第116話 一ノ瀬先輩の誘い

2月末、放課後屋上。


差堀見て起こった笑いの発作が落ち着いた一ノ瀬先輩。


一ノ瀬『やっと落ち着いた、失礼したね。』


『…いえ。』


一ノ瀬『初めましてだから簡単自己紹介。

一ノ瀬 司イチノセ ツカサ二年生、生徒会の会長させて貰ってる。

よろしくね?』


『斉藤宏介です。新川中出身でバスケ部に所属してます。

よろしくお願いします。』


軽く会釈してくれたから、俺も会釈する。

一ノ瀬先輩は有名人。

学校1の秀才で成績優秀で冷静沈着、品行方正。

運動神経も良いはずだけど勉強に力入れてるから部は入っていない。

評判の良い先輩。

貴公子なんて言われる品の良さと色素薄い色白な優男で、女子人気もすんごい高いけど彼女は居ない。

…定期的に永瀬さんと噂が出る人だね。


一ノ瀬先輩は少し微笑みながらメガネ位置を直して俺に目を合わせて言う、


『斉藤宏介くん、君の事色々調べさせて貰ったんだ。

…学業優秀で、バスケ部は未経験で入部だが冬にはほぼスタメンで県ベスト8まで勝ち上がる原動力になった…しかも大差で負けてても気持ちが折れなかった。

…文化祭でも実行委員でクラス優秀賞だったね?ハンバーガーショップ。』


『…はい。』


それ位調べれば出ちゃうよね。

なんで?なんで俺を調べる?


一ノ瀬『ちょっとセンシティブな内容だけど…幼少期吃音もあったんだね。

…睨まないで?…僕も子供の頃内気で人と全然話せなかったりして、ちょっと幼少期には思う事あってね。

君は努力して今は克服したし、学業も部活も成功している。

…かつ、そう言う過去の痛みや弱点もわかる人だって思った。』


『…。』


きっとこの人は俺が高校に入ってからの2人の女の子との事も知ってるんだろうってわかった。

わかってるだろうけども全くそこには触れない。

…疑問は繰り返す、なんでだ?


先輩はあっ!って顔して申し訳無さそうに、


一ノ瀬『すまない、悪い癖出ちゃった。

探り入れながら話すから警戒されちゃったよね。

用件は生徒会の勧誘。

無口だけど努力家、文化祭で企画力や実行力も見せて貰った。

生徒会興味無いかな?』


…本当に勧誘だけかな?

知性と油断ならなそうな気配。


一ノ瀬先輩は続けて申し訳無さそうに、


一ノ瀬『…僕こう言う値踏みする言い方が癖でね?

綾ちゃんとか他の役員に、『悪役メガネ』とか『腹黒メガネ』とか言われちゃってね…。

役員がよく喋る女子ばかりだから、男子であまり我の強くないしっかりした生徒が欲しい。それで君を誘った。』


微笑みながら、引き込まれてしまいそうな笑顔で誘われる。

…でも。



『俺、今部活と勉強でいっぱいです。

申し訳ありませんが?』


悪い人…では無い気がする。

悪い人ぶってる感じ?

でも笑顔や話し方は魅力的で誘い方にも誠意を感じる。

人を見通すなんてお世辞にも言えないけどこの人は敵で無い気がする…?



一ノ瀬『…正直君のことは綾ちゃん…いや永瀬さんからよく聞いててね?』


一ノ瀬先輩は優しく笑いながら話し出した。

勧誘は終わったから私語!って雰囲気。



一ノ瀬『よく話すんだ綾ちゃん。

…あ!綾ちゃんって言ってたの秘密で。

癖で言ってしまうんだ。名前で呼ぶな!って毎回怒られててね?』



『…そうなんですね。』


一ノ瀬『よく僕とあ…永瀬さんの噂が出るのは知ってる。

…僕と永瀬さんはね?いわゆる幼馴染ってやつ。

親同士が友人で幼稚園からお互い知ってる。綾ちゃんはその名残。』


『…。』


綾ちゃんって言っちゃうな?よくない。

一ノ瀬先輩はそうだ!って顔で。


一ノ瀬『彼女モテるでしょ?昔から無防備なとこあって?男の子の視線集めちゃって?何故かちょっと変な男に刺さるらしくってさ?

僕もそう見られるんだよ。

小ちゃい頃の彼女は赤面する癖があって?すっごい可愛かったんだよ。

…だから『小さい頃の綾ちゃんこそ至高!』みたいな事言ったらさ?

僕のアンチに、

『永瀬綾に言いよるダメ男のひとり!』とか『ロリコン疑惑!』とか言われてね?』



困ったように微笑一ノ瀬先輩。

また、あっ!て顔して



一ノ瀬『!!

初対面で先輩なのにごめん。

斉藤くんは人に話しさせちゃう空気を持ってるね?

穏やかで人を信頼させる何かがあるね。

また話ししたいな、何かあれば生徒会室を尋ねてくれたら嬉しい。』


『…はい。』


先輩は握手を求める。

俺は差し出された手を握り返す。


一ノ瀬『綾ちゃんは、君を信頼してるし、すごく気に入ってる。

…幼馴染としても変な男にいつも言い寄られてて?間違って変な男に引っかかる位なら君みたいなしっかりした男が彼氏の方が安心出来るんだ。』


慌てて言う、


『…ええ?!何言ってるんですか?先輩!』


一ノ瀬『はは!幼馴染の意見だよ?

もしその気なら相談してくれれば生徒会で推すよ?』


『…今はちょっと…。』


俺はまた色々ぶり返す。

先輩も、


一ノ瀬『これ以上余計な事を言うと僕も締められるから?

またね、斉藤くん。

今日は話せて良かった。』


『…はい。』


初めて一ノ瀬先輩と話した。

噂だと永瀬さんと同中で、ずっと永瀬さんにアプローチしてるって噂だったけど…噂より気さくで幼馴染癖が抜けて無いって感じに見える…。

でも中学時代の承の宿敵の外町なんかは人当たり良い陽キャで裏では足引っ張りまくりの謀略三昧みたいだったし、まだわからない…。

俺人を見る目に自信無いぞ。


そしたら一ノ瀬先輩戻ってきた、


一ノ瀬『今日会った事は言って良いけど僕が余計な事言ったのは秘密で!

…綾ちゃん僕の弱点もマルっとお見通しだから色々まずい、よろしく頼むね?』


…うーん、いいひとに見えるんだよなぁ。






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