第3話 都合の良い思い出と新たな現実

目覚めは最悪だった。

産まれてこのかたこんな気持ち悪い、不愉快な目覚めは初めてだ。



スマホを確認する、やっぱり夢じゃないよな。

俺は昨日、ずっと付き合ってた皐月からバカにされながら別れを告げられ、親友に助けてもらったんだ。



2階の自分の部屋から1階のキッチンへ向かう、


母『宏介!あんた顔色悪い!

今日学校休みなさい!』



きっと親友の承が何か言ったんだろう、でもありがたい。

今は説明する気力なんて無い。

部屋で寝てな!ご飯持って行くから!


部屋のベッドで横になってると、母さんがご飯を持って来てくれた。

…朝にしてはボリューム多くないか?

しかも俺の好きなものばかり。


はあ、ため息が出てしまう。

父さんまで具合はどうだ?なんて明らかに心配してる。

家族に心配かけちゃったな。



午前いっぱい部屋でゴロゴロウジウジしていた。

母さんがパートに出かけた隙に家を出る。

火曜日の昼すぎ、辺りに人は居ない。

家の前の中学校を目に入れないように、歩き出す。

どこに行くでもない。

気の向くまま歩くと小学校に着く。

そのまま足を伸ばすと西エリア。

皐月の家や時々一緒に歩いた河川敷公園がある。

…西エリアへは行きたくない…。



高校生が昼間っからぷらぷらしてるのはあまり見た目が良くないけど歩きたい気分。

小学校の外周を歩く。

小さい頃の俺や承、もうひとりの親友だった奴が走り回っている光景が思い浮かぶ。



小学校の横には幼稚園がある。

小学校と幼稚園の間の道を歩いて、駄菓子屋方面に抜けて家へ帰ろう。



散歩してても思い浮かぶのは皐月の顔、顔、顔。

ボーってしてると、




『こうすけくん!こうすけくーん!』



親友の承の年の離れた弟の光くん。通称ひーちゃん!

幼稚園の柵越しに少し話す、



『ひーちゃん!幼稚園に入ったんだっけ?』


『そうだよ!チューリップくみなんだよ!』


こないだまで赤ちゃんったのに…。

俺、承の妹と弟を可愛がっていて、会うたびお菓子をあげるからどっちも懐いてくれてる。可愛い。



ひーちゃんにバイバイしてのんびり家へ帰る。

夕方の交差点、去って行く皐月の後ろ姿の幻が見える。

人々が歩き交わる夕方の交差点で俺は立ちつくす。



あそこまで決別してはもう修復なんて出来ないだろう…。

俺はこう思った!皐月がこうして欲しかった!

そんな自分の真実、本当の気持ちをぶつけ合っても何にもならないのは俺にだってわかる。




この思い出から旅立たなきゃいけない。

それは頭ではわかる。

辛いけど綺麗な思い出を抱いて歩き出さなきゃいけない。

頭ではわかる。

君が好きすぎて、キスまでしか出来なかった。

大事にしていた、大事にしすぎていたのかな?




交差点でずっと立っててもしょうがない。

俺は家路に着く。



家に近づけば当然隣の中学校が見えてくる。


『…っく。』


中学校の前を通れば声にならない悲鳴にも似た声が自分の口から漏れる。

理由の無い、熱い涙が出てくる。

自分で作ったアルバムのように綺麗な思い出、楽しかった思い出が再生される。

あんな事あったな、こんな事で喧嘩したっけ、あの時はあわてたなあ。

思い出は綺麗で、甘くって、愛おしい。

それを思い出すたびに胸がズキンと痛くなる。苦しくなる。




いつか俺は親友に行った。

『俺の部屋の窓の外はすぐ中学校で。

良い思い出が多ければ窓を開けるたびに幸せな気分になるし、辛い思い出が多ければ窓なんて開けたく無くなるって。』



本当は親友に中学校生活を楽しい良いものにしようぜ?って意味だったけど…本当だったよな。


後輩たちに見られたくもない。

俺は自分の部屋へ逃げ帰る。




俺が悪いんだ。

皐月が悪い。

寝取ったあいつが憎い。


この三つがせめぎ合い、混じりあい、色んな色が見えてくる。


俺が悪いから皐月がNTRれた。

寝取ったあいつが悪くて、皐月が騙された。

皐月が変わってしまったから寝取られた。



ぐるぐる、回り続けるけど結論は出ない。

気づけば夜になっていた。


こんな顔を家族に見せると心配されちゃうよ。

我慢して普通の顔をして夕飯食べて、さっさと寝ちゃおう。



嫌な事ばかり思い出す。しんどい夢を見て目が覚める。

当日だった昨日より長い長い夜を過ごして、俺は高校へ向う。


最寄り駅から約20分。

皐月とは入学当初は駅で待ち合わせて一緒に通学していた。

5月にはなんのかんの理由を付けられて一緒には通っていなかった。


それでも、仲が良かった頃の俺と皐月が笑い合ってるような幻が見える。

笑って電車を待った朝、デートに出かけるけどバレると恥ずかしいから少し離れて電車待ってたのに気づいたらどんどん近くに寄ってた事。手を繋いで登校した初めての日。

思い出は甘く、優しい。そして残酷。



だけど、こんな時に限って、駅のホームに皐月が居た。

あんなに一緒に通学したいって思ってた時には会わなかった皐月が。

しばらく顔を見たくないって思ってる今日に限って皐月が…。


俺はとっさに動けない。

皐月が顔を動かした、俺と目が合った。




















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