?』


私は先を促す、

担任はまだ渋い顔で、


担任『…だからな、今後の改善を徹底させて!って先生主張したんだけど、今後じゃなくて1学期、2学期の赤点が問題でしょ?学んで理解できていないなら留年して学び直すべき!って言われてなぁ…。』


なんで!ひどい!先生言い返せ!

そう思うけど今は大人しく…、


担任『そう言った意見も多くあった。

お前が1番ボーダーラインだった。

三島皐月、進級は出来る。ただ春休みは課題漬けだぞ。

赤点を取った数、英、科学の3科目課題が出る。

新学期に提出。…もしあんまりな内容で提出すると…。』


ゴクリ、聞き返す。


『…提出すると?』


担任『…二年生になって早々評価最悪。ひょっとしたら早々に留年が決まるかもしれん。

いいか、これは脅しだ。

でも舐めてたら速攻で留年が確定する。

先日の期末試験の結果が無ければ即留年のボーダーラインだった。

本当にギリギリ、進級おめでとう三島。

今後は絶対油断するなよ?』



はは。

ははは!


『ありがとうございます!』


私は頭を下げる!

課題?嫌だよ!でも仕方ない!

進級出来る!留年回避!

ゆかりと二年生になれる!


…ゆかり大丈夫だったのかな?

私が進級出来ても、ゆかりが進級しなきゃ全然嬉しくなんか無い!


私は慌てて正面玄関へ走った!

居た!ゆかり!


制服姿のゆかりは心配そうにしているし、顔色悪い。

大丈夫?


『皐月、大丈夫だった?』


私に気付いたゆかりは慌てて聞いてきた!

私は笑顔で、


『大丈夫!ゆかりは?』


ゆかりがはーって息を吐く。


『私も大丈夫。良かった!』


ゆかりが私をギュッて抱きしめてる。

私も遠慮がちに抱きしめる。


…あの細かったゆかりは今は夏に初めて会った頃の…いや?

ひょっとしてもっと?

…でもゆかりは十分美しい。

ぽよぽよのお腹もその巨乳も、福々しい顔も私は大好き!


『良かった!良かったよ!』

『良かった!良かったね!』


ふたりで抱き合う!

こんな気持ち知らなかった!

来年度も一緒に、ゆかりと学校に通えるんだ!


私たちはふたりで帰る。

ここ最近の愚痴を言い合いながら。

駅で、ホームで、電車で、話は尽きない。

でも、今日はふたりとも限界。

緊張とその緩和でもう疲れて疲れて今日は無理!


後日ふたりでお祝いしようね?って事になった。

ゆかりが先に下車する。私は次の新川駅まで。


電車を降りた。

なんだろう?世界が明るく、輝いて見える!



短期間だけども一生懸命に勉強して、励まし合って、助け合って、目標を設定してそれを努力でクリアーする。

なんて嬉しい、自己肯定感!こんな気持ち初めて…!

ひとりじゃない、大切な人と一緒に努力して勝ち取る喜び!



…?


ディジャブって言うのかな?既視感?

私はこの感覚初めてじゃ無い…?


なんだ?気持ち悪い。

…大事なことを忘れていたような気持ち…?


いつだ?いつこんな気持ち?



☆ ☆ ☆

在りし日のふたり。


約一年前。北翔高校合格発表。


あった!受験番号あった!

張り出しと同時にネットの合格発表でも確認!私も宏介くんも合格!

宏介くんが上気して笑みを浮かべて私を褒めてくれる…!


宏介『…皐月、頑張ったね!苦手な理数系克服したね?』


私は嬉しくて泣きそう!いや、泣いていた。

本来北翔は私にはちょっと厳しかった、でも宏介くんと一緒の高校に行きたい!その一念だったの。


『宏介くんが、宏介くんが自分の時間割いて教えてくれたおかげだよぅ…!』


『…皐月の成績だと、本来北翔は厳し目だった、それをよくぞここまで。

…ほんと頑張ったね、皐月。』


『…宏介くん!宏介くん!』


私は宏介くんに抱きついた!

宏介くんは真っ赤になって抱き締めてくれた…。



これからどんな高校生活があるのだろう?

一年後、どんなふたりになっているのかな?

これで来年も一緒の学校へ行けるんだね!




…確か初めてキスをした次の日だったっけ…。


☆ ☆ ☆

フラッシュバックする約一年前の記憶。

忘れたわけじゃない、でも目を逸らしてた記憶。


私はこの感覚を知っていた。

大事な人と一緒に努力して、協力して、目標を達成して喜びを分かち合う幸せを、その達成感を。

未来を楽しみに思えるふたりの関係を。


…私は宏介に教わっていたんだ。

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