第6話 最後に会いに

そうして、放課後待ち合わせ場所の皐月の家の近所のコンビニへ向かう。

(そう言えば、人目がある所の方が…って失礼だよな。)



少し憤っていると予定より5分遅れで皐月が来る。

何か持ってるけど夕方でよく見えない。


皐月は面倒くさそうに、

『ふう、気が乗らないけど、こうゆうのは早く済ませる方が良いよね。』


『…。』



ここ2回の会話で思い知ったけどもうかつての皐月とは違う。

可愛くなって、セクシーだけど俺が知ってる、いや知ってた皐月とは違う。

俺の目的は、わずかに残った感謝を伝えること、できたらもう関わらないこと。このふたつだけ。



また嫌な事言われるかもだけど話をする気があるから呼び出したんだろう?

出来ればあれで終わりでは無く、もう少しだけでも綺麗に別れたい。



ふたりの間には緊張感がある。

皐月はこっちをじっと見ている。俺は皐月の顔を見れない…。

…おかしくないか?俺は恥入るような事はして無い!

胸を張れ!目を見ろ!

初カノとの別れで、目も見ないで終われるか?!


正直、もうトラウマになりそうな程皐月に苦手感が出てる。

逃げ出したい!これも本音。

そんな時思い浮かぶのは親友の姿。

こないだも卒業式の時以外では俺の理想とする義に厚く勇敢で優しい漢。

俺も、ああでありたい、行動で示したい。



臆するな、どうせ傷つく様な事を言われる!期待するな!



皐月は言う、


『別にこないだ言ったことは本当に思ってる事だから?別に謝ったり、撤回する気は無いよ?』


だろうね。

もう人が変わったって思った方が良いって事はわかってるんだ。

それでも変化が悲しい。



皐月『あんたさあ、私は香椎玲奈にはなれないしなる必要はないって言ってたけどさ。見てて絶対あの程度超えるから!』



そんな事言ったような?

高校入学時あたりかな?異常に香椎さんを意識してる皐月は異常だった。

でもそれは『あの』香椎玲奈と比べる必要ないし、皐月は皐月でそのままで良いって意味で言ったのに。

…でも、もう良いか。



『皐月は皐月で良いって言ったんだけど意味ないんだろうね?』



皐月『いつまでも親友(笑)と遊んでればいいと思うよ?ぷふー!』


瞬間的にキレそうになる。


『皐月!承は関係無いだろ!承の悪口は言うな。』


皐月はちょっと怯んで、呼びつけにされる筋合いは無いって怒り出す。

お前だって宏介って呼びつけじゃないか。

俺だって怒りたい!でも最後だろうからそんな悲しい別れにしたく無い。



少し間をおいて落ち着きを取り戻す。



皐月『まあ、急に言いすぎたとは思ってるのよ。

宏介には急な話だっただろうしね?』


しんみり言う皐月。

この3日で一番まともな気がする。


俺は少しだけ思い出を語ろうとするが、



皐月『もう、興味無いしむしろ過去は消してしまいたいのよ。』



本当に変わっちゃったんだね。

でも今の雰囲気なら最後にお礼言えそうな気がする。



最後に言わせて欲しい、どうぞ?ってやりとりがあって

少しだけふたりの思い出を語った。言葉少なだが一応相槌打って聞いてくれた。





『俺にとって皐月は初彼女で、色々至らなかったけど、本当に好きだった…。

ありがとう、大好きだったよ。』



黙って聞いてくれた。それだけで良い。


皐月『じゃあ、私も最後に。』



この雰囲気ならそこまで罵倒される事はないだろ?






皐月『一部、私と宏介が付き合ってたって知ってる人がいるわよね?

そんなに多くは無いけど私も言っちゃったのよ。


…そうすると山本くんとの交際期間が辻褄合わなくなるでしょ?』



は?そりゃそうだろ?

皐月が遊び回って浮気したんだから!



皐月『だから!もっと前に!円満に別れたって事にして欲しいの!

宏介の有責で!』



『は?なんで?浮気したんだから皐月が悪いでしょ?』



皐月『そうなると私と山本くんが悪い風に思われちゃうでしょ!

大体!別れるカップルなんて男が悪いに決まってるのよ!

離婚だって大体奥さんが慰謝料もらってるじゃ無い!』


いやいや。


『…離婚時の有責配偶者が慰謝料払うに決まってるだろ!

浮気や暴力離婚事由を作った方が有責なのは間違いないでしょ。』



皐月『は?私が悪いって言う訳!信じらんない!

さっき大好きだったよ!って言った口で私を責めるんだ!』


いやいや、浮気したんだからねえ。

…ここまで?

もう違う意味で悲しくなってきた…。


皐月『まあ、良いわ。

あまり心象悪くして恨まれるのも怖いし。

不必要に私たちの別れと山本くんと付き合ってるって言いふらさないで頂戴。』



(さっきの言いようだと悪い噂か自分達に都合の良い噂広めそう…?)

少し冷静になったからなんかピンときた。気をつけよう。



俺の思案をよそにそう言うと皐月は持ってきた物を俺に差し出す。



…?



なんだこれ。



それは、今まで俺が送ったプレゼントや思い出の品。

それを適当な袋に詰めて俺に渡す。


は?




皐月『ただでとは言わないから!今まで貰ったの返すから!

あはははははは!』



わかった。いや、わかっていなかったんだな。

俺の愛した皐月はもう居ないって。

スンってテンションが下がる。



俺は丁寧に礼を言い、袋を受け取る。

バカにしてた皐月は俺がにこやかに袋を受け取った事を訝しげに見つめると別れを告げた。


『うん、じゃ。』


皐月『ふふん!強がっちゃって!』



はっきりわかった、違う生き物なんだって。

自分からは何もする気はないけど、もし何かされたら容赦しない。

まだ心は痛いし、引きずるだろうけどきっとすぐに立ち直れる!


親友の承は自分を変える為にアルバイトを始めた。

俺も親友にように変わらなければならない。

絶対に、俺を笑い物にした皐月を見返す!

そう誓った高一の初夏だったんだ。

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